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「飲む乳酸菌でヒアルロン酸が増える」という話を聞いて、正直なところ半信半疑だった人も多いと思います。日清食品ホールディングスはこの仕組みについて特許を取得しており、公報には菌株を選び出した経緯と実験データが丁寧に書かれています。今回はその中身を一緒に確認しながら、ヒアルモイストWという製品の背景を見ていきます。
この特許、何を権利にしているのか
特許第6495869号(2019年3月登録)の請求項は全部で3つです。
請求項1では、Lactobacillus gasseri N320株(受託番号 NITE BP-02287)そのものを権利の対象としています。「菌株を特許で押さえる」というのは、特定の乳酸菌の株を発見・単離して、その性質を明らかにした者だけが使えるようにする仕組みです。
請求項2はその菌株を含む飲食品、請求項3は「ヒアルロン酸産生促進剤」としての利用です。
つまり、この特許が保護しているのは「乳酸菌の成分そのもの」ではなく、「N320という特定の株」です。同じ種(Lactobacillus gasseri)であっても別の株なら話は変わります。ここが他社との差別化ポイントになっています。
Lactobacillus gasseri N320株 ── 公報から見えてくること
なぜこの菌株が選ばれたのか
【0005】によれば、研究チームは「肌機能の改善にはヒアルロン酸が必要不可欠」という点に着目し、複数の乳酸菌でスクリーニング(ふるいわけ試験)を行いました。その結果として見つかったのがN320株です。
N320株はラクトバチルス属(乳酸菌の一種)に属し、乳児の腸内から分離されたと公報に書かれています(【0010】)。乳児の腸内という起源が一つのポイントで、もともとヒトの腸に住んでいる菌として知られている種類です。
菌の基本的な特徴として、公報の表1には大きさ(0.9〜1.0μm × 2.0〜5.0μm の桿菌)、コロニーの形状(円形、半球状に隆起、全縁、大きさ1.0〜2.0mm、淡黄色、表面は円滑)、グラム陽性、芽胞形成なし、ガス生成なし、運動性なし、カタラーゼ活性陰性といった性質が記録されています。
ヒアルロン酸産生促進能の実験(試験例1)
【0023】〜【0028】に実施例のデータが出てきます。
ヒアルロン酸(Hyaluronic Acid)とは、皮膚・関節・靭帯などに広く存在する物質で、保湿性の高さから「肌の潤いを保つ重要な因子」と公報に書かれています(【0003】)。体全体のヒアルロン酸のうち約50%が皮膚に存在するとも書かれています。
実験では、正常なヒト成人の表皮角化細胞(皮膚の表面にある細胞)を培養し、各乳酸菌の培養液(最終濃度1%)を添加して72時間後のヒアルロン酸産生量をELISA法(抗体を使って物質の量を測る方法)で測定しています。
結果が公報の表4(【0026】〜【0028】)に記載されており、数値を整理するとこうなります。


同じ Lactobacillus gasseri という種のなかでも、N220株は7.6 ng/mL にとどまっているのに対し、N320株は332.6 ng/mL。N219株と比べても2倍以上の差があります。「種が同じでも株が違えば結果が大きく変わる」ということが、この数字からよく伝わってきます。
公報【0028】には「N320のヒアルロン酸産生促進能力は非常に強く、他の自社保有の乳酸菌と比べても高いヒアルロン酸産生促進能力を有していることが確認された」と記されています。
用量・比率・組み合わせの確認
飲食品への利用については【0019】に書かれています。乳酸菌入り発酵乳と乳酸菌飲料については、現行の乳等省令の成分規格として「発酵乳は1.0×10⁸ cfu/ml以上」「乳酸菌飲料は1.0×10⁷ cfu/ml以上」という菌数基準が参照されています。
菌の形態については【0019】で「粉末、顆粒、カプセル、錠剤」への製剤化も想定されており、幅広い食品に使える可能性が示されています。また【0021】では化粧品や整腸剤、歯磨き粉への応用可能性にも言及があります。
ここが肝心 ── 「菌株レベルの選抜」という技術の意味
乳酸菌飲料やサプリメントには数多くの製品があります。「乳酸菌配合」というだけなら、どの菌を使っているのかは問われません。
ただ、公報の実験データを見ると、同じ Lactobacillus gasseri 種でもN220株は7.6 ng/mL、N320株は332.6 ng/mL と、40倍以上の差があります。「どの乳酸菌か」ではなく「どの株か」で結果が大きく変わるという実例が、このデータです。
菌株を特定して特許に落とし込むためには、まず多数の菌株をスクリーニングする必要があります。公報にはN219・N220・N313・N320という少なくとも4株の比較が載っていますが、実際にはこれ以外にも多くの候補を試した末に絞り込まれたはずです。この選抜のプロセスと、対象の菌株そのものが特許として保護されています。
ヒアルロン酸について少し補足
ヒアルロン酸は糖の一種で、皮膚の真皮層を中心に体内に広く存在しています。1gで約6リットルの水を保持できるといわれるほど保水力が高く、加齢とともに体内での量が減少することが知られています(公報【0002】〜【0003】)。
「体内から産生されるヒアルロン酸」と「外から塗る・飲む成分としてのヒアルロン酸」は別の話です。この特許が主張しているのは後者ではなく、N320株が皮膚の細胞自身のヒアルロン酸産生を促す働きに関するものです。
日清食品 ヒアルモイストW について PR
ヒアルモイストWは、この特許に記載されたLactobacillus gasseri N320株(NITE BP-02287)を使用した乳酸菌飲料です。公式サイト(hyalmoist.jp)では「ヒアルロン酸産生促進作用が確認されたLG21乳酸菌とは別の、日清食品独自の乳酸菌」として案内されています。
価格を見て「普通のヨーグルト飲料より高い」と感じる方もいると思います。ただ、公報を読んだ後だとその理由が少し見えてきます。製品に使われている菌株は、複数の乳酸菌をスクリーニングして選び抜いた特定の株です。同じ乳酸菌飲料でも、どの菌株を使うかで実験上の結果に大きな差があることは、公報のデータが示している通りです。「乳酸菌配合」と一括りにできない理由がそこにあります。
また、公報の試験例2(スキムミルク培地増殖性試験、【0029】〜【0033】)では、N320株のスキムミルク培地での増殖数が22×10⁷ cfu/mLとなり、比較菌株のN219・N220(ともに0.9×10⁷ cfu/mL)を大きく上回っています。つまりミルクを原料とする製品での安定した製造にも適した株だということが、公報の段階から確認されています。

※本製品は食品であり、疾病の治療・予防を目的とするものではありません。
おわりに
「乳酸菌」と一言で言っても、菌株レベルで見ると働きがまったく異なる、ということを公報を読んで改めて実感しました。特許に登録されているのが製法でも成分でもなく「N320という株そのもの」であることが、この製品の独自性をシンプルに示していると思います。選ぶ際の参考になれば幸いです。
参考:特許第6495869号(J-PlatPat) https://patents.google.com/patent/JP6495869B2/ja



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