2011年11月13日実施・法令基準日2011年5月1日、知的財産管理技能検定1級学科試験(特許専門業務)第10回を解いた記録です。
他の回もまとめています。
1. 分野別の出題構成——米国実務が全体の2割を占める
第10回・全45問を分野別に整理すると、次のようになります。
| 分野 | 問数 | 割合 |
|---|---|---|
| 米国実務(先発明主義・共同発明者・再発行・IDS等) | 9問 | 20.0% |
| 民事手続・警告対応(管轄・裁判籍・警告書・訴訟証拠) | 6問 | 13.3% |
| 契約・共有関係(共同出願契約・持分処分・秘密保持契約) | 4問 | 8.9% |
| 知財戦略・オープンイノベーション(グループ経営含む) | 4問 | 8.9% |
| 出願実務(優先権・先後願・発明該当性・補正) | 4問 | 8.9% |
| パリ条約・EPC(販売制限・不実施・新規性喪失例外) | 3問 | 6.7% |
| 職務発明 | 3問 | 6.7% |
| 特許権の効力・実施権 | 2問 | 4.4% |
| 情報開示指針 | 2問 | 4.4% |
| 資金調達・知財価値評価 | 2問 | 4.4% |
| 先行技術調査 | 2問 | 4.4% |
| 特許庁統計データ(グラフ問題) | 2問 | 4.4% |
| 弁理士業務 | 1問 | 2.2% |
| 民法基礎 | 1問 | 2.2% |
米国実務だけで9問、全体の2割を占めます。第9回でもPCT・米国実務の比重が大きかったですが、第10回はさらに踏み込んで、先発明主義時代特有の論点(旧102条(a)の地理的制約、再発行の期間制限、IDS義務とinequitable conduct)が連続して出題されており、この分野を捨てて合格するのはやはり現実的ではなさそうです。
2. 「存在しない制度」を紛れ込ませるパターン
第9回の振り返りでも書きましたが、第10回でも同じパターンが目立ちました。
- 問30:日本の特許法39条(先後願)の拒絶理由を、米国の「ターミナルディスクレーマ」で解消できるとする選択肢。ターミナルディスクレーマはあくまで米国特許法上の制度で、日本にはそもそも存在しません。米国実務の知識をそのまま日本の場面に持ち込ませる、典型的なすり替え型でした。
- 問37:米国のダブルパテント拒絶に対して、発明者の同一性や実施例の相違を理由に拒絶が不適当だと主張する選択肢。法定ダブルパテント(statutory)はクレームの同一性そのものが問題であり、発明者が同じであることは反論の理由になりません。
- 問11:共有特許権の持分の「放棄」に他の共有者の同意が必要とする選択肢。特許法73条1項が同意を要求しているのは譲渡と質権設定であり、放棄は列挙されていません。「他の共有者に不利益がない行為にまで同意を要求する理由はない」という発想が抜けていると、ここで引っかかります。
いずれも、条文の知識そのものより「この制度、本当にあったっけ?」「この要件、条文に書いてあったっけ?」という一段階引いた確認ができるかどうかが効いてくる問題でした。
3. 「出題当時の法令」を前提にすると結論が変わる問題
第10回は米国実務の比重が大きいぶん、この論点も濃く出ました。
- 問33:米国特許法旧102条(a)の「使用(used)」が、米国国内での使用に限られる(地理的制約がある)ことを問う問題。出題当時(2011年5月1日時点)は先発明主義の旧法が前提でしたが、AIA(米国改正特許法)により2013年3月16日以降の有効出願日を有する出願には改正後の第102条が適用され、①先願主義に移行し、②地理的制約も撤廃されています。過去問としての正解は動きませんが、同じ事案を現行法で考えると結論が逆になり得る点に注意が必要でした。
- 問23:職務発明の「相当の対価」に関する問題。当時の特許法35条が前提ですが、平成27年改正(2016年4月1日施行)により、用語が「相当の利益」に改められ、あらかじめ使用者等に帰属させる旨を定めれば発明時から権利が使用者等に帰属する「原始使用者帰属」の制度が導入されています。ただし対価(利益)の支払い自体が不要になったわけではなく、この点は現行法でも変わっていません。
- 問27・28:「特許行政年次報告書2010年版」の統計グラフを題材にした問題。当時は「重点8分野」(第2期・第3期科学技術基本計画で定められたライフサイエンス・情報通信・環境等の8分野)という枠組みが使われていましたが、現在この区分自体は使われておらず、GXTI(グリーン・トランスフォーメーション技術区分表)や個別テーマごとの技術動向調査に置き換わっています。また「日米欧3極比較」という枠組みも、現在は五大特許庁(IP5、日米欧中韓)が標準です。
4. 手続の「構造」まで理解していないと選べない問題
第10回で特に感じたのは、単純な正誤知識ではなく制度の内部構造(誰が何に対して何を負っているか)を正確に追わないと選べない問題が多かったことです。
- 問14:専用実施権・独占的通常実施権それぞれについて、権利者と実施権者の双方が差止請求・損害賠償請求をできるかを問うマトリクス型の問題。専用実施権を設定した特許権者自身も差止請求ができる、という点が盲点になりやすい構成でした。
- 問24:取締役が「従業者等」に含まれるか、具体的な命令がなくても職務該当性が認められるかを二段階で問う問題。「取締役だから/地位が高いから」という理由付けはどちらも誤りで、「技術部門担当最高責任者としての具体的任務」という職務の中身まで踏み込む必要がありました。
- 問39:米国の再発行特許出願(拡大再発行)で、期間制限(発行から2年)と権利範囲の拡大・縮小の判定を組み合わせる問題。構成要件を1つでも削除すれば、他の限定を強めていても全体として権利範囲の拡大になる、という判定基準を正確に運用する必要がありました。
5. 今回間違えた問題の振り返り(問8・17〜19・23・33・43)
自分の間違えた問題を振り返ると、ミスの質がいくつかのパターンに分かれていました。
問8:Y社側の対応として「無効理由となり得る文献を把握しつつ、あえて開示せず非侵害の回答をする」を選ぶべきところで、「実施継続の許諾を求めて実施料の意向を確認する」を選んでしまいました。「回答をしている=相手にリアクションしている」という点で一見似ていますが、前者は反論、後者は白旗(ライセンス交渉に自ら踏み込む行為)です。無効の主張という切り札を検討する前に相手の土俵に乗ってしまうと、後から出す手がなくなる、という交渉上の順序を軽視していました。
問17:数量的な根拠を開示せずに知財経営戦略を表現してほしいという要望に対し、「指針でもそこまでは求めていない」と応じる選択肢を選んでしまいました。実際には指針は、数量的裏付けへの懸念を認識した上でなお「可能な限り前提条件と数量的裏付けを伴った開示が望ましい」と明言しており、逆の内容でした。定性的な説明だけで済むという思い込みがあったのが原因です。
問18:「最も不適切なもの」を選ぶ問題で、統一的な一つの考え方として成立してしまう選択肢を選んでしまいました。各国法制の違いを理由に「全体ルールを設けない方がよい」とする選択肢の方が、部長の問題提起(グローバル企業としての競争力確保)そのものを否定してしまっており、より不適切でした。「不適切」の基準を、内容の穏当さではなく設問の趣旨との整合性で見る必要がありました。
問19:未利用特許の割合を「8割を超えている」とする選択肢を選んでしまいました。実際の水準はおおむね5割程度(大企業はさらに低く3〜4割)とされており、8割超という数字自体が実態から大きく外れていました。数字を感覚だけで判断せず、実際の統計水準を押さえておく必要があると感じました。
問23:「通常実施権について実施料相当額の対価を支払う必要がある」とする選択肢を選んでしまいました。法定通常実施権(特許法35条1項)はそもそも無償で発生する権利であり、権利の承継に対する相当の対価とは別枠で実施料を要求する理由がありません。「対価は必ず払うもの」という理解だけが先行していて、「何に対する対価か」という対象の切り分けを詰め切れていませんでした。
問33:米国旧特許法102条(a)の「使用」について、地理的制約の有無を問う問題で、根拠条文を取り違えました。NAFTA・WTO加盟国における行為への言及は、発明日の立証に関する旧104条の話であり、102条(a)の適用範囲を拡張するものではありません。似た場面で登場する条文同士を混同してしまったのが原因でした。
問43:パリ条約5条Aの不実施に対する措置について、段階を取り違えました。同条は①輸入によっては特許が失効しない、②強制実施権の設定は認められる、③強制実施権では不十分な場合に限り取消も認められる、という3段階の制裁構造になっており、この段階を混同すると選択肢を正しく絞り込めません。
まとめると、今回のミスは知識の欠落というより、「似ているが違うものを区別できていない」という一点に集約される気がします(反論と白旗、対価の対象、隣接条文、条文の段階構造)。次回はこの「区別」を意識して復習しようと思います。
6. 学習の優先順位
以上を踏まえると、第10回を解いた時点での対策の優先順位は次のように整理できます。
第1優先:米国実務(先発明主義・共同発明者・再発行・IDS) 出題比率が最も高く、かつ現行法(AIA)との結論の違いを意識しないと危険な領域。
第2優先:職務発明・専用実施権まわりの構造理解 「誰が」「何に対して」「何を負うか」を条文単位で切り分けて覚える必要がある分野。
第3優先:民事手続・警告対応 管轄・裁判籍の分類、警告書送付時の実務対応など、区分の入れ替えに気づけるかが鍵。
第4優先:知財戦略・オープンイノベーション 「不適切なもの」を選ぶ設問が多く、内容の穏当さではなく設問の趣旨との整合性で判断する訓練が必要。
第5優先:統計データ問題 出題当時の数値・枠組みをそのまま暗記する必要があるが、現在の実務感覚とは切り離して割り切る。配点効率としては優先度は下がる。
免責事項
本記事は一受験者が独自に作成した学習記録であり、知的財産教育協会および試験実施機関とは一切関係がありません。「知的財産管理技能検定」は同協会の登録商標です。
記載内容には万全を期していますが、誤りが含まれる可能性があります。また第10回試験は2011年5月1日時点の法令に基づいて実施されており、現行法令と異なる箇所があります(特に米国特許法の先発明主義から先願主義への移行、職務発明の相当の対価から相当の利益への変更等は、その後の法改正により結論が変わっています)。本記事の利用により生じた不利益について筆者は責任を負いません。正式な情報は必ず公式発表および現行法令をご確認ください。



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