味の素 グリナの特許を読んでみた──「グリシン3g」にどんな根拠があるのか

■本記事はAmazonアソシエイトとして、適格販売により収入を得ています。掲載している特許分析は執筆時点の公報に基づきます。

睡眠サプリの棚を眺めると、ここ数年で「グリシン配合」を謳う商品がずいぶん増えました。グリシン自体は食品添加物として長く使われてきたアミノ酸ですが、「睡眠に使う」という発想はそれほど古くはありません。そして、その入り口を作ったのが、味の素が取得した特許第4913410号です。今回はこの公報を手元に置きながら、グリナという製品の背景を読み解いていきます。

この特許、何を権利にしているのか

請求項1には、こう書かれています。「1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有する、熟眠障害改善用食品」。

特許の「請求項」というのは、この特許で独占的に権利を主張する範囲のことです。わかりやすく言うと、「これがうちの発明ですよ」と宣言した部分。

ここで面白いのは、グリシンそのものを発明したわけではなく、「睡眠のために一定量のグリシンを1食単位でとる食品」という使い方と形態に権利を取った点です。しかも請求項2では、グリシン以外のアミノ酸の含有量を1食あたり5g以下に抑えることも権利範囲に含めています。この「他のアミノ酸を増やしすぎない」という制約が、後で重要な意味を持ってきます。

この特許は2012年に登録され、すでに満了しています。棚にグリシン系睡眠サプリが増えた理由のひとつはそこにあって、権利が切れたことで他社も参入しやすくなりました。

グリシン ── 公報から見えてくること

グリシン(CH₂(NH₂)COOH)は、構造が最もシンプルな非必須アミノ酸です。非必須アミノ酸とは、体内でも合成できるアミノ酸のこと。食品添加物としても認められており、かまぼこなどの練り製品にも昔から使われています。

公報【0002】によると、グリシンは飲料の品質保存目的で添加される場合、最大50mg/100mlほどの量が使われています。つまり従来の用途では、多くても1食あたり数十mgの世界でした。

本特許が着目したのは、それより桁違いに多い「0.5g以上」の摂取量です。公報【0009】では1.0g以上、さらには1.5g以上が好ましいと書かれています。グリナの1回あたりのグリシン含有量は3gで、これは公報【0027】で示された好ましい摂取量の範囲(0.125〜1.5 g/kg/day、体重50kgなら6.25〜75g/dayの下限付近)とも整合しています。

用量・比率・組み合わせの確認

実施例を読んでいくと、用量まわりの設計が丁寧に積み上げられていることがわかります。

実験例8(【0046〜0047】)では、体重45kgの被験者が0.6g(ティースプーン1/4)、1.2g(1/2)、2.5g(1杯)の3段階でグリシンを摂取しています。いずれの量でも翌朝の熟眠感に「+」の評価が得られており、0.5g超えから一定の手ごたえが確認されたことが読み取れます。

もうひとつ気になるのが、「他のアミノ酸の量を5g以下に抑える」という条件(請求項2、【0010】)です。公報には、グリシン以外のアミノ酸が多く含まれると機能が発揮されにくい傾向があると明記されています。たとえばコラーゲンペプチドはグリシンを豊富に含む素材ですが、同時に他のアミノ酸も大量に含みます。グリナがコラーゲン由来でなく高純度グリシン単体を使っている理由は、おそらくここに根拠があります。「他のアミノ酸に邪魔されないように」という設計思想です。

ここが肝心 ── 副交感神経とポリソムノグラフィーの数字

公報の実験例のなかで、個人的に最も読み応えがあったのは実験例9と10の二重盲検試験です。二重盲検とは、被験者も評価者も誰がグリシンを飲んでいるか分からない状態で行う試験のことで、自己暗示を排除できる信頼性の高い方法とされています。

実験例9(【0048〜0058】)では女性15人を対象に実施。32歳以上の被験者(15名中6名)について、起床時の身体的・精神的状態が有意にプラセボより改善されたことが示されています(表7)。

さらに実験例10(【0059〜0062】)では、いびきや無呼吸が気になる男性14人を対象に終夜ポリソムノグラフィー(終夜睡眠検査)を実施しています。ポリソムノグラフィーとは、脳波や筋電図などを一晩通して測定する検査のことで、睡眠の質を客観的に評価する方法です。

その結果は表11に示されいます。

徐波睡眠(じょはすいみん)とは、深い眠りとされるノンレム睡眠の一段階で、脳波に大きなゆっくりした波が現れる状態のことです。

消灯から入眠までの時間(寝つき)はグリシンとプラセボで有意差がありませんでした(p=0.322)。一方、深い眠りである徐波睡眠に入るまでの時間はグリシン群52.2分に対しプラセボ群103.4分で、p値0.042と統計的に有意な差が確認されたと公報に書かれています。入眠初期に占める徐波睡眠の割合もグリシン群12.0%に対しプラセボ群6.4%(p=0.020)で、眠れる時間の早い段階で深い眠りが得られやすかったという傾向が示されています。

なぜこうなるのかについて、公報【0028】では副交感神経への作用が一つのメカニズムとして想定されると書かれています。実験例7では、ビーグル犬にグリシンを経口投与すると投与後1〜4時間にかけてR-R間隔(心拍間隔)が増大し、副交感神経系が優位になる結果が得られたと報告されています。

『図2はビーグル犬を用いた実験における、グリシン投与後の経過時間とR-R間隔との関係をあらわすグラフである(実験例7)。対照と比較して、グリシンを投与すると、投与1~4時間においてR-R間隔が増大し、副交感神経活動が優位にあることが示されたことから、グリシンは交感神経亢進の相対的抑制により熟眠障害の緩和に関与している可能性が推察された(【0045】より)。

副交感神経とは、リラックスや休息時に働く自律神経のことです。R-R間隔が広がるということは、心拍がゆっくりになり、副交感神経優位の状態に近づいているサインとされます。グリシンが「眠りを深くする」のではなく、「緊張を落ち着かせることで体が自然に深い眠りへ移行しやすくなる」という関係性が公報では示されています。

グリシンについて少し補足

グリナは消費者庁への機能性表示食品の届出が受理されています(届出番号 I1362)。消費者庁への届出に基づき、「グリシンを含有し、起床時の疲労感や眠りの深さ、睡眠の質の向上をサポートする」という機能が表示されています。これは企業が研究レビューや試験結果をもとに届け出た内容であり、国が審査・承認したものではありませんが、表示の根拠として公の記録に残っている情報です。

味の素 グリナについて PR

ここで気になるのが「なぜこの価格なのか」という点です。グリシン自体は化学的にシンプルなアミノ酸で、工業的にも大量に生産されています。ドラッグストアでは「グリシン○g配合」と書かれた安価な粉末商品も並んでいます。

ただ、前述のとおりこの特許が示した重要な条件は「グリシン単体の高純度品を、他のアミノ酸に邪魔されない形で一定量届ける」こと、そして「1食単位できちんと摂取できる形態にする」ことでした。グリナはグリシンを3g、1袋にスティック状で計量済みにしたうえで、クエン酸を矯味剤として加え(請求項4にも明記されています)、飲みやすくしています。

単純に「グリシン3gを量って飲む」だけなら粉末を買えば安上がりですが、毎晩就寝1時間前にきちんと継続するという行動のしやすさを設計しているのがグリナという製品で、その部分は特許の「1食当たりの単位包装形態」という思想にそのまま対応しています。また、味の素というメーカーが自社でグリシンを製造していることも、原料品質の安定という面では無視できない背景です。

公報を読んでから、個人的にはスティック分包という形をきちんと評価するようになりました。

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※本製品は食品であり、疾病の治療・予防を目的とするものではありません。

おわりに

グリシン系の睡眠サプリが棚に並びすぎていてどれを選べばいいかわからない、という人の参考になれば幸いです。

参考:特許第4913410号(J-PlatPat) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

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