P&Gの新洗剤「Tide evo」に花王が”対抗特許”? 公開されたばかりの特許7件を読み解く

はじめに

2026年2月、P&G(Tide)がアメリカで全米展開を始めた新形態の洗濯洗剤「Tide evo(タイドエボ)」。液体でも粉末でもポッドでもない、”タイル状”という第4の洗剤フォーマットとして話題になりました。

そのわずか数か月後、2026年7月2日、花王から水に溶けるユニット型洗剤に関する特許7件がまとめて公開されました。同じ日に7件という数、そして扱っているテーマが「Tide evoが抱えるであろう課題」と重なって見えることから、「花王がTide evoを追いかけて特許を固めにきたのでは?」という見方もできそうです。

この記事では、

  • Tide evoとはそもそも何なのか
  • 花王が公開した特許7件の中身
  • 両者の類似点・相違点
  • 今後の展開予想

を、公開情報と特許公報の内容から事実ベースで整理してみます。「模倣だ」と断定するのではなく、あくまで技術的な観察と考察としてお読みください。


第1章:Tide evoとは何か

Tide evoは、P&Gが2024年のSXSWで初披露した新しい洗剤フォーマットです。特徴を整理すると次のようになります。

  • 形状:手のひらサイズの正方形タイル。数万本の極細繊維で構成され、繊維1本1本に洗浄成分が6層構造で濃縮されている
  • 使い方:洗濯機のドラムに直接タイルを入れて水を入れるだけ。冷水でも瞬時に溶ける設計
  • 成分構成:界面活性剤・酵素(染み抜き)、再付着防止・増白ポリマー、消臭成分・キレート剤、ビルダー(硬度対策・アルカリ度維持)など、複数の機能層を持つ
  • パッケージ:プラスチックボトルを使わない、FSC認証の紙製パッケージ
  • 展開の経緯:2024年4月にコロラド州で先行発売→約2年間のテストマーケティング→2026年2月17日に全米の主要小売チェーンへ展開
  • 価格:液体タイプの洗剤と比べて1回あたりのコストはおよそ2倍
  • 特許:製造プロセスを含め50件以上の関連特許を取得済みとされる
  • 開発体制:化学者・エンジニアなど15人規模のチームが10年以上かけて開発

P&G側は「Tide PODSの登場以来、最大のフォーマット刷新」と位置づけており、2030年までに北米の洗濯の4回に3回を冷水洗いにするというサステナビリティ目標とも連動した製品です。

なお、2026年7月時点でTide evoは日本未発売です。日本のAmazonや店頭で正規に手に入るものではなく、現状はアメリカ国内での販売のみという点は押さえておく必要があります。


第2章:花王が公開した特許7件を読み解く

2026年7月2日付で公開された花王の特許は、以下の7件です。いずれも「水溶性単位用量物品」——水に溶ける樹脂基体(不織布やフィルムなど)に、洗浄成分を含む粒状体を保持させた洗濯用洗剤のユニット——に関するものです。

7件に共通するキーワードは、「べたつき」「溶け残り」「基体の劣化」の3つです。従来のPVA(ポリビニルアルコール)フィルムを使った液体ポッド(Tide PODSなど)とは異なり、粉末・粒状の洗浄成分を不織布状の水溶性基体に保持させる方式は、含水率や湿度変化に弱く、手触りがべたつきやすいという弱点を抱えています。花王はこの弱点を、成分配合の工夫(実施例では手触り評価・洗浄率評価つき)と、包装設計の両面から潰しにいっている、というのがこの特許群の実態です。

なお各特許の明細書には、先行技術として「PVA不織布に界面活性剤などの粒子を保持させた水溶性単位用量物品」がすでに存在すると明記されています。つまり花王は「Tide evoを見てゼロから発想した」というより、もともと自社・他社が持っていたユニット型洗剤の技術を、量産・実用化に耐える形に磨き上げているという文脈で読むのが妥当そうです。


第3章:Tide evoと花王特許、似ている点・違う点

似ている点

  • どちらも「液体を計量する手間をなくす」「プラスチックを削減する」という同じ市場トレンドを狙っている
  • どちらも水溶性の”基体”に洗浄成分を保持させる、という大枠の構造は共通
  • どちらも「溶けやすさ」と「品質(べたつき・劣化)の両立」という同じ技術的ハードルに向き合っている

違う点

  • Tide evoは極細繊維を圧縮成形した”タイル”そのものが洗浄成分の担体。花王の特許は、不織布などの基体に粉末・粒状体を後から保持させるという、より従来のポッドに近い構造
  • Tide evoは6層構造で機能を分離しているのに対し、花王特許は基体表面のコーティングや被覆剤による劣化・べたつき対策が中心
  • Tide evoは製品そのもの(フォーマット)の特許が中心と見られるのに対し、花王の今回の7件は既存フォーマットの改良・量産適性にフォーカスしている印象

だから「対抗特許」なのか?

公開日が7件まとめてという点、そして「べたつき」「溶け残り」というテーマが、Tide evoのような濃縮タイル/シート型洗剤が市場で直面しやすい弱点と重なる点を踏まえると、花王が同カテゴリでの量産・商品化を見据えて周辺特許を固めにきた可能性は十分考えられます。ただし、これは公開情報からの推測であり、花王がTide evoを直接意識して出願したと断定できる証拠はありません。日本の特許は出願から公開まで通常1年半ほどかかるため、今回の7件も2024年末〜2025年前半には出願されていたとみられ、Tide evoの全米展開(2026年2月)より前から準備されていた可能性が高い点も付け加えておきます。


第4章:今後の展開はどうなる?

現時点でわかっている事実から、以下のような展開が考えられます(ここからは推測を含む考察です)。

  1. Tide evoの日本上陸:まだ発表はありませんが、P&Gがアリエール等で日本市場に強い存在感を持つことを考えると、Tide evoの日本投入も時間の問題という見方はできそうです。ただし価格が液体の約2倍という点は、日本の洗剤市場(価格競争が激しい)でどう受け止められるかは未知数です。
  2. 花王の新フォーマット投入:今回の特許群が実際の商品化に結びつくなら、アタックやニュービーズブランドで「粒状体保持型の水溶性ユニット洗剤」が発売される可能性があります。特に「べたつき」対策に複数の特許でアプローチしている点から、量産・流通段階での品質担保に相当なリソースを割いていることがうかがえます。
  3. 業界全体でのフォーマット競争:ライオンなど他の国内メーカーも、液体・粉末・ポッドに続く”第4のフォーマット”の開発競争に参入する可能性があります。

まとめ

  • Tide evoはP&Gが10年以上かけて開発した、繊維タイル状の新洗剤フォーマット。2026年2月に全米展開が始まったばかりで、日本ではまだ買えない
  • 花王が2026年7月2日に公開した特許7件は、水溶性基体に粒状体を保持させるタイプの洗剤ユニットについて、「べたつき」「溶け残り」「基体劣化」を解決する内容
  • 構造そのものはTide evoとは異なるが、同じ市場トレンド(液体を使わない濃縮ユニット型洗剤)を狙った”周辺特許固め”と見るのが妥当
  • 「模倣」と断定する根拠はないが、対抗フォーマットの実用化に向けた布石である可能性は十分にある

洗濯洗剤という成熟市場でも、こうした形でグローバル企業同士の技術開発競争が続いているのは面白いところです。今後の商品化・日本展開の発表があれば、続報としてまとめたいと思います。


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本記事は特許庁公開の特許公報(JP2026-110060A〜JP2026-110066A)およびP&G公式発表・各種報道をもとに作成した考察記事です。特許の権利範囲や侵害の有無について法的な判断を示すものではありません。

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