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水素水というと「1.6ppm が上限」という話を聞いたことがある人は多いと思います。実はこれ、単なる上限値ではなく、液体に溶ける水素の飽和溶解度そのものです(【0008】)。液体のままでは、どれだけ頑張ってもその壁を超えられない。新菱の「高濃度水素ゼリー」は、その壁を”ゲルで固める”という方法で突破しています。特許公報を読んで、なるほどそういうことか、と思った技術の話をします。
この特許、何を権利にしているのか
特許第6561424号(2019年登録)の請求項1が権利の核心です。まとめるとこういう内容になっています。
「水素ガスを含有するゲル状組成物であって、ゲル化温度が0.5〜65℃の範囲にあり、液体状態時の飽和溶解度を超える量の気泡状態の水素ガスを含有し、水素ガスの含有量が10〜60vol%であり、ゼラチンを含む」
ポイントは「飽和溶解度を超える量の気泡状態」という表現です。水に溶けた水素ではなく、気泡のまま閉じ込めた水素を権利の対象にしています。気泡を液体中に分散させ、固まる前に素早く冷却してゲル状に固定する。それが他の水素製品と根本的に異なる点です。
「請求項」とは、その特許で独占できる権利の範囲を示した箇条書きのことです。ここに書かれた条件を満たすものが保護対象になります。
ゼラチンゲル構造 ── 公報から見えてくること
なぜ「溶ける」と「固まる」を繰り返せる素材なのか
公報【0029】には、可逆的にゾルゲル転移(液体↔固体)できる組成物が好ましい、と書かれています。ゼラチンはまさにその典型で、温めると液体になり、冷やすと固まる。この性質を利用して、液体の状態で水素気泡を分散させ、そのまま固めることができます。
表1(【0065】)には、ゼラチン濃度とゲル化温度の関係が整理されています。

濃度が上がるほどゲル化温度も上がりますが、最大でも27℃程度に収まっています。この「室温付近で固まる」という特性が、製造工程での水素の揮散を防ぐうえで都合よく機能しています。


「マイクロバブル」として閉じ込める
公報【0024】によると、ゲル状態で含まれる気泡径は1〜200μmの範囲が好ましいとされています。1μm(マイクロメートル)は1mmの1000分の1。肉眼ではほぼ見えないサイズです。実施例1の断面観察(図4・5)でも、この微細気泡が高密度に分散していることが確認されています。

用量・比率・組み合わせの確認
実施例の水素含有量データ
公報には複数の実施例があり、それぞれ水素含有量が測定されています。
ゼラチン単体で最も高い数値が出ており、寒天やカラギーナン単体ではやや下がる傾向が読み取れます。また実施例9(ゼラチン+カラギーナン)は19vol%と、カラギーナン単体(6.3vol%)の約3倍になっています。組み合わせることで互いの弱点を補い合う設計になっている、というのが公報から伝わってきます。
「GC法(ガスクロマトグラフィー)」とは、気体の成分と量を精密に分析する方法です。公報では比重法との比較も行われており(【0074】)、両者がほぼ同等の結果を示すことが確認されています。
保存安定性の確認(実施例2)
実施例2では、作製直後(28vol%)と冷蔵保存48日後(26vol%)の数値を比較しています【0081】。ほとんど変化がなく、水素が安定して保持されていることが示されています。アルミ製パウチに密閉して急冷する、という工程がこの安定性に貢献していることは、公報の製造方法の記述(工程2〜3、【0053〜0058】)から読み取れます。
ここが肝心 ── 水素水の「1.6ppm の壁」をゲルで突破する理由
公報【0005〜0008】には、従来技術の限界がはっきり書かれています。液体状の水素水では、気体の溶解はヘンリーの法則(気体の溶解量は圧力に比例する)に支配されるため、大気圧下では飽和溶解度である1.6ppm(1.7vol%)を超えて水素を含ませることができない。ナノバブル技術を使っても、参考例(【0099】)の測定値は飽和状態で4.9vol%程度(換算値)にとどまっています。

本特許の技術が取った方法は、「水に溶かす」のではなく「気泡のまま閉じ込める」こと。液体状のゼラチン液中に水素を分散させ(工程1)、アルミパウチに密閉し(工程2)、素早く冷却してゲルで固定する(工程3)。固まれば気泡は逃げ場を失い、そのまま閉じ込められます。実施例1の主力条件では36〜40vol%という数値が得られており、これは従来の液体水素水の約20倍以上にあたる含有量です。
もう一つ気になるのが、製造方法の細かさです。「ゲル化温度より5〜20℃高い温度で移送する」「粘度が100〜10,000mPa・sの範囲で充填する」(【0054〜0055】)という具体的な条件が書かれています。この温度と粘度のウィンドウを外れると、水素が揮散してしまう、あるいは流動性が失われて充填できなくなる。製造工程の管理精度がそのまま水素含有量に直結する仕組みです。
水素について少し補足
水素ガスは公報【0021〜0022】に「潜在的に有する還元性、抗酸化性を利用した食品、健康食品、化粧品医療などの分野で利用されている」と記載されています。
消費者庁への届出(届出番号:I94)に基づき、本製品は機能性表示食品として「睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の維持に役立つ」という機能が表示されています(届出関与成分:水素)。この機能表示は消費者庁への届出に基づくものです。
新菱 高濃度水素ゼリー について PR
「なぜこれは水素水より高いのか」という疑問は、公報を読むとかなり腑に落ちます。
液体の水素製品は、基本的に容器に入れた時点から水素が抜け始めます。対してこの製品は、液体の状態で水素気泡を均一分散させた後、アルミパウチに密閉し、5℃の冷水に浸けて急冷する(工程3、【0059】)という手順で製造されています。急冷によってゲルが固まり、閉じ込めた水素が逃げにくい構造になる。実施例2のデータでは、これが48日後も維持されていることが確認されています(【0081】)。
安価な水素製品との違いは、「どれだけ水素を入れたか」よりも「どれだけ保持できるか」にあります。入れた水素が容器から抜けてしまうなら、含有量の数字には意味がありません。アルミパウチ+急冷ゲル固定という組み合わせが、ここのコストの理由です。また特許権者が株式会社新菱(三菱ケミカルグループ系の技術開発会社)であることからも、製造技術の精密な管理が背景にあることが伝わってきます。
※本製品は食品であり、疾病の治療・予防を目的とするものではありません。
おわりに
公報を読む前は「水素製品は全部似たようなもの」と思っていたのですが、液体と気泡の違い、ゲルで固める意味、アルミパウチ急冷の意図と、製品の設計として意味のある選択が積み重なっていることがわかりました。届出機能表示を含めて調べてから、自分はこちらを選ぶようになりました。参考になれば幸いです。
参考:特許第6561424号(J-PlatPat)
公報を読んで一つ気になったのが、実施例3(ゼラチン25wt%)が最も高い53vol%を記録していること。35wt%より薄い方が値が高い。ゲルの硬さと気泡保持のバランスに、まだ面白い余地がありそうです。
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