【情報提供】ライバル企業の出願を進歩性無しで拒絶査定にするためのノウハウ

学ぶシリーズ

はじめに

備忘録として私の考えをまとめたものです。内容には誤りがあるかもしれません。

他社出願中特許を拒絶査定にするために行う情報提供において、進歩性無しを審査官に認めさせるためにどのようなことを考える必要があるかをまとめています。

情報提供制度の基礎的な事項は特許庁のHPにまとめられています。

情報提供制度 | 経済産業省 特許庁

進歩性の判断フロー

進歩性有無の判断の仕方は特許庁が公開しています。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf

チャートにしたら下のようになります。

小山特許事務所HPより引用

進歩性無しを主張するには、
1 適切な主引例発明、副引例発明を設定すること
2 主引例発明に副引例発明を適用するための動機付けがあることを4つのポイント(技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆)の出来るだけ多くの点で説明すること
が重要になります。

加えて、
3 主引用発明からの設計変更等
4 先行技術の単なる寄せ集め
を追加で主張することで、審査官に採用されやすくなると思います。

体感ですが、主張としては2が最も強く4が最も弱いです。
実務で情報提供する場合は2をベースにし、3の観点でも指摘をした刊行物等提出書を作成できれば、審査官に採用してもらえる可能性は高まると思います。

審査状況と情報提供の内容

情報提供する内容は審査状況も踏まえて考える必要があります。大きく、「最後の拒絶理由に対する補正」に情報提供する場合と、「それ以外(主に審査請求後、拒絶理由通知が出る前)」に情報提供する場合です。

「最後の拒絶理由に対する補正」に情報提供する場合

これは拒絶査定にするための情報提供です。「前回の拒絶理由が解消していない」ことを審査官に認めさせることを考えます。そのため前回の拒絶理由・補正書・意見書を読み込む必要があります。

例として、特開2022-085767の審査で考えてみます。

例:特開2022-085767

前提条件

●出願時の請求項(独立項のみ抜粋)
【請求項1】
 発泡成分、セルロース誘導体、及びカテキン類を含有することを特徴とする、発泡性顆粒。

●拒絶理由の内容(請求項1部分のみ)
・引用文献等 1
・備考
 引用文献1には、緑茶抽出物、ビタミン、炭酸水素ナトリウム、ポリビニルピロリドンを含む、発泡性組成物を形成する顆粒水溶性製剤の発明が記載されている(特に、請求項1、10、21、[0042]実施例2)。ここで、段落0019に記載されているように、炭酸水素ナトリウムは発泡成分である。
 請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、前者はセルロース誘導体及びカテキン類を含むと特定されているのに対し、後者にはそのような記載がない点で相違する。
 これらの相違点について検討する。

 まず、カテキン類を含む点について、例えば段落0004に記載されているように一般的に緑茶抽出物にはカテキンが含まれており、段落0026に記載されているように顆粒水溶性製剤はカテキンを放出するものであるところ、引用文献1に記載された顆粒水溶性製剤はカテキンを含有すると解される。したがって、この点は実質的に相違点ではない。
 次に、セルロース誘導体を含む点について、引用文献1の段落0029に記載されているように、引用文献1に記載された発明において、ポリビニルピロリドンは結合剤として水溶性製剤中に含有させており、この段落には、結合剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体を含む公知の潤滑剤も等しく使用できることが記載されている。そうすると、引用文献1に記載された発明について、ポリビニルピロリドンにかえてセルロース誘導体を結合剤として用いることは当業者が適宜なし得ることである。そして、本願の発明の詳細な説明を参照しても、セルロース誘導体を含有させたことによって当業者が予測できない顕著な効果が奏されるとはいえない。

したがって、請求項1-5に係る発明は引用文献1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
1.特表2003-503324号公報

●補正後の請求項
 【請求項1】
 発泡成分、セルロース誘導体、賦形剤、及びカテキン類を含有し、 前記賦形剤は、非水溶性であることを特徴とする、発泡性顆粒。

●意見書
3-3-1.理由1(進歩性)について
(本願発明1について)
 まず、本願発明1と引用文献1に記載された発明を対比しますと、以下の点で少なくとも相違します。

<相違点1>
 本願発明1は、「非水溶性である」「賦形剤」を含有するのに対し、引用文献1に記載された発明は、非水溶性の賦形剤を含有していない点。

<相違点2>
 本願発明1は、「セルロース誘導体」を含有するのに対し、引用文献1に記載された発明は、セルロース誘導体を含有していない点。

 まず、上記相違点1について検討しますと、引用文献1に開示された発明は、その課題を「液状で投与できる濃縮緑茶抽出物を含有する天然産物製剤を提供すること」とし、いずれもその発明の名称は、「固体水溶性製剤」(請求項1~22)、又は、これら「固体水溶性製剤」を「混合した成分を圧縮して顆粒状または錠剤状」にした発泡性錠剤(請求項22)です。さらに、段落0021には、「製剤は水中にそれを配することにより使用され、それが実質的に分配され溶解されるまで待つ。この製剤が実質的に分配され溶解されるようになることにより、利点のある抽出物成分が解き放たれ消費時に身体に一層利用できるようになる。」と記載されています。即ち、引用文献1に記載された製剤は水溶性であることが求められ、服用時には水に溶解させた状態で服用することを前提としておりそれにより、バイオアベイラビリティを向上させることを目的とした発明であることがわかります。
 それを裏付けるように、有効成分以外の具体的に開示される成分は、炭酸水素ナトリウム、無水クエン酸、ポリエチレングリコール6000、ポリビニルピロリドン、いずれも水溶性です。そして、「非水溶性である賦形剤」について何ら記載も示唆もありません。
一方、有効成分としては、例えば、審査官殿が説示された「油溶性ビタミン」等は、非常に微量な含有量であり(最高で数百μg)、製剤としての水溶性に影響を与えるものではありません。
 他方、本願発明1は、「非水溶性である賦形剤」を含有していることを特徴としています。ここで「賦形剤」とは、例えば、「医薬品の製造および最終製品の物理的性質を制御するために使用される非有効成分」(European Medicines Agency-Excipients)と定義され、錠剤やカプセルの形を成形したり、特性を変えたりするものです。一般的に賦形剤は、その製剤の物理的な性質を変えるために約1%~数十%添加されるもので、製剤全体の水溶性には少なからず影響を与えることになります。
 してみると、引用文献1に記載された、水に溶かすことを前提とした水溶性製剤の発明を見た当業者が、「非水溶性である賦形剤」を採用して、本願発明1の構成に想到することには、水に溶かすことを大前提とした引用文献1の発明が成立しなくなることに鑑みると、阻害要件がある、と思料します。
 そもそも、本願発明1の課題は、「保存安定性が改善された発泡性顆粒又は発泡性錠剤を提供すること」であり、保存中の炭酸ガスの発生を抑制することを目的とするもので、引用文献1の前記課題とは全く異なります。そして、引用文献1との共通点は、カテキン類を含有する発泡性製剤、という点のみです。してみると、本願発明1の「非水溶性である賦形剤」を採用する動機づけがありません。
 そうすると、引用文献1から本願発明1の「非水溶性である賦形剤」を含有する構成には容易に想到するものではない、と思料します。

 次に、相違点1の効果について検討します。まず、本願発明1の実施例4~6に着目すると、水溶性の賦形剤(エリスリトール、マルチトール)を添加した実施例4、5に対して、非水溶性の賦形剤(結晶セルロース)を添加した実施例6は、炭酸ガスの発生が顕著に抑えられ、15時間保存後の膨張量が0となっています。
 即ち、本願発明1は、非水溶性の賦形剤を含有しない引用文献1と比較して、非水溶性の賦形剤の添加により、顕著な炭酸ガスの発生抑制という有利な効果を有します。
 また、引用文献1には、発泡製剤の保存安定性について、ましてや炭酸ガス発生抑制については、なんら着目しておらず、記載も示唆もないことから、当該効果は異質なものであり、出願時の技術水準に基づいて当業者が予測できた効果ではありません。

 次に、相違点2について検討しますと、引用文献1には、請求項8、段落0029には、その他の結合剤として、「カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース」等のセルロース誘導体が列挙されております。しかしながら、その実施例においては、結合剤としてポリビニルピロリドンのみが使用されており、セルロース誘導体が使用された実施例は開示されておりません。

 次に、相違点2の効果について検討しますと、ポリビニルピロリドンとセルロース誘導体は確かにバインダ―としての用途は共通します。しかしながら、その基本構造や物性は大きく異なるものであり、ポリビニルピロリドンに替えてセルロース誘導体を使用した場合の本願発明への効果も異なることが予想されます。そして、本願実施例においては、セルロース誘導体を含有する実施例が、顕著な炭酸ガスの発生抑制を有することが示されています。また、この顕著な炭酸ガスの発生抑制の効果については、引用文献1には、記載も示唆もされない効果です。

 したがって、本願発明1は引用文献1に記載の発明から、当業者が容易に想到できたものではありません。

4.結論
 以上のとおり、補正後の請求項1~4に係る発明は、特許すべきとの査定を十分受けることができるものであると思料いたします。

情報提供する内容の検討

本件について情報提供する場合、審査官は相違点として引例には(あ)カテキンがないこと、(い)セルロース誘導体がないことの2点を挙げており、(あ)は実質的に相違点はないこと、(い)は引例ではポリビニルピロリドンを使用した実施例があり、明細書中で結合剤としてポリビニルピロリドンのほかにセルロース誘導体が記載されている。したがって、実施例のポリビニルピロリドンをセルロース誘導体に置き換えることは当業者であれば容易に想到しうるため進歩性がない、としている。

これに対し、出願人は意見書において

<相違点1>
 本願発明1は、「非水溶性である」「賦形剤」を含有するのに対し、引用文献1に記載された発明は、非水溶性の賦形剤を含有していない点。

<相違点2>
 本願発明1は、「セルロース誘導体」を含有するのに対し、引用文献1に記載された発明は、セルロース誘導体を含有していない点。

を挙げて、それぞれについて進歩性があることを指摘しています。
進歩性の主張は進歩性判断フローに従い、技術分野の共通性がなく動機付けがないことや阻害要因があることを主張しています。

まず考えることは相違点2について、出願人の主張に突っ込みどころがないかを詰めることです。
相違点1は補正により生じた相違点なので、いくらここを詰めても拒絶理由は通知されます。拒絶査定にもっていくには相違点2で依然として進歩性が認められないことを審査官に認定させる必要があります。

相違点2について出願人の主張を見てみると、審査官が動機づけがあるため進歩性無しと判断したことに対し、根拠を示したり、阻害要因があることを主張しているわけではありません。つまり、進歩性が肯定される方向の主張がかなり弱いです。

ですので、例えば、副引例発明として、「顆粒や錠剤の保存安定性(本願発明と同一の課題)の記載があり、結合剤としてセルロース誘導体を使用している」特許文献を探すのが良いです。そして、主引例発明を前回の拒絶理由の引例とし、「主引例発明と本願ではポリビニルピロリドンが相違点であるが、主引例のポリビニルピロリドンの代わりに副引例のセルロース誘導体を使用するのは当業者であれば容易に想到しうる」ことを情報提供し、審査官に相違点2の進歩性無しは解消されていないと認定させることができれば、拒絶査定にもっていくことができます。

実際の拒絶査定でも、相違点2は進歩性が認められないとして拒絶査定になっています。

ひとりごと

情報提供する際の備忘録としてまとめました。ご意見などあればぜひコメントください。

・・・なお、出願人はカテキンについて何らかの補正をしたり意見書で主張をするべきだったと思います。審査官は「本願のカテキン、引例の緑茶、緑茶にはカテキンが含まれるからこの点で相違点はない」としています。本願の実施例で緑茶エキスを使用している点で厳しいですが、例えばカテキンの配合量を限定したり、引例と引例を除く補正などすればもう少し粘れて権利化の芽は見えたかもしれません。

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学ぶシリーズ拒絶理由通知・意見書
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