【知財戦略】エビデンスのタダ乗りを防げ!なぜあのお茶は独占的なのか?~トクホと機能性表示食品から読み解く「食品用途特許」の裏側~

こんにちは!普段は企業知財部で化学・食品分野の特許と日々格闘している筆者です。今回は、誰もが毎日通う「コンビニ」をテーマに知財の裏側を覗いてみましょう。

コンビニの飲料棚に行くと、「体脂肪を減らす」「睡眠の質を向上する」といったキャッチコピーがズラリと並んでいますよね。ここで皆さんが目にするのが「トクホ(特定保健用食品)」と「機能性表示食品」です。 「どっちを選べばいいの?マークや届出番号って何?」と迷う一般消費者の方も多いはず。この棚はまさに「知財戦略の激戦区」なのです。

今回は、この2つの制度の違いを入り口に、2016年の特許庁審査基準改訂で一気に重要度を増した「食品用途特許」の役割を解き明かします。


トクホと機能性表示食品、制度の違いをサクッと解説!

まずは、一般消費者向けに2つの制度の違いをわかりやすく解説します。

  • トクホ(特定保健用食品)は「国のお墨付き」 パッケージにあの「背伸びをしているような人」のマークがついているのがトクホです。これは消費者庁長官の「個別許可」を受けた証拠であり、国のお墨付きを意味します。効果を証明するために多額の費用と期間をかけてヒト臨床試験を実施する必要があり、企業にとっては非常にハードルが高い制度です。
  • 機能性表示食品は「企業の自己責任」でスピーディー 一方、「届出番号〇〇」と小さく書かれているのが機能性表示食品です。こちらは国による個別審査はなく、企業の自己責任で機能性を表示します。最大のメリットは、独自のヒト臨床試験を行わなくても、すでに公表されている論文の引用(システマティックレビュー:研究レビュー)でエビデンスとして認められる点です。これにより、スピーディーかつ低コストでの商品展開が可能になりました。

エビデンスのタダ乗りを防げ!なぜあのお茶は独占的なのか?

なぜ食品・飲料メーカーはこぞって「用途特許」を取ろうとするのでしょうか?

機能性表示食品の制度はスピーディーで便利な反面、企業にとって致命的な弱点があります。それが「エビデンスのタダ乗り(フリーライド)リスク」です。 例えば、A社が多額の予算を投じて「成分X(例:GABA)には睡眠改善効果がある」という新しい論文(エビデンス)を発表し、機能性表示食品を発売したとします。すると、ライバルであるB社やC社は、そのA社の公開された論文をシステマティックレビューの根拠としてそのまま引用し、全く同じ「睡眠改善」を謳うジェネリック的な商品を安く売り出すことができてしまうのです。他社の苦労を盗むようなこのフリーライドを防がなければ、研究開発の投資を回収できません。

そこで企業を守る最強の盾となるのが「食品用途特許」です。


2016年審査基準改訂が変えたゲームのルール

かつて、食品分野では「用途特許」を取るのが難しい時代がありました。しかし、2016年の特許・実用新案審査基準の改訂により、ゲームのルールが大きく変わりました。

この改訂により、すでに知られている公知の成分であっても、「新たな用途(機能性)」を見出せば、用途発明として特許が認められるようになったのです。たとえば、「ただの乳酸菌」自体は公知でも、「免疫の維持に役立つ」という新しい用途(属性)を発見すれば特許の対象になります。

具体例:キリン「プラズマ乳酸菌 この用途特許を武器に市場を独占する戦略を見事に描いているのが、キリンの「プラズマ乳酸菌」です。キリンはプラズマ乳酸菌の「免疫機能の維持」という新たなメカニズムを発見し、用途特許をしっかりと押さえています。これにより、他社は安易に「プラズマ乳酸菌を使った免疫ケア商品」にタダ乗りすることができず、結果としてキリンは自社の利益を守りながら、パートナー企業へのライセンスビジネス(他社製品への成分提供)という巨大な市場を独占することに成功しているのです。


まとめ:「強く・広く・役に立つ特許」が信頼と利益を守る

コンビニの棚にある「健康系食品」の裏側には、単なるマーケティングだけでなく、エビデンスのタダ乗りを防ぎ、市場を独占するための緻密な知財戦略が隠されています。

特許審査の質が向上し、「強く・広く・役に立つ特許」が認められるようになった現代。高品質な特許網を築くことは、自社の研究開発費(利益)を守るだけでなく、「この機能は本当にこの企業が独自に研究したものだ」という消費者の「信頼」を守ることにも直結します。

次にコンビニでお茶やヨーグルトを選ぶときは、「この機能性の裏には、どんな知財担当者の汗と涙の用途特許が隠れているんだろう?」と想像してみてくださいね!

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