アーユルマスター スカルプクレンジングの特許(第7193108号)を読み解く──ポリソルベート80が主成分のシャンプー、その細胞毒性データを公報から確認する

■掲載している特許分析は執筆時点の公報に基づきます。

シャンプーを使うたびに頭皮がかゆくなる、美容師さんの手荒れがなかなか治まらない──そういった話を聞くたびに、「シャンプーの成分、ちゃんと調べた人はいるのだろうか」と思っていました。特許公報を読んでいると、実際に100種類近くの界面活性剤の細胞毒性を網羅的に測定した研究者がいることがわかりました。その成果をもとに開発されたのが、イチバンライフ株式会社(横浜市立大学発のスタートアップ)の「アーユルマスター スカルプクレンジング」です。

この特許、何を権利にしているのか

特許第7193108号(発明の名称:低毒性人体用洗浄剤、及び低毒性人体用洗浄液)は、2018年6月出願、2022年12月登録です。

請求項1(特許で保護される権利の核心を書いた部分)をかみ砕くと、こんな内容です。

「ポリソルベート(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)を界面活性剤の主成分として50質量%以上使い、補助界面活性剤を組み合わせた洗浄剤であって、細胞の50%を死滅させる濃度(ID50)が5,000μg/mL以上、かつ洗浄力が40μg/mL以下であるもの」

ポイントは2つのハードルを同時にクリアしていることです。毒性が低いだけでもなく、洗えるだけでもない。その両立を定量的な基準で示している点がこの特許の骨格です。

ポリソルベート類の細胞毒性データ──公報から見えてくること

公報【0007】〜【0010】では、発明者らが市販シャンプーの界面活性剤成分を系統的に調べた結果が示されています。一般的なシャンプーに含まれる界面活性剤の合計量はおおむね10〜15質量%で、複数の種類が組み合わされています。

続く【0014】では、市販シャンプー14製品について、ヒト正常線維芽細胞を使った細胞毒性試験の結果が表4として示されています。

ID50とは「30分間接触させて細胞の50%を死滅させる濃度」のこと。数値が大きいほど毒性が低いことを意味します。市販品の多くは500〜1,000μg/mLの範囲に集まっています。

では、ポリソルベート類はどうだったか。公報の表5(【0024】)に、各種界面活性剤のID50が一覧で示されています。

公報【0025】にはこう書かれています。「ポリソルベート類の細胞毒性は、他の界面活性剤に比べて著しく低いことが判った。とくに、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)が優れた結果を示し、その細胞毒性は、市販のシャンプーを構成する界面活性剤の約1000分の1であった」。

市販品のシャンプーのID50が500〜1,000μg/mLで、ポリソルベート80が50,000〜100,000μg/mL。比率でいうと50〜200倍の差があることが、公報の数値から読み取れます。

用量・比率・組み合わせの確認

なぜポリソルベート単独ではなく、補助成分を組み合わせるのか。公報【0045】〜【0048】を読むと、ポリソルベート類の弱点が説明されています。「気泡性(泡立ちのよさ)が悪い」という点です。

泡立ちは「水と空気の界面」で起きる現象ですが、洗浄は「水と汚れ(固相)の界面」で起きる現象なので、本来は別の話です。ただ「泡立たないと洗えていない気がする」という消費者感覚があるため、補助成分で泡の質を補う設計になっています。

実施例2(試験品群I、【0072】〜)では、ポリソルベート80を主体としつつ、コカミドDEA、コカミドプロピルベタイン、ラウロイルアスパラギン酸Na、サーファクチンNaを補助成分として加えた配合が示されています。

実施例3(試験品群II、【0079】〜、表8)では、試験品No.11〜14の具体的な配合が記載されています。

表8から読み取れる数値を整理すると、試験品No.11〜14に共通する構成は以下のとおりです。

ポリソルベート類が界面活性剤の90質量%前後を占め、残り10質量%以下を補助成分が担う構成です。補助成分の上限を0.1〜10質量%に抑えることで、全体の低毒性を維持しながら泡立ちを補う設計になっています(【0049】)。

ここが肝心──「市販品の1/100」という数値の出どころ

試験品群IIの細胞毒性試験結果(表9、【0083】〜)では、サンプルNo.14のID50が50,000〜100,000μg/mLと記録されています。

公報【0084】にはこう書かれています。「試験品群IIのシャンプーの細胞毒性は顕著に軽減し、サンプルNo14のシャンプーは市販シャンプーの細胞毒性のほぼ100分の1を達成できた」。

市販品のID50が概ね500〜1,000μg/mLで、No.14が50,000〜100,000μg/mL。割り算すると確かに50〜200倍の差があり、「約100分の1」という表現と整合しています。

【0094】
[図4]
番号1:シャンプー試作品No.11
番号2:シャンプー試作品No.12
番号3:シャンプー試作品No.13
番号4:シャンプー試作品No.14

図4では、縦軸がコロニー形成率(%)、横軸が濃度(μg/mL)で、0〜200,000μg/mLの範囲でNo.11〜14の挙動が示されています。No.13とNo.14では非常に高濃度(100,000μg/mL前後)まで細胞コロニーが残存している傾向が読み取れます。

なお「1/100の細胞毒性」というのは公報の実施例のデータです。本製品は化粧品であり、特定の疾病の治療・予防を目的とするものではありません。

ポリソルベート80という選択について少し補足

ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)は、食品添加物・医薬品の乳化剤として長年使用されてきた成分です。医薬品の注射剤やワクチンの製剤化にも使われており、安全性のデータは豊富に蓄積されています。

公報【0037】では、なぜポリソルベート80の毒性が低いのかの推察も書かれています。「4個の大きな親水基が放射状に外に向かって配位しており、その一つにオレイン酸が結合している。したがって、アルキル基は立体障害により、細胞膜に密着できず、その結果、細胞毒性を示さないことが推察される」。

つまり、分子の形が鍵です。多くの界面活性剤が直鎖状の構造をしているのに対し、ポリソルベートはソルビトール(糖由来の分子)を芯に4本のポリオキシエチレン鎖が放射状に広がった特殊な形をしています。この立体的な構造が、細胞膜への接触を物理的に妨げているという考え方です。

また、公報【0087】の洗浄試験(表10)では、ポリソルベート80の洗浄力は10〜20μg/mLと記録されています。ラウリル硫酸Naの洗浄力は4μg/mLで、数値だけ見ると「ポリソルベートの方が弱い」ように見えますが、公報には重要な補足があります。「ポリソルベート80の分子量が1310であり、ラウリル硫酸の分子量が288であることを考慮すると、分子当たりの洗浄力は同等である」(【0087】)。分子が大きい分だけ、濃度換算では薄くなるので、見かけ上の差はほぼ相殺されます。

アーユルマスター スカルプクレンジングについて

アーユルマスター スカルプクレンジングは、この特許技術をもとにイチバンライフ株式会社が商品化したシャンプーです。外観がクリーム状で、一般的なシャンプーのような豊かな泡立ちはありません。公報の記述どおり、ポリソルベート系の界面活性剤は泡立ちより洗浄性を優先した設計になっているためです。

「なぜこの価格なのか」という疑問に対して、特許を読むと一定の説明がつきます。主成分のポリソルベート80は食品・医薬品グレードの安全性評価を持つ素材であり、一般的なシャンプーの主剤であるラウリル硫酸Naやラウレス硫酸Naより原料コストは高めです。さらに、泡立ちを補う補助成分の選定でも「比較的細胞毒性の低いもの」を選ぶという制約があります(【0048】)。安い類似品との違いは、原料の選び方の根拠として細胞毒性データが存在しているかどうか、という点かもしれません。

購入は公式サイト(ayurmaster.jp)から確認できます。

※本製品は化粧品であり、疾病の治療・予防を目的とするものではありません。

おわりに

「シャンプーで細胞毒性を測った研究者がいる」という事実を公報で確認してから、自分のシャンプー選びの基準が少し変わりました。泡立ちの多さや香りではなく、主成分の界面活性剤が何かをまず見るようになっています。アーユルマスターがすべての人に合うかはわかりませんが、公報を読んで「どういう発想で作られたか」を知った上で選べると、ひとつ納得感が違う気がします。頭皮や手のトラブルが気になっている方に、参考になれば幸いです。

参考:特許第7193108号(J-PlatPat)

公報を読んで気になったのは、補助成分の中に含まれるサーファクチンNa。「単独では細胞毒性が低くないが、他の界面活性剤の皮膚刺激を和らげる」という記述(【0084】)が、配合設計の奥深さを感じさせます。

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