【特許法36条6項1号】化粧品・化学分野における「サポート要件違反」を克服する意見書のロジック

知財部の話

化粧品やトイレタリー分野の特許実務において、審査官から最も頻繁に突きつけられる高い壁、それが「サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)」です。

「実施例では特定の界面活性剤しか使っていないのに、クレームが『非イオン性界面活性剤』と広すぎる」 「配合比率の範囲が広すぎて、全範囲で効果(使用感など)が得られるとは到底想定できない」

このような拒絶理由通知を受け取り、頭を抱えた経験は知財担当者なら一度や二度ではないはずです。本記事では、化学・化粧品分野特有のサポート要件違反に対して、どのようにロジックを組み立てて克服していくのか、具体的な中間対応の戦略を解説します。


1. なぜ化粧品分野でサポート要件が厳しく問われるのか?

機械や構造物の分野(予測可能技術)とは異なり、化粧品やトイレタリー分野を含む化学技術は「予測困難な技術分野」とされています。

  • 微量な変化が全体に影響する: 成分のわずかな変更や配合比の違いが、エマルジョンの安定性や肌への使用感(べたつき、しっとり感)に劇的な変化をもたらします。
  • 審査基準の原則: そのため審査官は、「明細書の実施例で具体的に確認された範囲(点)」から、「クレームされた広い範囲(面)」への実施例の拡張を非常に厳しくチェックします。

この前提を理解した上で、以下の事例ごとの克服戦略を見ていきましょう。


2. 【事例1】成分の上位概念化に対する拒絶

最もよくあるパターンです。特定の成分A(例:POE(20)セチルエーテル)の実施例しかないのに、クレームを上位概念(例:ポリオキシエチレンアルキルエーテル類)で広く権利化しようとしたケースです。

審査官の指摘(ロジック)

「本願の課題(例:高い乳化安定性)を解決できることが実施例で示されているのは、特定の成分Aを用いた場合のみである。他の多種多様なポリオキシエチレンアルキルエーテル類を用いた場合でも同様の課題が解決できるとは、出願時の技術常識を参酌しても当業者が認識できるものではない」

克服のための戦略:メカニズム(作用機序)による論証

単に「当業者なら他の成分でもできるはずだ」と主張しても通りません。「なぜ成分Aでうまくいったのか」という技術的な理由(メカニズム)を明細書から拾い上げ、それが上位概念の成分にも共通していることを主張します。

  • 意見書での主張ステップ:
    1. 明細書の段落【〇〇】には、成分Aの「特定のHLB値」や「特定の分子構造」が、本願の課題解決に寄与するメカニズムが記載されていることを指摘する。
    2. クレームで規定する「ポリオキシエチレンアルキルエーテル類」も、成分Aと同様の分子構造の骨格を有しており、同等のHLB値を示す群であることを技術常識(文献等)で裏付ける。
    3. したがって、実施例にない他の成分であっても、当業者であれば同等の作用効果を奏することを十分認識できる、と結論づける。

💡 実務のツボ 上位概念のまま通すのが厳しい場合は、メカニズムが共通すると言える「中位概念(例:炭素数16~18のポリオキシエチレンアルキルエーテル)」まで限定する「譲歩の補正」をセットで準備しておくのが無難です。


3. 【事例2】数値限定(パラメータ・配合比)の範囲広すぎに対する拒絶

化粧品では「成分Bを0.1~10.0質量%配合する」といった数値限定が多用されますが、実施例が「1.0質量%」と「5.0質量%」しかない場合、範囲の両端(0.1や10.0)がサポートされていないと指摘されます。

審査官の指摘(ロジック)

「実施例では1.0〜5.0質量%の範囲でしか『べたつきのなさ』が確認されていない。0.1質量%という微量、あるいは10.0質量%という多量においても同様の効果が得られると、当業者は認識できない」

克服のための戦略:外挿・内挿の論理と実験成績証明書の提出

数値範囲の場合、グラフの「線」をどうつなぐかが勝負になります。

  • 意見書での主張ステップ(技術常識からのアプローチ):
    1. 化粧品の処方設計において、成分Bの効果は配合量に比例して連続的に変化するのが技術常識であることを主張する。
    2. 1.0〜5.0質量%で効果が急激に失われるような臨界的な理由(変曲点)が存在しないことを論証する。
  • 奥の手(実験成績証明書の提出): 明細書の記載だけでは説得力が弱い場合、出願後に取得した「0.1質量%」と「10.0質量%」の追加データを**「実験成績証明書」**として提出します。 ※注意:これは明細書の新規事項を追加するものではなく、あくまで「出願時の明細書の記載が正しかったこと(当業者が認識できたこと)」を裏付けるための証拠として提出します。

4. 最大の戦略は「明細書作成時の布石」にある

中間対応で「サポート要件違反」を華麗に覆すロジックを紹介しましたが、一番の必勝法は「最初から審査官に突っ込まれない明細書を書くこと」です。

化粧品・トイレタリー分野の出願では、以下の2点を必ず明細書に仕込んでおきましょう。

  • 「点」ではなく「散布図」で実施例を出す: クレームしたい数値範囲の両端(最小値付近と最大値付近)の実施例は、極力出願時に含めておく。
  • 「なぜ効くのか」を考察として書く: データだけでなく、「成分の特定の立体構造が〇〇に作用するためと考えられる」といったメカニズムの一文があるだけで、中間対応での「一般化」の主張が圧倒的に有利になります。

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