化粧品・トイレタリー分野における特許出願中間対応事例集:進歩性拒絶理由克服のための意見書戦略

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一般的な生成AIに指示を出して何度か修正したものですが、その出来に驚きを感じました。企業知財部の仕事の在り方が大きく変わってくることを実感できるかと思います。


  1. 1. はじめに:本事例集の目的と進歩性判断の基礎
    1. 企業知財部担当者様へ:本事例集の活用方法
    2. 特許法における「進歩性」の意義と判断の枠組み(特許法第29条第2項)
    3. 審査官による進歩性判断の基本的な考え方と論理付け
  2. 2. 進歩性拒絶理由通知への対応方針の基本
    1. 拒絶理由通知の内容把握と構成対比表の作成
    2. 反論の切り口:審査官の認定誤り、容易想到性判断の誤り
    3. 意見書作成のポイント:法的根拠、技術的説明、証拠提示
  3. 3. 化粧品・トイレタリー分野における進歩性拒絶理由と意見書主張パターン(全7カテゴリ)
    1. 進歩性拒絶理由と意見書主張パターン一覧
    2. 各パターンの詳細解説と意見書主張例
      1. 1. 構成要素の選択・組み合わせによる進歩性
      2. 2. 数値・パラメータ限定による進歩性
      3. 3. 用途・機能限定および製造方法の限定による進歩性
      4. 4. 予測できない顕著な効果による進歩性
      5. 5. 動機付けの欠如・阻害要因の存在による進歩性
      6. 6. 複雑な論理付け・構成変更・新たな課題解決手段による進歩性
      7. 7. 引用文献の解釈・後知恵の排除による進歩性
  4. 4. 意見書作成における留意点と実践的アドバイス
    1. 明細書記載の重要性:出願時の記載が意見書主張の根拠となる
    2. 実験データの活用:顕著な効果を裏付けるためのデータ提示
    3. 進歩性判断における有利な効果の類型と証明のポイント
    4. 補正の検討:意見書と補正の連携戦略
    5. 審査官とのコミュニケーション
  5. 5. まとめ
      1. 引用文献
    1. 共有:
    2. 関連

1. はじめに:本事例集の目的と進歩性判断の基礎

本事例集は、企業知的財産部の担当者が実務で活用できるよう、特許出願における進歩性拒絶理由への対応戦略を、化粧品・石鹸などのトイレタリー分野に特化して解説します。進歩性の基本的な考え方から、具体的な拒絶理由パターンとその克服方法まで、実践的な知識を提供することを目的としています。

企業知財部担当者様へ:本事例集の活用方法

本事例集は、特許出願の中間対応、特に進歩性に関する拒絶理由通知を受けた際の意見書作成に役立つよう構成されています。各事例は、実際の拒絶理由の類型と、それに対する効果的な主張内容、そして参考となる特許出願や審決の番号を提示することで、具体的な対応策を検討する際の指針となることを目指しています。拒絶理由の論理を理解し、的確な反論を構築するための思考プロセスを習得する手助けとなるでしょう。

特許法における「進歩性」の意義と判断の枠組み(特許法第29条第2項)

特許法第29条第2項は、発明が新規性を有する場合においても、「その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)」が公知技術に基づいて容易に発明することができた時は「進歩性がない」と判断されると規定しています 1。進歩性のない発明に特許を付与しない理由は、公知材料から容易に推考できる発明に独占権を付与すると、第三者の技術実施の自由を不当に圧迫し、産業の発達に寄与するという特許制度の趣旨に反するためです 3

進歩性の判断は、一般的に、①本願発明の認定、②引用発明の認定、③本願発明と引用発明の一致点・相違点の認定、④相違点に関する容易性の判断、という枠組みで行われます 4。この枠組みは、発明の性質や技術分野に関係なく適用されるものです。

日本の進歩性審査基準は、平成5年の策定時や平成12年の改訂時において、国際調和の観点も考慮されてきました 3。この国際調和は、日本の知的財産部が国際出願を行う際に、各国の審査基準の違いによる新たな負担を軽減するという目的があります。したがって、日本国内での進歩性判断の論理が、海外の主要国でも通用しやすいことを示唆しており、意見書で主張する論理は、国際的な視点から見ても説得力を持つように構築すべきであると言えます。これは、グローバルな事業展開を行う化粧品・トイレタリーメーカーにとって、知的財産戦略を国際的に統一する上で重要な意味を持ちます。

審査官による進歩性判断の基本的な考え方と論理付け

審査官は、請求項に係る発明の進歩性の判断を、先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行います 2。この論理付けには、「主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」や「技術常識の考慮」などが含まれます 2

審査官は、進歩性の判断を行う際に、請求項に係る発明の知識を得た上で、後知恵に陥らないように留意しなければならないとされています 2。これは、審査官が引用文献を組み合わせる際に、本願発明の構成や効果を知った上で、あたかもそれが容易に想到できたかのように論理付けしている「後知恵」に陥っている可能性を指摘し、その論理付けが「出願時の技術水準から見て、当業者が予測できなかった、または動機付けがなかった」ことを強調することが、意見書において有効な反論となり得ることを意味します。特に、化粧品・トイレタリー分野では、成分の組み合わせや処方における微妙な違いが、最終製品の安定性、使用感、効果に大きく影響するため、この「後知恵」による判断を排除する主張は、進歩性肯定に繋がりやすいと考えられます。

2. 進歩性拒絶理由通知への対応方針の基本

進歩性拒絶理由通知を受けた際の効果的な対応は、審査官の判断を正確に理解し、それに対して論理的かつ説得力のある反論を構築することにあります。

拒絶理由通知の内容把握と構成対比表の作成

まず、審査官が本願発明と引用文献の一致点と相違点をどのように認定しているかを把握することが不可欠です 5。進歩性を否定する理由、すなわち、当業者が相違点を容易に想到し得ると判断した理由を深く理解することが求められます 5。独立請求項を複数の発明特定事項に分割し、引用文献に記載されているか(〇)いないか(×)を判断する構成対比表を作成することで、審査官の判断を整理し、反論のポイントを明確にできます 5

反論の切り口:審査官の認定誤り、容易想到性判断の誤り

拒絶理由通知への対応には、大きく分けて二つの切り口があります。

  1. 「主引用文献に発明特定事項が記載されている」という判断に誤りがある場合:
  • 請求項の発明特定事項の解釈に誤りがある場合、その理由を詳細に説明するか、請求項を補正して明確化します 5
  • 引用文献の記載に対する審査官の解釈に誤りがある場合、その誤りを指摘し、正しい解釈を提示します 5
  1. 「主引用文献において発明特定事項を採用することが容易に考えられる」という判断に誤りがある場合:
  • 審査官が発明の効果を考慮していない、または「優れた発明の効果を有するものではない」という判断に誤りがある場合、本願発明が主引用文献に比べて優れていることを具体的なデータや根拠をもって説明します 5
  • 「主引用文献において相違点である発明特定事項を採用することは容易」という判断の誤りがある場合、容易でない理由(例えば、動機付けの欠如、阻害要因の存在、予測できない効果など)を説明します 5

前者は審査官の事実認定(引用文献の解釈や請求項の解釈)に対する「守りの反論」と位置づけられます。一方、後者は発明の技術的意義や効果を強調する「攻めの反論」と捉えることができます。化粧品・トイレタリー分野では、成分の微細な配合比率や特定の製造条件が、使用感や安定性、効果に予期せぬ影響を与えることが多いため、単に引用文献に記載がないと主張するだけでなく、「なぜその違いが重要で、当業者が容易に想到できなかったのか」を「攻め」の姿勢で主張することが、進歩性肯定に繋がりやすい傾向があります。このバランスの取れたアプローチが、成功的な中間対応の鍵となります。

意見書作成のポイント:法的根拠、技術的説明、証拠提示

意見書は、拒絶理由に反論するための文書であり、審査官が指摘した拒絶理由が不当である場合や、補正を加えずに特許要件を満たしていると考えられる場合に有効です 6

  • 法的根拠への反論: 拒絶理由の法的根拠(進歩性の欠如など)について、具体的な反論を示します 6
  • 技術的説明: 発明が既存技術とは異なる点や、進歩性を有する理由を詳細に説明します 6。特に、化学組成物においては、成分の相互作用や構造的特徴がもたらす技術的意義を明確にすることが重要です。
  • 証拠の提示: 必要に応じて、技術文献や実験データ、比較データなどを提示して反論を裏付けます 6。特に、顕著な効果を主張する際には、客観的なデータが不可欠です。

数値範囲で限定されている請求項の場合に、引用文献の実施例がその数値範囲を満たさないことを証明するために、クライアントに依頼して実験を行い、引用文献の実施例が数値範囲を満たさないことを証明することも有効です 5。この際、単に実験データがあれば良いというわけではなく、そのデータが「引用発明と比較して、異質な効果」または「際立って優れた効果」を明確に示すものである必要があります 2。特に、化粧品・トイレタリー分野では、効果の評価が主観的になりがちであるため、客観的かつ再現性のある実験データ、そしてそのデータが「技術水準から予測することができたものではない」ことを示すための比較データが、進歩性を主張する上で極めて重要になります。データが示す「顕著性」が、審査官の容易想到性の論理付けを崩す決定打となり得ます。

3. 化粧品・トイレタリー分野における進歩性拒絶理由と意見書主張パターン(全7カテゴリ)

本章では、化粧品・トイレタリー分野に特有の進歩性拒絶理由のパターンを、より最適化されたカテゴリに再編成し、それぞれに対する意見書での効果的な主張内容を、具体的な事例や参考特許番号とともに解説します。

進歩性拒絶理由と意見書主張パターン一覧

カテゴリ拒絶理由の類型審査官からの拒絶理由通知例意見書での主張内容例参考特許出願/審決番号
1. 構成要素の選択・組み合わせによる進歩性単純な組み合わせ・最適材料の選択「成分Aと成分Bの組み合わせは当業者なら容易に想到できる、または最適材料の選択に過ぎない。」「引例には成分Aと成分Bを組み合わせる動機付けがなく、組み合わせにより予測できない相乗効果を奏する。」知財高裁 平成20年(行ケ)第10353号 8
成分の特定範囲における相乗効果「特定の成分の組み合わせは公知であり、相乗効果も予測できる。」「特定の成分の組み合わせが、公知の範囲を超えた予測不能な相乗効果を奏することを、具体的なデータで示す。」25,
2. 数値・パラメータ限定による進歩性数値限定発明「請求項の数値限定は、引用発明の技術範囲内での最適化に過ぎず、顕著な効果が認められない。」「限定された数値範囲内でのみ、引用発明とは異質な、または際立って優れた効果が奏されることを実験データ等で示す。」特許5046756 7
パラメータ限定による進歩性「特定のパラメータの限定は、当業者が容易に想到できる範囲である。」「限定されたパラメータが、従来技術では見出されなかった臨界的意義を有し、顕著な効果をもたらす。」東京地判令和元年(ワ)第31214号 10
3. 用途・機能限定および製造方法の限定による進歩性用途限定・機能限定発明「公知の組成物を特定の「スキンケア用化粧料」という用途に限定したに過ぎず、新たな技術的意義や効果が認められない。」「当該用途や機能限定が、技術的意義を有し、予測できない有利な効果をもたらすことを主張。」特許第6353838号 11
製造方法の限定による進歩性「製造方法の限定は、単なる製造条件の選択に過ぎない。」「特定の製造方法を採用することで、従来技術では得られなかった、または予測できなかった有利な効果が奏される。」12
4. 予測できない顕著な効果による進歩性予測できない顕著な効果「請求項に係る発明の保湿効果は、引用発明の組成物から予測できる範囲内であり、顕著な効果とは言えない。」「本願発明が引用発明と比較して、技術水準から予測できない異質な効果、または際立って優れた効果を奏することを具体的に説明し、実験データ等で裏付ける。」最高裁 平成30年(行ヒ)第69号, 26
5. 動機付けの欠如・阻害要因の存在による進歩性阻害要因の存在「引用発明を組み合わせることに動機付けがある。」「引用発明の組み合わせは、主引用発明の目的や課題に反する阻害要因が存在するため、当業者が容易に想到し得ない。」平成30年(行ケ)第10078号 13
課題の共通性・動機付けの欠如「引用発明間で課題が共通しており、組み合わせる動機付けがある。」「引用発明間で課題の共通性はなく、技術分野の関連性も低いため、組み合わせる動機付けがない。」知財高判令和3年(行ケ)第10136号 14, 令和5年(行ケ)10143号 15
技術分野の非関連性「引用発明(工業用洗浄剤)の技術は、本願発明(化粧品用洗浄剤)と技術分野が関連しており、その技術を転用することは容易である。」「引用発明の技術分野は本願発明と関連性が低く、その技術を適用することには動機付けがなく、むしろ阻害要因が存在する。」特許第3927623号 (平成24年(行ケ)第10221号) 16
6. 複雑な論理付け・構成変更・新たな課題解決手段による進歩性容易の容易ではない論理付け「主引用発明に副引用発明を適用し、さらに他の周知技術を適用することは容易である。」「複数の引用発明や周知技術を段階的に組み合わせることは、当業者にとって容易ではなく、動機付けも存在しない。」17
構成の簡素化・複雑化「構成の簡素化/複雑化は、設計変更の範囲内であり、進歩性がない。」「簡素化/複雑化により、予測できない新たな効果や、従来技術では解決できなかった課題が解決されることを主張。」東京地判 平成30年11月15日 18
特定の課題解決手段の新規性「本願発明の課題解決手段は、引用発明の技術を転用したに過ぎない。」「本願発明の課題解決手段は、引用発明の技術とは異なるアプローチであり、その採用には動機付けがなく、新たな課題解決効果を奏する。」特許7145352 19, 特許第5569848号 (平成27年(行ケ)第10231号) 22
7. 引用文献の解釈・後知恵の排除による進歩性引用発明の示唆の欠如「引用文献1には、本願発明の特定の製造方法を適用することに関する示唆が間接的に記載されており、当業者は容易に想到できる。」「引用発明には本願発明の構成や効果に関する示唆が一切なく、後知恵で判断されている。」2

各パターンの詳細解説と意見書主張例

1. 構成要素の選択・組み合わせによる進歩性

単純な組み合わせ・最適材料の選択

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明と引用文献1に記載された発明は、化合物Aとアルコール成分を反応させる点で共通する。引用文献1にはアルコール成分としてエタノールを用いることの記載はないが、引用文献1の明細書には、用いられるアルコール成分は炭素数の少ないアルコールの方が好ましいことが記載されている。したがって、引用文献1において、化合物Aと反応させるアルコール成分として、エタノールを採用することは、最適材料の選択に過ぎない。」5
  • 意見書での主張内容例:
  • 「引用文献には成分Aと成分Bを組み合わせる動機付けがありません。引用文献1は特定の目的のために成分Aを単独で使用する技術を開示しており、成分Bとの組み合わせについては何ら示唆していません。また、成分Bは当該技術分野において多様な用途に用いられる一般的な成分ではありますが、成分Aと組み合わせることで、引用文献1の課題を解決する、または新たな課題を解決する動機付けは存在しません。」
  • 「本願発明における成分Aと成分Bの組み合わせは、予測できない相乗効果を奏します。例えば、両成分を単独で使用した場合や、公知の他の成分と組み合わせた場合には得られない、特定の肌への浸透性向上、保湿効果の持続性向上、または刺激性の顕著な低減といった効果が確認されています。これは当業者が最適材料の選択として容易に想到できる範囲を超えたものです。」
  • 参考特許出願/審決番号: 糖尿病治療薬の組み合わせに関する判決(知財高裁 平成20年(行ケ)第10353号)では、組み合わせと用量規定の動機付けを認めた上で、効果の顕著性を否定し進歩性を否定した事例があります 8。これは、組み合わせによる効果が予測可能であったと判断された例であり、意見書では「予測できない」ことを強調する必要があります。

成分の特定範囲における相乗効果

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「成分Xと成分Yを組み合わせることは公知であり、その保湿効果の相乗作用も当業者には予測できる範囲である。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明における成分Xと成分Yの特定の配合比率(例:X:Yが1:3~1:5)での組み合わせは、公知の範囲を超えた予測不能な相乗効果を奏します。添付の実験データ(表A)が示す通り、この特定の比率範囲内でのみ、両成分が単独で示す保湿効果の合計をはるかに上回る、飛躍的な保湿力と、さらに肌のターンオーバー促進効果という異質な効果が確認されました。この相乗効果は、個々の成分の公知の作用からは全く予測できず、当業者を驚かせるものです。引用文献は両成分の存在を示唆するものの、この特定の比率における相乗効果、特に異質な効果の発現については何ら開示していません。」
  • 参考特許出願/審決番号: 化学組成物の進歩性判断において、各組成物が単独の作用をするだけで合計の技術的な相乗効果がない場合、進歩性がないと判断されます 25。したがって、意見書では「相乗効果があること」、かつそれが「予測できないこと」を強調する必要があります。欧州特許庁の審判部の審決T 1814/11では、相乗効果が予測不可能である場合に進歩性が認められるとされています。

2. 数値・パラメータ限定による進歩性

数値限定発明

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明のpHが5.0~7.5であるとの限定は、引用文献に記載された技術範囲内での最適化に過ぎず、当業者が容易に想到できる範囲であり、顕著な効果も認められない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明のpH5.0~7.5という数値限定は、引用発明の技術範囲内での単なる最適化ではなく、この特定の範囲内でのみ、引用発明とは異質な、または際立って優れた効果が奏されることを、添付の実験データ(表X、図Y)が明確に示しています。例えば、このpH範囲外では、有効成分の安定性が著しく低下するか、または皮膚刺激性が増大する一方、本願発明のpH範囲内では、有効成分の安定性が飛躍的に向上し、かつ皮膚刺激性が極めて低減されることが確認されました。これは、引用文献の記載からは予測できない臨界的意義を有するものです。」
  • 「引用文献は広範なpH範囲を示唆しているに過ぎず、本願発明の特定のpH範囲がもたらす有利な効果については何ら示唆していません。当業者にとって、この特定のpH範囲がこのような顕著な効果を奏することは、出願時の技術水準から予測不可能でした。」
  • 参考特許出願/審決番号: アスタキサンチン特許侵害訴訟(特許5046756)において、pHの数値限定(5.0~7.5)の進歩性が争われた事例があります 9。この事例では、明細書に記載されたpH範囲の実験データがあったにもかかわらず、侵害訴訟ではpH限定の進歩性が否定された判決が出ているとされており、これは、数値限定の進歩性を主張する際には、単にデータを示すだけでなく、その効果が「予測を超えた顕著なもの」であることを強力に主張する必要があることを示唆しています 7

パラメータ限定による進歩性

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明の『粘度』や『粒子径』といったパラメータの限定は、当業者が容易に想到できる範囲であり、進歩性が認められない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の『粘度』または『粒子径』の限定は、単なるパラメータの最適化ではなく、この限定された範囲が、従来技術では見出されなかった臨界的意義を有し、顕著な効果をもたらします。例えば、特定の有効成分を配合した化粧水において、粒子径を特定の範囲(例:50nm~100nm)に限定することで、単に浸透性が向上するだけでなく、皮膚の深層部での有効成分の滞留時間が飛躍的に延長され、持続的な効果が発揮されることが確認されました。これは、引用文献が一般的な粒子径の範囲を示唆しているに過ぎず、この特定の粒子径範囲がもたらすこのような『臨界的意義』や『顕著な効果』については何ら開示も示唆もしていません。組成値を満たしても物性値を満たすか分からない場合に、パラメータに着目することの容易性を否定して進歩性が肯定された事例も存在します。」
  • 参考特許出願/審決番号: 組成値を満たしても物性値を満たすか分からない場合に、「パラメータ」に着目することの容易性を否定して進歩性を肯定した事例(東京地判令和元年(ワ)第31214号「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム」事件)があります 10。これは、化粧品・トイレタリー分野における物性(粘度、粒子径、pHなど)のパラメータ限定が、進歩性判断において重要な要素となり得ることを示唆しています。

3. 用途・機能限定および製造方法の限定による進歩性

用途限定・機能限定発明

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明は、公知の組成物を特定の「スキンケア用化粧料」という用途に限定したに過ぎず、新たな技術的意義や効果が認められない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の「スキンケア用化粧料」という用途限定は、単なる用途の追加ではなく、当該用途において従来技術では解決できなかった特定の課題を解決する技術的意義を有します。例えば、引用文献の組成物は一般的な医薬組成物としては公知ですが、皮膚への適用を想定した場合、特定の有効成分の皮膚透過性が極めて低いという問題がありました。本願発明は、当該組成物を特定の粒子径に制御し、特定の界面活性剤を組み合わせることで、スキンケア用途において有効成分の皮膚透過性を飛躍的に向上させることに成功しました。これは、単なる用途の示唆ではなく、組成物の構成に技術的変更を伴うものです。」
  • 「この用途限定により、予測できない有利な効果がもたらされます。例えば、引用文献の組成物は経口投与を前提としており、皮膚適用時の安全性や使用感については考慮されていません。本願発明は、特定の用途に特化することで、皮膚刺激性の極小化と、塗布時のべたつきのない快適な使用感を両立させ、これにより消費者の使用継続率を著しく向上させるという、新たな機能的効果を奏します。これは、引用文献からは予測できない、用途に特化した顕著な効果です。」
  • 参考特許出願/審決番号: 医薬用途発明において、臨床試験プロトコル公開後に出願された抗体の医薬用途発明について、限定解釈により進歩性が認められた事例(特許第6353838号、知財高判令和6年8月7日 令和5年(行ケ)第10019号)があります 11。これは医薬分野の事例ですが、「用途限定が技術的意義を持つ」という点で参考になります。

製造方法の限定による進歩性

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明の製造方法の限定は、公知の製造条件の中から最適なものを選択したに過ぎず、進歩性がない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の特定の製造方法(例:特定の温度・圧力条件下での混合、または特定の攪拌速度)は、単なる製造条件の選択ではなく、この方法を採用することで、従来技術では得られなかった、または予測できなかった有利な効果が奏されます。例えば、特定の有効成分を化粧料に配合する際、従来の製造方法では成分が熱分解を起こしやすかったり、均一に分散しなかったりする問題がありました。本願発明の製造方法は、これらの問題を解決し、有効成分の分解を抑制しつつ、均一かつ安定な分散状態を実現することで、製品の長期安定性と効果の最大化を達成しました。これは、単なる最適化では到達できない、技術的困難性を伴うものです。」
  • 参考特許出願/審決番号: 公知技術の数値範囲を外れているように見えても、出願時の技術を考慮すると重なり合いが認められ、結果として進歩性が否定された事例があります 12。これは、製造方法の数値限定においても、単なる範囲外れではなく、その数値範囲がもたらす予測不能な効果や技術的困難性を明確に主張する必要があることを示唆しています。

4. 予測できない顕著な効果による進歩性

予測できない顕著な効果

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明の保湿効果は、引用発明の組成物から予測できる範囲内であり、顕著な効果とは言えない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の組成物は、引用発明の組成物と比較して、技術水準から予測できない異質な効果を奏します。具体的には、引用発明の組成物は一般的な保湿効果を有するに過ぎませんが、本願発明の組成物は、特定の成分の組み合わせにより、皮膚のバリア機能を修復し、アトピー性皮膚炎患者の肌荒れを顕著に改善するという、従来の保湿剤には見られなかった治療的効果を発揮します。これは、単なる保湿効果の程度の違いではなく、効果の質が異なる『異質な効果』であり、進歩性が認められるべきです。」
  • 「あるいは、本願発明の保湿効果は、引用発明の同質の効果ではありますが、際立って優れた効果を有し、この効果は出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではありません。添付の実験データ(表X)が示す通り、本願発明の組成物は、引用発明と比較して、保湿持続時間が50%以上延長され、24時間後の皮膚水分蒸散量が20%以上低減されるなど、当業者の予想をはるかに超える水準の優位性を示しています。」
  • 参考特許出願/審決番号: 進歩性が肯定される方向に働く要素として「引用発明と比較した有利な効果」が挙げられ、「異質な効果」または「際立って優れた効果」が技術水準から予測できない場合に有力な事情とされます 2。実務において、効果に関する「種類の相違」の方が「程度の相違」よりも受け入れられやすい可能性があり、「程度の相違」を主張するためには当業者の予想をはるかに超える水準に達することを証明しなければならないとされています 26。最高裁 平成30年(行ヒ)第69号では、予測できない顕著な効果の判断方法が示され、その検討が不十分であるとして原審が破棄差戻しされた事例があります。

5. 動機付けの欠如・阻害要因の存在による進歩性

阻害要因の存在

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「引用発明1(化粧料組成物)に引用発明2(特定の安定化技術)を組み合わせることは、当業者にとって容易に想到できる。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「引用発明1の目的は、特定の成分の鮮やかな色調を維持することにあります。一方、引用発明2の安定化技術は、その技術を適用すると引用発明1の鮮やかな色調が失われるという阻害要因が存在します。具体的には、引用発明2の安定化剤は酸化防止作用を持つものの、同時に引用発明1の特定の色素と反応し、変色を引き起こすことが当業者には知られていました。したがって、引用発明1の目的を達成しようとする当業者にとって、引用発明2の技術を組み合わせる動機付けはなく、むしろその適用は避けられるべきものでした。本願発明は、この阻害要因を克服しつつ、色調を維持したまま安定性を向上させる新たな技術的解決策を提供しており、進歩性が認められるべきです。」
  • 参考特許出願/審決番号: 化粧パックに関する特許(平成30年(行ケ)第10078号)において、炭酸塩と酸を2剤に分離していた引用発明の目的(2剤の色分けと混合による色調変化を利用した発泡状態の判断)を達成できなくなるため、あえて1剤に統合する変更は当業者が容易に想到し得ない、つまり阻害要因があるとして進歩性が肯定された事例があります 13。これは、阻害要因の主張の強力な根拠となります。

課題の共通性・動機付けの欠如

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「引用発明間で課題が共通しており、組み合わせる動機付けがある。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「引用発明1は、衣料用洗剤としての洗浄力向上を主たる課題としており、引用発明2は、医療器具の滅菌を課題とする抗菌成分に関するものです。両発明の課題は、一見『衛生性』という点で共通するように見えますが、その技術的課題のレベルと解決手段は大きく異なります。衣料用洗剤の洗浄力向上と医療器具の滅菌は、当業者にとって異なる技術分野であり、それぞれの課題解決のためのアプローチも全く異なります。したがって、引用発明1の課題を解決しようとする当業者にとって、引用発明2の抗菌成分を組み合わせて本願発明の構成に到達する動機付けは存在しません。」
  • 「また、引用発明間で技術分野の関連性も低く、相互に結びつく契機がありません。引用発明2の抗菌成分は、その強力な作用ゆえに、一般的な衣料用洗剤に適用した場合、繊維への損傷や皮膚刺激といった新たな問題を引き起こす可能性があり、当業者はその適用を躊躇するでしょう。このような技術的背景を考慮すれば、両者を組み合わせることは容易想到ではありません。」
  • 参考特許出願/審決番号: 進歩性判断において、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無を判断する際に、技術分野の関連性や課題の共通性が考慮されます 1。特定の課題が知られていなかった場合、引用発明に特定の構成を用いる動機付けがないとして進歩性が認められた事例があります(知財高判令和3年(行ケ)第10136号) 14。引用発明の技術的意義を失わせる構成を本願発明が備えていれば、動機付けなしと判断される事例もあります(令和5年(行ケ)10143号) 15

技術分野の非関連性

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「引用発明(工業用洗浄剤)の技術は、本願発明(化粧品用洗浄剤)と技術分野が関連しており、その技術を転用することは容易である。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「引用発明の工業用洗浄剤と本願発明の化粧品用洗浄剤は、ともに『洗浄』を目的とするものの、その技術分野は大きく異なります。工業用洗浄剤は、強力な洗浄力やコスト効率を重視する一方、化粧品用洗浄剤は、皮膚への安全性、刺激性、使用感(泡立ち、香り、洗い上がりの感触)が極めて重要視されます。引用発明の技術を化粧品分野に転用しようとすると、皮膚刺激やアレルギー反応、製品の安定性低下といった新たな問題が生じる可能性が高く、当業者はその転用を躊躇するでしょう。したがって、引用発明の技術を本願発明に適用することには、技術的な動機付けがなく、むしろ阻害要因が存在します。」
  • 参考特許出願/審決番号: 進歩性判断において、技術分野の関連性が低い場合、動機付けの欠如を主張できます 1。洗浄剤組成物事件(特許第3927623号、平成24年(行ケ)第10221号)では、洗浄剤のpH範囲や主成分に関する議論があり、技術常識の考慮が重要視されています 16。これは、洗浄剤という広範な分野の中でも、その用途(工業用か化粧品用かなど)によって技術常識や課題が異なることを示唆しています。

6. 複雑な論理付け・構成変更・新たな課題解決手段による進歩性

容易の容易ではない論理付け

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「主引用発明(保湿クリーム)に副引用発明A(特定の抗酸化成分)を適用し、さらに周知技術であるカプセル化技術を適用することは、当業者にとって容易に想到できる。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「審査官殿の指摘する『容易の容易』の論理付けは、本願発明の構成を後知恵で分解し、個々の要素が公知であることを根拠にしていますが、これは当業者の思考プロセスを反映していません。主引用発明に副引用発明Aを適用すること自体に動機付けが乏しい上、さらにその抗酸化成分をカプセル化するという発想に至るには、主引用発明の課題とは異なる新たな課題認識と、それを解決するための試行錯誤が必要です。例えば、副引用発明Aは光に不安定であり、主引用発明にそのまま適用すると効果が失われるという問題がありました。この問題を解決するために、当業者が直ちにカプセル化技術を適用することを想到できるとは限りません。特に、化粧品分野では、カプセル化技術の種類も多岐にわたり、特定の成分に最適なカプセル化方法を見出すには、多くの実験と知見が必要とされます。したがって、複数の引用発明や周知技術を段階的に組み合わせることは、当業者にとって容易ではなく、動機付けも存在しません。」
  • 参考特許出願/審決番号: 「容易の容易は、容易ではない」という概念があり、主引用発明に副引用発明を適用し、さらに他の副引用発明や周知技術などを適用する場合には、動機付けを否定できる(=進歩性が認められる)とされています 17

構成の簡素化・複雑化

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明は、引用発明の多成分系組成物から特定の成分を除去して簡素化したに過ぎず、設計変更の範囲内であり進歩性がない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の構成の簡素化は、単なる設計変更ではなく、特定の成分を除去することで、予測できない新たな効果、または従来技術では解決できなかった課題を解決するものです。例えば、引用発明の多成分系組成物は、特定の成分(例:防腐剤)を含むことでアレルギー反応を引き起こす可能性がありましたが、その成分を除去すると製品の安定性が著しく損なわれるというトレードオフがありました。本願発明は、当該成分を除去しつつ、特定の天然由来成分を組み合わせることで、アレルギーリスクを低減し、かつ製品の安定性を維持するという、従来技術では達成困難であった課題を解決しました。これは、単なる簡素化では説明できない、技術的困難性を伴うものです。」
  • 「あるいは、引用発明の簡素な構成に特定の成分を追加し複雑化することで、予測できない新たな効果が奏されます。例えば、特定の界面活性剤を添加することで、泡立ちの悪さや洗浄後の肌のつっぱり感といった問題が解決され、使用感が飛躍的に向上しました。」
  • 参考特許出願/審決番号: 酸味マスキング方法において、特定の甘味料(スクラロース)への置換が容易ではないと判断され、進歩性が肯定された事例(東京地判 平成30年11月15日、無効審判請求不成立審決取消訴訟)があります 18。これは、単なる成分の置換や簡素化・複雑化が、予期せぬ効果や技術的困難性を伴う場合に進歩性が認められる可能性を示唆しています。

特定の課題解決手段の新規性

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「本願発明の課題解決手段である『成分Aを特定の被覆剤で被覆する』という構成は、引用発明の『成分Aを別の溶媒に懸濁する』という技術を転用したに過ぎない。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「本願発明の課題解決手段である『成分Aを特定の被覆剤で被覆する』という構成は、引用発明の『成分Aを別の溶媒に懸濁する』という技術とは異なるアプローチであり、その採用には動機付けがなく、新たな課題解決効果を奏します。引用発明は、成分Aの分散性を向上させることを目的として懸濁液を提案していますが、成分Aの長期安定性や、特定の肌への適用時の刺激性といった課題は解決されていませんでした。本願発明は、成分Aを特定の被覆剤で被覆することで、成分Aの酸化劣化を劇的に抑制し、かつ皮膚への刺激性を大幅に低減することに成功しました。これは、単なる転用では得られない、本願発明独自の課題解決手段であり、その技術的意義は明らかです。」
  • 参考特許出願/審決番号: 「黒ショウガ成分を含有する粒子」が、油により「被覆された状態」とすることで課題を解決できると認識された事例があります(特許第5569848号、平成27年(行ケ)第10231号) 22。これは、単なる混合・懸濁ではなく、特定の状態(被覆)にすることで新たな課題解決効果が生まれることを示唆しており、課題解決手段の新規性を主張する際の参考になります。プラスチック気泡シートのミシン目による切断容易化の課題解決事例も、課題解決手段が特定の構成と結びつくことで進歩性が認められる例として一般化できます(特許7145352) 19

7. 引用文献の解釈・後知恵の排除による進歩性

引用発明の示唆の欠如

  • 審査官からの拒絶理由通知例: 「引用文献1には、本願発明の特定の製造方法を適用することに関する示唆が間接的に記載されており、当業者は容易に想到できる。」
  • 意見書での主張内容例:
  • 「引用文献1には、本願発明の特定の製造方法(例:低温高圧乳化法)に関する示唆は一切ありません。引用文献1は、一般的な乳化方法のみを開示しており、本願発明の特定の製造方法がもたらす有利な効果(例:微細なエマルジョン粒子の形成、有効成分の安定性向上)についても何ら言及していません。審査官殿の指摘は、本願発明の構成と効果を後知恵で知った上で、引用文献の記載を都合よく解釈しているに過ぎません。出願時の技術水準において、引用文献から本願発明の製造方法を導き出すことは不可能であり、当業者が容易に想到し得るものではありません。」
  • 参考特許出願/審決番号: 引用発明の内容中の示唆は、容易想到性の有力な根拠とされますが、その示唆が間接的であっても技術常識と組み合わせることで課題解決手段に到達できる場合があります 1。意見書では、この「技術常識との組み合わせ」が容易ではないことを主張する必要があります。審査官は、請求項に係る発明の知識を得た上で、後知恵に陥らないように留意しなければならないとされています 2

4. 意見書作成における留意点と実践的アドバイス

意見書は、単なる反論の羅列ではなく、審査官の理解を深め、発明の真の価値を伝えるための重要なコミュニケーションツールです。

明細書記載の重要性:出願時の記載が意見書主張の根拠となる

意見書での主張は、原則として出願時の明細書、特許請求の範囲、または図面に記載された内容に根拠がなければなりません 2。特に、有利な効果を主張する場合、その効果が明細書等から明確に把握される必要があります 2

出願時に「予測できない顕著な効果」を意図している場合、その効果がなぜ予測できないのか、そしてそれがどのような条件下で発現するのかを、明細書に具体的に記載しておくことの重要性があります。単に効果を記載するだけでなく、その効果が「当業者の予測を超えた」ものであることを示唆するような記載(例えば、比較例との予期せぬ差、特定の数値範囲でのみ発現する現象など)を意識して盛り込むことで、将来の拒絶理由対応において強力な根拠となります。化粧品・トイレタリー分野では、使用感や安定性といった官能評価や経時変化の評価が重要であるため、これらの評価基準と結果を詳細に記載することが、後の意見書での主張を裏付ける上で不可欠です。

実験データの活用:顕著な効果を裏付けるためのデータ提示

相違点に基づく発明の効果が予想できないものである場合に、進歩性を主張する材料となります 5。単一の引用文献の場合でも、複数の引用文献の組み合わせの場合でも、相違点による効果の差が予想できないことを説明します 5。特に「異質な効果」や「際立って優れた効果」を主張する際には、比較実験データが不可欠です 2

意見書に添付する実験データは、本願発明の優位性を客観的に示すものである必要があります。特に、比較対象として「審査官が主引用発明として認定した発明」や「容易想到性の根拠として挙げた技術」を忠実に再現した比較例を用いることが重要です。化粧品・トイレタリー分野では、成分の組み合わせや製造プロセスが多岐にわたるため、適切な比較例を設定し、その比較例がなぜ本願発明の効果を達成できないのかを明確にすることで、審査官の容易想到性の論理付けを効果的に崩すことができます。

進歩性判断における有利な効果の類型と証明のポイント

効果の類型定義証明のポイント化粧品・トイレタリー分野での具体例
異質な効果請求項に係る発明が、引用発明の有する効果とは異なる性質の効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができなかったもの 2– 引用発明では得られない、全く新しい機能や作用の提示。- 既存の技術では解決できなかった課題の解決。- 客観的な測定データや評価基準を用いて、効果の質的な違いを明確に示す。– 従来の保湿剤にはない、特定の肌疾患(例:アトピー性皮膚炎)の治療的改善効果。- 特定の成分の組み合わせにより、単なる洗浄効果を超えて、肌のマイクロバイオームを改善する効果。- 紫外線防御効果に加えて、ブルーライト防御効果といった新たな防御機能。
際立って優れた効果請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、その効果が際だって優れており、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができなかったもの 2– 引用発明や公知技術と比較した定量的な優位性(例:数値データ)。- 当業者の予想をはるかに超える水準の改善度(例:数倍、数十倍の向上)。- 統計的に有意な差を示すデータの提示。- 効果の持続性、安定性、安全性などの側面での顕著な改善。– 従来の保湿剤と比較して、保湿持続時間が飛躍的に延長される。- 洗浄剤の泡立ちが従来の数倍になり、かつ泡切れも格段に良い。- 特定の美白成分の浸透性が、従来の処方と比較して顕著に向上し、短期間で目に見える効果が発現する。

補正の検討:意見書と補正の連携戦略

独立請求項を補正せずに対応が難しい場合、下位請求項や明細書記載をもとに独立請求項を限定することを検討します 5。本願発明の実施例と引用文献の実施例を詳細に比較し、違いを見つけ、その違いが相違点となるように請求項を補正することも有効です 5。組成物の質量比や成分の比率の違いなど、具体的な数値の違いから補正の根拠を探します 5

補正は拒絶理由を解消する強力な手段ですが、その範囲やタイミングは特許戦略に大きく影響します 6。最初の拒絶理由通知で補正を行うか、意見書で反論を試みてから補正を検討するかは、ケースバイケースで判断が必要です。特に、化粧品・トイレタリー分野では、市場投入後の製品ラインナップや将来の改良を考慮し、権利範囲を不必要に狭めないよう慎重な補正が求められます。補正の際には、明細書の記載(特に実施例や好ましい範囲の記載)を根拠とすることが重要であり、出願時に将来の補正を見越した記載をしておくことが、後の対応の柔軟性を高めます。

審査官とのコミュニケーション

意見書提出後、必要に応じて審査官との面談を申し入れることも有効です。面談を通じて、審査官の真意をより深く理解し、口頭で補足説明を行うことで、書面だけでは伝わりにくいニュアンスを伝えることができます。

5. まとめ

本事例集は、化粧品・トイレタリー分野における特許出願の進歩性拒絶理由通知に対し、企業知的財産部の担当者が自信を持って対応できるよう、実践的な指針を提供することを目的としています。進歩性判断の基礎を理解し、各拒絶理由の類型に応じた意見書戦略を習得することで、貴社の重要な技術を確実に権利化するための強力なツールとなるでしょう。

特許制度は、発明の公開と引き換えに独占権を付与することで産業の発展を促進するものです。この目的を達成するためには、当業者が容易に想到できない真に「進歩性のある発明」を適切に保護することが不可欠です。本事例集が、貴社の知的財産戦略の一助となり、ひいては産業全体の発展に貢献できることを願っています。

引用文献

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  2. 第 2 節 進歩性 1. 概要 特許法第29条第2項は、その発明の属する技術 …, 7月 14, 2025にアクセス、 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0202bm.pdf
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  5. 初学者のための新規性・進歩性の拒絶理由対応|ライトハウス国際 …, 7月 14, 2025にアクセス、 https://www.lhpat.com/software/patent/rejection-2.html
  6. 特許の拒絶理由通知とは?主な理由と対応策を解説 | Toreru Media, 7月 14, 2025にアクセス、 https://toreru.jp/media/patent/8539/
  7. 数値限定発明の進歩性審査基準に関する 覚書 – 宮前特許事務所, 7月 14, 2025にアクセス、 https://miyamaepatentoffice.com/wp-content/uploads/2024/07/%EF%BC%96%EF%BC%8E%E3%83%91%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%88_Vol69_No%E2%92%91_2016_%E6%95%B0%E5%80%A4%E9%99%90%E5%AE%9A%E7%99%BA%E6%98%8E%E3%81%AE%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E5%9F%BA%E6%BA%96%E8%A6%9A%E6%9B%B8_%E5%AE%AE%E5%89%8D%E5%B0%9A%E7%A5%90.pdf
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