知財検定1級学科で2級合格者が必ずつまずく「資金調達・価値評価」入門|過去問から出典を逆算する

この記事の要点

  • 「資金調達」「価値評価」は2級にほぼ登場しない、1級学科だけの出題分野
  • 市販教材が薄いのは需要がないからではなく、出題の元ネタが特許庁・内閣府の公開資料だから
  • 3つの評価アプローチは「メリット・デメリットの組合せ」で繰り返し問われている。覚え方が決まっている
  • ロイヤルティ免除法と利益三分法はどちらもインカム・アプローチ。ここが定番の引っかけ
  • 2026年5月施行の企業価値担保権は、2026年11月の第55回で狙われる可能性が高い新論点

  1. はじめに:2級のテキストには載っていない分野が、ここにある
  2. 1. なぜこの分野の教材は薄いのか——出典が公開資料だから
    1. この分野の「元ネタ」となっている一次資料
  3. 2. 価値評価:3つのアプローチは「メリデメの組合せ」で問われる
    1. 3つのアプローチの基本
    2. 【最重要】メリット・デメリットの対応表
    3. コスト・アプローチの「未利用特許の評価が可能」は落とさない
  4. 3. ロイヤルティ免除法と利益三分法——最大の引っかけポイント
    1. ロイヤルティ免除法(Relief from Royalty)
    2. 利益三分法
    3. 【頻出の罠】この2つは何アプローチか?
    4. DCF法と割引率
    5. リアルオプション法
  5. 4. 資金調達(法律面):担保にできる権利・できない権利
    1. 知財を担保にするときの整理
    2. 特許権に質権を設定する場合の注意点
    3. あわせて出る:仮通常実施権
  6. 5. 資金調達(政策・実務面):ベンチャー、信託、そして日米欧の違い
    1. ベンチャー企業のステージ別の資金調達
    2. 知的財産信託
    3. 日本・米国・欧州の知財ファイナンスの違い
  7. 6. 【2026年の新論点】企業価値担保権——第55回で狙われる可能性が高い
    1. 概要
    2. なぜこの分野の受検者にとって重要か
    3. 出題されるとすればどこか
  8. 7. 知財ガバナンス:コーポレートガバナンス・コードと開示
    1. コーポレートガバナンス・コード(2021年6月改訂)
    2. 知財・無形資産ガバナンスガイドライン
  9. 8. この分野の学習手順(推奨)
    1. ステップ1:メリデメ表を暗記する(所要:1時間)
    2. ステップ2:ロイヤルティ免除法と利益三分法を押さえる(所要:1時間)
    3. ステップ3:担保の可否を条文で確認する(所要:1時間)
    4. ステップ4:出典資料に目を通す(所要:数時間〜)
    5. ステップ5:過去問で分野別に横断演習
  10. 9. よくある質問
  11. まとめ
    1. 次に読む
    2. 参考・出典
    3. 共有:
    4. 関連

はじめに:2級のテキストには載っていない分野が、ここにある

[知的財産管理技能検定1級(特許専門業務)学科試験]の出題範囲を初めて見た2級合格者は、たいてい同じところで手が止まります。

  1. 活用  3-1 契約  3-2 エンフォースメント  3-3 資金調達  3-4 価値評価

契約もエンフォースメントも、2級の延長線上でイメージがつきます。しかし資金調達価値評価は違う。2級のテキストを最初から最後までめくっても、まとまった記述はまず見つかりません。

そして、ここでほとんどの人が最初の判断ミスをします。

「マイナー分野だから後回しでいいだろう」

1級学科の合格基準は**満点の80%**です。45問中、落とせるのは9問だけ。捨て分野を作る余裕がある試験ではありません。しかも資金調達・価値評価は、出題範囲の大項目として独立して立っている分野です。数問レベルでは確実に出ます。

逆に言うと、ここは得点源にしやすい分野でもあります。理由は次の章のとおりです。


1. なぜこの分野の教材は薄いのか——出典が公開資料だから

1級学科の対策で最初に気づくのは、2級ほど市販教材が充実していないという事実です。特に資金調達・価値評価は、まとまった解説書がほとんどありません。

ただ、過去問を分野別に洗っていくと、その理由がはっきりします。

この分野の問題は、特定の公開資料からほぼそのまま作られています。

実際に過去問の設問文には、出典が明記されています。分野別に拾い上げると、繰り返し登場するのは次の資料です。

この分野の「元ネタ」となっている一次資料

資料名発行この資料から出る論点
知的財産の価値評価について特許庁/発明協会アジア太平洋工業所有権センター(2017年)3アプローチの定義とメリデメ、利益三分法、ロイヤルティ免除法、リアルオプション法
知財のビジネス価値評価検討タスクフォース報告書内閣府 知的財産戦略本部事務局(平成30年5月)各アプローチの長所・短所の組合せ
一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集経済産業省・特許庁(平成30年)ベンチャーのステージ別の資金調達と知財課題
知的財産の流通・資金調達事例調査報告経済産業省(平成19年11月)日本・米国・欧州の知財ファイナンスの違い
コーポレートガバナンス・コード東京証券取引所(2021年6月改訂)知的財産への投資に関する「監督」と「開示」

これは受検者にとって朗報です。出題範囲が本の形で売られていないだけで、無料で読める形で公開されているからです。

市販教材を探して見つからずに諦めるのではなく、この5本を押さえにいく。それがこの分野の正しい攻め方です。


2. 価値評価:3つのアプローチは「メリデメの組合せ」で問われる

まず全体像です。知的財産の金銭的価値の評価方法には、大きく3つのアプローチがあります。

3つのアプローチの基本

アプローチ別名何をベースに評価するか
インカム・アプローチ収益還元法その資産が将来生み出す収益(=将来の経済的便益の現在価値)
コスト・アプローチ原価法その資産を入手・開発するために要したコスト
マーケット・アプローチ取引事例比較法類似の取引事例で設定された取引価格

ここまでは言葉のとおりです。問題は次の表で、1級学科ではこの組合せがほぼ毎回のように問われます。

【最重要】メリット・デメリットの対応表

アプローチメリットデメリット
インカム(収益還元法)将来の収益性を評価に反映できる収益予測が難しく、主観的判断が介在しやすい
コスト(原価法)評価データが客観的/計算が容易/未利用特許の評価が可能技術の収益力を反映していない
マーケット(取引事例比較法)客観的な経済的評価に近いデータが不足している
リアルオプション法特定の公式に基づいて評価できる原資産価格について特別にデータの蓄積が必要

この表を、縦にも横にも言えるようにしてください。

実際の出題を見ると、たとえば第34回では上表の空欄補充がそのまま出題されています(内閣府タスクフォース報告書からの引用として、「将来の収益性を反映できるが主観的判断が介在しやすい」=インカム、「客観的で計算が容易だが技術の収益力を反映しない」=コスト、「客観的な経済的評価に近いがデータが不足」=マーケット、という対応を答えさせるもの)。

第37回・第46回では、選択肢の一部だけを入れ替えた「最も不適切なものを選べ」という形式で出ています。よくある入れ替えパターンはこの2つです。

  • ❌ 「原価法のメリットは、技術の収益力を反映できること」 → 収益力を反映するのはインカム。原価法のメリットは客観性・計算の容易さ・未利用特許の評価可能性
  • ❌ 「収益還元法は、収益予測が容易であることから客観的に評価できる」 → 逆。収益予測が難しく主観が入りやすいのが収益還元法のデメリット

メリットとデメリットを1つずつ入れ替えるのがこの分野の定番の作り方です。だから丸暗記が効きます。

コスト・アプローチの「未利用特許の評価が可能」は落とさない

見落とされがちですが、コスト・アプローチのメリットに**「未利用特許の評価が可能」**が含まれる点は重要です。

理屈は単純で、インカム・アプローチは収益を生んでいることが前提なので、使われていない特許は評価できません。一方コスト・アプローチは「作るのにいくらかかったか」なので、使っていなくても計算できる。この一点だけで正誤が決まる選択肢が作れるので、狙われます。


3. ロイヤルティ免除法と利益三分法——最大の引っかけポイント

3アプローチの下位に、具体的な評価手法があります。1級学科で頻出なのがこの2つです。

ロイヤルティ免除法(Relief from Royalty)

考え方はこうです。

評価対象の特許権の所有者が、その使用を第三者からライセンスされているものと仮定した場合に、その第三者に支払うことが想定されるロイヤルティコストを、類似するライセンス契約から推定する

要するに、「この特許を自分が持っていなかったら、いくらライセンス料を払わなければならなかったか」を計算し、それを免れている分=特許の価値とみなす方法です。

計算式は第19回でそのまま問われています。

評価額 = 各年の( S × R × D )の総和

  S:各年における当該製品の売上見込み
  R:想定ロイヤルティレート
  D:現在価値への割引係数
     ※ t年後の割引率をr とすると D = 1 /(1+r)^t

ポイントは、割引係数Dを「掛ける」ことです。選択肢には S×R/DS×D/R が並びますが、将来の金額を現在価値に引き直すのだから、1より小さいDを乗じて小さくするのが正しい。式の形で迷ったら、この理屈に戻れば間違えません。

なお第43回では、より正確には売上高そのものではなく**梱包料・輸送費・保険料等を控除した「正味販売価格」**にロイヤルティ・レートを乗じる、という記述も問われています。細かいですが、こういう一文がそのまま選択肢になります。

利益三分法

事業を通して得られた利益額を、技術・経営・資本の3つの要素によって生み出されたものとして、技術の貢献度を3分の1として把握する方法

覚えるべきは3点です。

  1. 3要素は「技術・経営・資本」
  2. 技術の貢献度は 1/3
  3. 適用する利益額は 税引き前の営業利益額

【頻出の罠】この2つは何アプローチか?

ここが、この分野で最も間違えやすいところです。

❌ 「利益三分法およびロイヤルティ免除法は、いずれもいわゆるマーケット・アプローチに属する評価方法である」

これは誤りです。 どちらもインカム・アプローチに属します。

引っかかりやすい理由もはっきりしています。ロイヤルティ免除法は「類似するライセンス契約から推定する」と説明されるので、市場データを使う=マーケット・アプローチだろうと直感的に思ってしまう。しかし分類の基準は「何のデータを使うか」ではなく**「将来の収益に着目しているか」**です。

ロイヤルティ免除法は将来の売上見込みを現在価値に割り引く。利益三分法は事業利益を分解する。どちらも収益をベースにしている以上、インカム・アプローチです。

第43回で実際に出題されている論点なので、ここは確実に押さえてください。

DCF法と割引率

インカム・アプローチの代表的な算定手法がDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)です。第9回で手順が問われています。

  • 知的財産権から将来生じる収入を予測し、現在価値に引き直して総計する
  • 収入の期間は、知的財産権の法定の存続期間を基準に算定する
  • 使用する割引率は、WACC(加重平均資本コスト)を用いるのが合理的とされる

WACCという略語は、2級では出てきません。財務側の用語なので、初見だと面食らいます。「割引率=WACC」だけでも紐づけておいてください。

リアルオプション法

4つ目の評価法として登場します。

資産が将来において実現する形について複数の可能性があるものととらえ、それらに対して資産の保有者が選択権(オプション)を有しているとして、その選択権の価値を評価する方法

  • メリット:特定の公式に基づいて評価できる
  • デメリット:原資産価格(技術自体の市場価格)について、特別にデータを蓄積しておく必要がある

出題頻度はやや落ちますが、選択肢の1つとして混ざってくるので、定義とメリデメだけは押さえておく価値があります。


4. 資金調達(法律面):担保にできる権利・できない権利

資金調達分野は、大きく法律の話政策・実務の話に分かれます。まず法律面から。ここは2級で培った条文の感覚がそのまま使えるので、得点しやすい領域です。

知財を担保にするときの整理

手段特許権特許を受ける権利
質権○ 設定できる× できない(特許法33条2項)
抵当権× 設定できない×
譲渡担保○ 明文の禁止なし○ 明文の禁止なし

3つの論点があります。

① 特許を受ける権利には質権を設定できない

特許法33条2項が明文で禁じています。「出願さえしておけば、権利化前でも質権の目的にできる」——これは誤りです。過去問でも選択肢としてそのまま出ています。

② 抵当権は設定できない

抵当権は目的物が限定された物権であり、特許権はその対象ではありません。「特許出願をすればすぐに抵当権の目的とすることができる」という選択肢は誤りです。

③ 譲渡担保は禁止されていない

譲渡担保は非典型担保物権であり、特許を受ける権利についても明文では禁じられていません。「譲渡担保の目的とすることは禁止されている」という選択肢は誤りになります。

質権は明文で禁止、譲渡担保は明文で禁止されていない——この対比が問題の骨格です。

特許権に質権を設定する場合の注意点

  • 質権の設定は登録が効力発生要件(特許法98条1項3号)。契約だけでは効力が生じません
  • 質権者は、契約で別段の定めをした場合を除き、その特許発明を実施できない(特許法95条)

②は直感に反するので狙われます。質権を取った側が自由に実施できるわけではありません。

あわせて出る:仮通常実施権

資金調達の文脈で、権利化前の活用手段として仮専用実施権・仮通常実施権が絡んできます。

ポイントは、出願公開の前後を問わず許諾できるという点です。「出願公開されていないと仮通常実施権は許諾できない」という趣旨の選択肢は誤りになります。


5. 資金調達(政策・実務面):ベンチャー、信託、そして日米欧の違い

ベンチャー企業のステージ別の資金調達

経済産業省・特許庁「一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」(平成30年)が出典です。

ステージ状態主な資金調達源知財の課題
シード製品・サービスが未確立、主に研究開発段階エンジェル、VC等資金が不十分で海外出願等が困難
アーリー最初の製品・サービスの事業化前後ベンチャーキャピタル等他社との知財の取得・契約交渉が多発し、知財人材が不足
ミドル成長段階。顧客を確保しある程度の売上が見込める金融機関からの融資も選択肢に中長期的に知財の支援者となる人材の発掘が必要

出題では、**ステージと資金調達源の対応が入れ替えられます。**特に狙われるのが、シードステージで「VCではなく金融機関からの融資を受けるべき」とする選択肢です。研究開発段階で実績も担保もない企業に、金融機関が融資するのは実態に合いません。**シード〜アーリーはエクイティ(VC)、成長してからデット(融資)**という順序が原則です。

知的財産信託

特許権を信託銀行等に信託するスキームです。委託者側のメリットとして整理されるのは次の3点です。

  1. 管理業務・契約締結業務・侵害/訴訟対応を信託銀行等が行うため、事務負担が軽減される
  2. 企業規模や業種が異なる相手でも、信託銀行等が介在することで相手側の信頼感・納得感を得やすい
  3. 信託銀行等のネットワークを活かしたライセンス活動が可能になり、自社では接点のない異業種にアクセスできる

さらに、信託は管理型(知財やライセンスの管理を目的とする)と資金調達型(知財から得られる収益を裏付けに資金調達を行う。信託受益権の販売等)に分けて理解しておくと、選択肢の判別が楽になります。

日本・米国・欧州の知財ファイナンスの違い

経済産業省「知的財産の流通・資金調達事例調査報告」(平成19年11月)が出典です。古い資料ですが、地域の特徴を対比させる問題として出ています。

地域特徴
米国ヘッジファンドやPEファンドが参入。知財担保融資、将来のロイヤルティ収入を現在価値に割り引いて購入するストラクチャード・ファイナンス型が多い。投資対象は医薬品業界が中心
日本知財担保融資は民間金融機関では実績が少ないが、政府系銀行では取扱いが多い。流動化はアニメ・映画等のコンテンツ分野で実績が多く、特許・商標は限定的。信託を利用した資金調達も可能
欧州知財を対象とした資金調達スキームはわずか。対象は音楽・映画等の著作権か、商業化された医薬等、すでにロイヤルティ収入が生み出されているものに限定

覚え方のコツは、キーワードを1つずつ紐づけることです。米国=ヘッジファンド・医薬品、日本=政府系銀行・コンテンツ・信託、欧州=わずか・既存ロイヤルティ収入。この6語で判別できます。


6. 【2026年の新論点】企業価値担保権——第55回で狙われる可能性が高い

ここからは過去問には出ていませんが、2026年11月の第55回学科試験で出題される可能性がある新しい制度です。

概要

項目内容
名称企業価値担保権
根拠法事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)
成立2024年6月7日
施行2026年5月
担保の目的不動産等の有形資産に加え、知的財産・事業ノウハウ・顧客基盤等の無形資産を含む「総財産(事業価値)」
担保権者信託業免許を受けた事業者に限定

なぜこの分野の受検者にとって重要か

これまで、知財を活用した資金調達には構造的な限界がありました。個別の特許権に質権を設定する方式では、その特許単体の価値しか担保にできないからです。しかし企業の競争力は、特許・ノウハウ・ブランド・顧客基盤が組み合わさった全体にあります。

企業価値担保権は、そこを事業価値というまとまりで担保に取れるようにした制度です。従来の「不動産担保・経営者保証への依存」から、事業の実態と将来性に着目した融資への転換を狙ったものと位置づけられています。

つまりこれは、「資金調達」と「価値評価」の両方の論点にまたがる制度です。1級学科の出題範囲の設計思想にぴったり重なります。

出題されるとすればどこか

  • 担保の目的財産に無形資産・知的財産が含まれるという点
  • 従来の質権・譲渡担保との違い(個別財産 vs 総財産)
  • 担保権者が信託業免許を受けた事業者に限定される点
  • 施行時期

2026年5月施行で、試験は2026年11月15日。施行から半年後の試験です。時事性の高い制度が試験範囲に反映されるまでにはタイムラグがありますが、この分野の出題担当が触れないとは考えにくい論点です。深追いする必要はありませんが、上の表くらいは頭に入れておく価値があります。


7. 知財ガバナンス:コーポレートガバナンス・コードと開示

価値評価分野には、もう一つ「経営と知財の接続」という柱があります。

コーポレートガバナンス・コード(2021年6月改訂)

東京証券取引所が2021年6月に改訂したコーポレートガバナンス・コードに、「知的財産への投資」に関する「監督」と「開示」の記述が入りました。

これは知財実務にとって画期的な出来事でした。それまで知財は「法務・技術部門の管理業務」でしたが、上場企業が取締役会レベルで監督し、投資家に開示すべき経営事項として明確に位置づけられたからです。

覚えるべきキーワードは3つ:2021年6月改訂/知的財産への投資/監督と開示

知財・無形資産ガバナンスガイドライン

このコード改訂を受けて、内閣府(知的財産戦略推進事務局)が策定したのが「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」です。Ver.2.0が2023年3月に公表されており、企業の開示と投資家の期待との間に乖離があるという問題意識のもとで改訂されています。

「価値評価」という出題項目が、単なる算定テクニックの話ではなく、知財を経営資源として投資家に説明するための枠組みの話でもある——ここが、2級との一番大きな発想の違いです。


8. この分野の学習手順(推奨)

以上を踏まえて、具体的な進め方を提案します。

ステップ1:メリデメ表を暗記する(所要:1時間)

第2章の表を、白紙に書き出せるようにする。この分野の得点の半分近くはここで取れます。最もコスパが高い作業です。

ステップ2:ロイヤルティ免除法と利益三分法を押さえる(所要:1時間)

  • ロイヤルティ免除法:Σ(S×R×D)、正味販売価格ベース
  • 利益三分法:技術・経営・資本、技術は1/3、税引前営業利益
  • 両方ともインカム・アプローチ

ステップ3:担保の可否を条文で確認する(所要:1時間)

特許法33条2項(特許を受ける権利の質権禁止)、95条(質権者の実施制限)、98条1項3号(質権設定登録=効力発生要件)。2級で条文を引く癖がついている人なら、ここは最速で終わります。

ステップ4:出典資料に目を通す(所要:数時間〜)

特に**特許庁「知的財産の価値評価について」(2017年)**は、この分野の出題の中心にある資料です。全文を精読する必要はありませんが、評価手法の一覧と各手法の説明部分だけでも目を通しておくと、選択肢の言い回しに既視感が生まれます。

ステップ5:過去問で分野別に横断演習

この分野は**同じ論点が形を変えて繰り返し出ます。**回をまたいで「価値評価」の問題だけを並べて解くと、出題パターンがはっきり見えてきます。分野別に解くほうが、年度別に通しで解くより圧倒的に効率的です。


9. よくある質問

Q. 資金調達・価値評価は何問くらい出ますか? A. 回によって変動しますが、出題範囲の大項目として独立しているため、複数問が安定して出題されています。80%基準の試験では無視できない比重です。

Q. 財務・会計の知識がないと解けませんか? A. 必要ありません。DCF法やWACCといった用語は出ますが、問われるのは概念と手順であって計算そのものではありません。ロイヤルティ免除法の式も、「将来の金額を現在価値に割り引く」という理屈がわかれば選べます。

Q. 出典資料は全部読む必要がありますか? A. いいえ。優先順位をつけるなら、特許庁「知的財産の価値評価について」(2017年)が1番、内閣府のタスクフォース報告書が2番です。この2本で価値評価分野の大半がカバーできます。

Q. 古い資料(平成19年など)からも出るのですか? A. 出ます。日米欧の知財ファイナンスの比較は平成19年の報告書が出典です。この分野は最新性より、公式資料に書かれた記述そのものが問われる傾向があります。

Q. 企業価値担保権は本当に出ますか? A. 断言はできません。2026年5月施行の新制度であり、試験問題への反映にはタイムラグがあります。ただし出題範囲の中心テーマと直結する制度であり、概要を押さえるコストは低いので、やっておいて損はない、という位置づけです。


まとめ

  1. 資金調達・価値評価は捨てられない。 80%基準の試験で、独立した大項目として出題されます
  2. 教材が薄いのは、出典が公開資料だから。 特許庁・内閣府・経産省の5本を押さえるのが正攻法です
  3. メリデメ表の暗記が最短ルート。 3アプローチ+リアルオプション法の長所短所は、入れ替えて出題されます
  4. 最大の罠は、ロイヤルティ免除法と利益三分法の分類。 どちらもインカム・アプローチです
  5. 担保の可否は条文で決まる。 特許を受ける権利は質権不可・譲渡担保可、抵当権は不可
  6. 2026年5月施行の企業価値担保権は要チェック。 知財を含む事業価値を担保に取る新制度です

この分野は、知財を「法律の問題」ではなく「経営と金融の問題」として扱うための入口です。理解が進むと、1級学科の他分野——特にリスクマネジメントやガバナンス——の見え方も変わってきます。

次回の1級(特許専門業務)学科試験は2026年11月15日、Web申込の期限は2026年10月6日です。


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知財検定1級 対策ノート|知財のすみっこ|note
知的財産管理技能検定1級(特許専門業務・特許管理業務)の対策マガジンです。 過去問を回すうちに気づいた「出題者が本当に求めている知識」を、条文の暗記だけでは見えてこない角度からまとめています。出典文献の整理、頻出論点の対応表、引っかかりやすい選択肢のパターンなど。 実際に過去問を解きながら書いているので、参考書には...

参考・出典

本記事の情報は2026年8月時点のものです。制度・日程は変更される可能性があるため、出願前に必ず公式サイトでご確認ください。過去問の内容は論点の整理のために要約・再構成したものであり、問題文そのものの転載ではありません。

・免責事項

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