・用途発明の進歩性違反通知
・新規効果(用途)の発明は、先行文献調査が一層大切。
・既に抗うつ効果が示唆されているラフマ葉エキスの効果を公知の手法により確認したにすぎない。
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-64969(P2019-64969A)
(43)【公開日】平成31年4月25日(2019.4.25)
(54)【発明の名称】入眠・睡眠維持改善用組成物、ストレス低減、リラックス向上用組成物、パフォーマンス、集中力向上用組成物、及び、休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド化合物であるヒペロシド、イソクエルシトリンを4~10%含有するラフマ葉抽出物を有効成分とし、1日当たりの前記ラフマ葉抽出物の摂取量が40mg以上100mg以下の範囲である、作業によるストレス低減、リラックス向上用組成物。
(以下省略)
拒絶理由通知書
適用条文 第29条第1項第3号(新規性)
第29条第2項(進歩性)
この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。
理 由
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又 は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を 通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技 術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもので あるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
●理由2(進歩性)について
・請求項 1-7
・引用文献等 1-3
・備考
文献1には上述した発明が記載されている。
文献2にはうつ病が回復すると、倦怠感、疲労感が消失し、意欲、不眠傾向が改善される旨が記載されている(図1)。
文献3にはうつ病患者に対し内田クレペリン精神検査を実施したところ、後期作業料の下落や後期初頭の出不足、誤答の多発など不健康を伺わせる波形を示すが、復職に向けたリハビリテーションの導入を試みた事例では、後期作業量の上回り等、健康度の回復を裏付ける結果を示した旨が記載され、内田クレペリン精神検査は休業や服飾判定に際して、病状を把握するツールとして有効である旨が記載されている(要旨)。
文献3に記載の内田クレペリン精神検査は内田クレペリン作業検査に相当する。
文献1にはラフマ葉抽出物の作業によるストレス低減作用や、リラックス向上、パフォーマンス、集中力向上、休息の効果向上、疲労回復促進作用については具体的には開示されていない。
しかし、文献2に記載されるように、うつ病からの回復には倦怠感、疲労感の消失が含まれるので、作業効率の向上や、集中力、パフォーマンスの向上が含まれる。また、神経衰弱、うつ、不安が解消され、睡眠が改善されれば、休息の効果が向上し、疲労回復が促進されることも当然予測できたことである。
また、文献1に記載されるように、ラフマ葉抽出物はリラックス効果を有することが知られており、リラックスすることにより、ストレスが低減されることは当然である。
したがって、当業者であれば文献1に記載のラフマ抽出物を、ストレス低減や、リラックス向上、パフォーマンス、集中力向上、休息の効果向上、疲労回復促進のために使用することは容易に想到し得たことである。
そして、文献3に記載されるように内田クレペリン作業検査はうつ病からの回復判定に用いることが示唆されているので、本願発明が内田クレペリン作業検査によりパフォーマンスや集中力の向上を確認したことは、既に抗うつ効果が示唆されているラフマ葉エキスの効果を公知の手法により確認したにすぎない。
したがって、請求項1-7に係る発明は、文献1-3の記載に基づき当業者が容易になし得たものである。
感想
青文字部が気になってメモしていた公報でした。食品や化学分野でよくみられる用途発明についての出願です。今まであまり触れてこなかった領域なので、興味深く読むことができました。
「既に抗うつ効果が示唆されているラフマ葉エキスの効果を公知の手法により確認したにすぎない。」と評価しているところからも、新規効果(用途)発明では、先行技術調査がとても重要ですね。同じ効果を訴求する文献が見つかると、その後の補正はなかなか難しそうです。
ところで、この後は下記のように補正がされています。
【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】 ラフマ葉抽出物を有効成分とし、1日当たりの前記ラフマ葉抽出物の摂取量が40mg 以上100mg以下の範囲である、休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物(うつ病患者 に投与する医薬品組成物を除く。)。
【書類名】 意見書
(省略)
すなわち、引用文献1には、いずれの結果においても、リラックス、不眠、うつ等の改善を示唆しているにすぎず、特にリラックスに関しては単独でさえ統計的な有意性を主張しきれておらず、本請求項でいう「休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物(うつ病患者に投与する医薬品組成物を除く。)」についての効果については記載も示唆もありません。
また、引用文献2には、うつ病が回復することによる倦怠感、疲労感の消失の記載が、引用文献3には内田クレペリン精神検査についての記載があります。
しかしながら、引用文献2、3においてもうつ病の回復に関する記載のみであり、うつ病による機能回復を確認しているにすぎません。
これに対し、本請求項に係る発明は、うつ病患者以外の者、そもそも機能が低下していないいわゆる健常者に対して効果を発揮することができるものであり、その作用機序は異なるものと思料します。うつ病に罹患している者に常に付きまとう倦怠感等がうつ病から回復する場合に解消されていくのはうつ病を原因として発生している種々の現象がうつ病の回復により存在しなくなるからである一方、本請求項に係る発明は、うつ病による原因が存在しないすなわちうつ病による原因とは関係なく、休憩の効果向上、疲労回復促進を行うことができるものです。すなわちその作用機序については異なるものです。そのため、うつ病に投与される医薬品組成物とは重複する可能性を除外しております。
以上の通り、本請求項については、引用文献1乃至3に基づいてもいわゆる当業者が容易に想到できたものではないと思料いたします。
「うつ病患者を除く」補正で対応されていました。こういう対応の仕方をするんですね。とはいえ、なかなか厳しい主張のような気がしますが、この分野に馴染みのある方はどう感じるのでしょうか?
本出願は最後まで見守ろうと思います。
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