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1. はじめに:特許法におけるサポート要件の意義と本事例集の目的
特許制度は、発明を社会に公開する「公開代償の原則」(quid pro quo)に基づき、その代償として発明者に一定期間の独占的な権利を付与するものです。この原則は、発明の奨励と産業の発展を目的としており、特許法は、発明の公開と権利付与のバランスを保つための様々な要件を定めています。その中でも、特許法第36条第6項第1号に規定される「サポート要件」は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明(明細書)に記載された内容によって十分に裏付けられていることを要求する、極めて重要な要件です 。
サポート要件の遵守は、単に形式的な要件に留まらず、特許権の有効性を確保し、将来的な特許侵害訴訟や無効審判における紛争リスクを低減する上で不可欠です。明細書に開示されていない発明に特許権が付与されることは、第三者の技術利用の自由を不当に制限し、産業の健全な発展を阻害するおそれがあるため、この要件は特許制度の根幹を支えるものとして位置づけられています 。
本事例集は、企業知的財産部の担当者が実務で活用できるよう、日本の特許法におけるサポート要件の法的解釈と、その実務上の適用に関する主要な審決・判決事例を、化粧品・石鹸などのトイレタリー分野に特化して分析します。具体的な事例を通じてサポート要件違反のパターンと、それに対する対応策、およびその克服のポイントを詳述することで、より強固で有効な特許権を構築するための実践的な知見を提供することを目指します。
企業知財部担当者様へ:本事例集の活用方法
本事例集は、特許出願の中間対応、特にサポート要件に関する拒絶理由通知を受けた際の意見書作成や補正検討に役立つよう構成されています。各事例は、実際の拒絶理由の類型と、それに対する効果的な主張内容、そして参考となる特許出願や審決の番号を提示することで、具体的な対応策を検討する際の指針となることを目指しています。拒絶理由の論理を理解し、的確な反論を構築するための思考プロセスを習得する手助けとなるでしょう。
2. サポート要件の法的根拠と判断基準
2.1. 特許法第36条第6項第1号の条文解説
特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と明確に規定しています。この条文は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲が、明細書(発明の詳細な説明)に開示された内容によって適切に裏付けられていることを求めるものです 。具体的には、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載された事項、または明細書から当業者が導き出せる事項、さらには出願時の技術常識を考慮して当業者が認識できる事項の範囲内にあることを意味します。この要件は、特許権の範囲が不明確になることを防ぎ、第三者が特許公報を閲覧することで、どの技術が独占権の対象となるのかを明確に把握できるようにすることを目的としています。
2.2. 特許庁審査基準におけるサポート要件の基本的な考え方
特許庁の審査基準では、サポート要件に適合するか否かの判断は、特許請求の範囲に記載された発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討することによって行われます 。この判断の核心は、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」であるとされています 。
また、明細書に明示的な記載や示唆がなくても、出願時の技術常識に照らして当業者が課題を解決できると認識できる範囲であれば、サポート要件を満たすと判断される場合があることも明記されています 。この柔軟な解釈は、全ての実施形態を網羅的に記載することが困難な技術分野において、発明の合理的な範囲を保護するために重要です。
サポート要件は、単独で評価されるだけでなく、進歩性要件や実施可能要件と密接に関連していることが、多くの審決・判決事例から示されています。例えば、洗剤に関するある審決では、「争点は、進歩性要件、サポート要件、実施可能要件であり、いずれの要件も満たすとした審決を知財高裁は容認した」と明確に述べられています 。これは、発明の開示が不十分でサポート要件を満たさない場合、その発明が先行技術から容易に想到できると判断されたり(進歩性欠如)、あるいはその発明を実際に実施することができない(実施可能要件違反)と判断される可能性が高まるという、要件間の相互作用を示唆しています。このことは、特許出願戦略において、サポート要件の充足を進歩性や実施可能性と切り離して考えるべきではないことを意味します。明細書の作成段階から、請求項の範囲が広範であるほど、それを裏付ける詳細な説明と実施例、そして技術常識に基づく論理的根拠が不可欠となります。これにより、複数の拒絶理由に同時に対応できる、より強固な出願を構築することが可能となり、将来的な訴訟リスクを軽減します。
2.3. 「発明の詳細な説明に記載されたもの」の解釈と「当業者が課題を解決できると認識できる範囲」の重要性
「発明の詳細な説明に記載されたもの」という要件は、単に文字通り明細書に記載された事項だけでなく、その記載から当業者が合理的に導き出せる事項、および出願時の技術常識を考慮して当業者が認識できる事項も含むと解釈されます 。この解釈の柔軟性は、特に物の機能・特性と構造との関係を当業者が理解することが困難な技術分野(例えば、化学物質やバイオ技術)において、拡張ないし一般化できる程度が狭くなる傾向があるという実務上の特性に影響を与えます 。
ボロン酸化合物製剤事件(知財高裁 令和2年7月2日判決 平成30年(行ケ)10158号)の判決は、サポート要件の判断において「厳密な科学的証明」は不要であり、「合理的な期待」で足りると明確に示しました 。この判決は、「サポート要件を満たすためには、当業者が明細書を読めば、請求項に係る発明が明細書に記載されたものであると合理的に認識できれば足り、厳密な科学的証明は不要である」と述べています 。この基準は、進歩性判断において「予測できない顕著な効果」の証明に求められる、しばしば定量的なデータに基づく高いハードルとは対照的です。この違いは、各要件の目的と、発明公開の代償としての特許付与という特許制度の根本原則に起因すると考えられます。
この判断は、特に化学やバイオ分野など、全ての実施形態について網羅的な実験データを示すことが実務上困難な技術分野において、明細書作成の重要な指針となります。この判決は、網羅的な実施例がなくとも、当業者が課題解決を合理的に期待できるような技術的論理付けと、代表的な実施例の提示が、サポート要件充足のために十分である可能性を示唆しています。これにより、出願人は、より早期に特許出願を行い、技術開発のスピードアップを図ることが可能になります。ただし、「合理的な期待」がどの程度のものかは、技術分野の特性や出願時の技術水準によって異なり、今後の判例の蓄積がその具体的な範囲をより明確にするでしょう。
3. サポート要件違反の主な類型と化粧品・トイレタリー分野における具体例
特許庁の審査基準は、サポート要件違反を以下の4つの明確な類型に分類しています。これらの類型を理解することは、サポート要件の全体像を把握し、具体的な違反パターンを認識するために不可欠です。
表1:サポート要件違反の主な類型と概要
| 類型 | 概要 | 関連する審査基準のポイント | 化粧品・トイレタリー分野での具体例 |
| 類型1 | 発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項が、請求項に記載されている場合。 | 請求項の記載が、明細書に明示的または黙示的に開示されていない範囲に及ぶ 。 | 請求項で特定のpH範囲(例:pH5.0~7.5)が限定されているが、明細書にその数値範囲の記載や、その範囲で特有の効果が得られることの示唆がない 1 。 第 2 節 サポート要件(特許法第 36 条第 6 項第 1 号) jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202.pdf |
| 類型2 | 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合。 | 用語の定義や使用方法が明細書と請求項で異なるため、発明の範囲が不明確になる 。 | 請求項の「保湿成分」が明細書中の「グリセリン」と「ヒアルロン酸」のどちらを指すか不明瞭な場合、または「安定化剤」の定義が明細書と請求項で異なる場合 。 https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/kijun_wg/document/04-shiryou/03.pdf |
| 類型3 | 出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合。 | 明細書の開示内容が限定的であり、当業者が技術常識を考慮しても、請求項の広範な範囲をカバーできると認識できない。特に化学組成物やパラメータ発明で問題となる 。 | 特定の天然由来成分Aの「美白効果」のみが記載され、請求項が「あらゆる美白成分」を包含するような広範な記載となっている場合 。 https://www.ip-bengoshi.com/archives/3993 https://www.ip-bengoshi.com/archives/5996 |
| 類型4 | 請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合。 | 請求項の記載が、明細書に示された発明の課題解決手段と矛盾したり、課題を解決しない範囲まで及んでいる 。 | 「敏感肌用低刺激性洗顔料」という課題に対し、請求項に記載された成分が、明細書中の実施例では低刺激性を示しているものの、請求項の広範な範囲には刺激性が高いと知られる成分も含まれてしまう場合 。 https://www.tokkyohou-no-sekai.jp/hanrei/h19/h19.10.11.htm |
3.1. 類型1:発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項が、請求項に記載されている場合
この類型は、特許請求の範囲に記載された発明特定事項が、明細書中に全く記載されていないか、あるいはその存在が示唆されていない場合に該当します。特に、数値限定発明において問題となることが多いパターンです 。
審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明は、化粧料組成物のpHを5.0~7.5に限定しているが、発明の詳細な説明には、この特定のpH範囲がなぜ重要なのか、またはこの範囲内でどのような特有の効果が得られるのかについて、具体的な記載や示唆が一切ない。したがって、請求項の記載は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」
意見書での主張内容例: 「本願発明のpH5.0~7.5という数値限定は、単なる任意選択ではなく、この特定の範囲内でのみ、有効成分の安定性が飛躍的に向上し、かつ皮膚刺激性が極めて低減されるという、予測できない顕著な効果を奏します。明細書【00XX】段落には、このpH範囲における有効成分の分解抑制に関する実験データ(図Y)が明確に示されており、当業者はこの記載から、本願発明のpH限定が技術的意義を有することを認識できます。この効果は、出願時の技術常識からは予測不可能であり、明細書の記載は請求項の範囲を十分にサポートしています。」
参考特許出願/審決番号: アスタキサンチン特許侵害訴訟(特許5046756)では、pHの数値限定(5.0~7.5)の進歩性が争われました 。この事例は進歩性判断に関するものですが、もし明細書にこのpH範囲の技術的意義や効果の裏付けが不足していれば、サポート要件違反(類型1)として指摘される可能性がありました 。数値限定発明のサポート要件では、その数値範囲がもたらす効果や技術的意義が明細書に明確に記載されている必要があります 。
3.2. 類型2:請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合
この類型は、請求項と明細書の間で、同じ技術的意味を持つはずの用語が異なっていたり、あるいは用語の定義が曖昧であったりするために、請求項が明細書のどの部分に対応するのかが不明瞭になる場合に発生します 。
審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項1に『皮膚コンディショニング剤』と記載されているが、発明の詳細な説明中には『皮膚コンディショニング剤』という用語は使用されておらず、代わりに『保湿成分』や『エモリエント成分』といった用語が混在して使用されている。これらの用語が指す範囲が不明瞭であり、請求項の『皮膚コンディショニング剤』が明細書のどの記載に対応するのかが不明確である。」
意見書での主張内容例: 「本願明細書において、『皮膚コンディショニング剤』は、皮膚の水分保持能力を向上させる『保湿成分』と、皮膚の柔軟性や滑らかさを付与する『エモリエント成分』の両方を含む上位概念として定義されています(明細書【00XX】段落参照)。明細書中の『保湿成分』および『エモリエント成分』の具体的な記載は、この上位概念を構成する下位概念であり、当業者は明細書全体を読めば、請求項の『皮膚コンディショニング剤』がこれらの成分を総称するものであると明確に理解できます。したがって、用語の不統一はなく、請求項の記載は明細書に十分にサポートされています。」
参考特許出願/審決番号: この類型は、審査基準 に明確に記載されている一般的な問題です。特定の判例は挙げにくいですが、用語の明確性に関する審決や判決は多数存在します。例えば、用語の意味が曖昧である場合に不明確であると判断される傾向があることが指摘されています 。化粧品・トイレタリー分野では、成分の機能や効果に関する専門用語が多いため、明細書作成時に用語の定義と一貫性を徹底することが極めて重要です。
3.3. 類型3:出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
この類型は、明細書に開示された具体例や実施形態が限定的であるにもかかわらず、請求項がそれらをはるかに超える広範な範囲をカバーしようとする場合に問題となります。特に、物の機能・特性と構造の関係を当業者が理解しにくい化学組成物やバイオ技術の分野で頻繁に指摘される類型です 。
審査官からの拒絶理由通知例: 「請求項に係る発明は、『肌荒れを改善する化粧料組成物』と広範に記載されているが、発明の詳細な説明には、特定の植物由来成分XとYの組み合わせによる肌荒れ改善効果の実施例しか記載されていない。出願時の技術常識に照らしても、この限定的な実施例から、請求項の『肌荒れを改善する化粧料組成物』という広範な範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」
意見書での主張内容例: 「本願発明の明細書には、植物由来成分XとYの組み合わせが、特定の作用メカニズム(例:皮膚バリア機能の修復、抗炎症作用)を通じて肌荒れを改善することが詳細に説明されています(明細書【00YY】段落参照)。この作用メカニズムは、他の類似構造を持つ植物由来成分(例:成分Z)にも共通して適用可能であることが、出願時の技術常識(例:公知文献A)から当業者には明らかです。また、添付の追加実験データ(表B)は、成分Zを含む組成物においても同様の肌荒れ改善効果が確認されたことを示しており、本願発明の課題が請求項の広範な範囲にわたって解決できることを合理的に裏付けています。したがって、請求項の記載は明細書に十分にサポートされています。」
参考特許出願/審決番号:
- 角栓除去用液状クレンジング剤事件(東京地裁 令和2年(ワ)22071号): 発明の名称は「角栓除去用液状クレンジング剤」であったが、明細書の開示が限定的で、請求項の広範な範囲をサポートしていないと判断され、サポート要件違反による無効の抗弁が認められました 。化粧品分野における機能的クレームの広範な記載が、明細書の限定的な実施例でサポートされない典型例です。
- 洗剤界面活性剤組成物事件(知財高裁 平成19年10月11日): 請求項1の組成物が、明細書に記載された「低水温洗浄性及び生分解性」という課題を解決できると当業者が認識できる記載を欠くと判断され、サポート要件違反が認められました 。これは、洗剤組成物において、特定の効果が請求項の広範な組成物によってどのように達成されるのか、明細書での裏付けが不足していた事例です。
- ボロン酸化合物製剤事件(知財高裁 令和2年7月2日判決 平成30年(行ケ)10158号): この判決は、サポート要件充足には「厳密な科学的証明」は不要で「合理的な期待」で足りると判断しました 。化学・医薬分野の事例ですが、化粧品・トイレタリー分野の組成物発明にも適用され、明細書に網羅的な実施例がなくとも、当業者が課題解決を合理的に期待できるような技術的論理付けと代表的な実施例の提示が重要であることを示唆しています。
- シワ形成抑制剤(用途発明)に関する事例(知財高裁 平成27年(行ケ)第10025号): 既知の「美白化粧料組成物」が「シワ形成抑制剤」という新たな用途を発見したと主張された事例で、裁判所は、美白とシワ抑制が異なる現象・機序・製品と認識されていたことから、新たな用途としてサポート要件を充足すると判断し、審決(拒絶)を取り消しました 。これは、用途発明において、既知の物質であっても、その新たな用途が先行技術から予測不可能であり、明細書にその新たな価値が適切に記載されていればサポートされることを示しています。
3.4. 類型4:請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合
この類型は、請求項の記載が、明細書で示された発明の課題解決手段と矛盾する、あるいは課題を解決しない範囲まで及んでしまう場合に適用されます 。
審査官からの拒絶理由通知例: 「本願発明の課題は、『敏感肌への刺激を最小限に抑えつつ、高い洗浄力を有する洗顔料を提供する』ことであると明細書に記載されている。しかし、請求項1に記載された特定の界面活性剤の組み合わせは、明細書中の実施例では低刺激性を示しているものの、請求項の広範な濃度範囲には、当業者の技術常識に照らして、敏感肌に刺激を与えることが知られている高濃度領域も含まれてしまう。したがって、請求項の記載は、発明の課題を解決するための手段を十分に反映しておらず、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる。」
意見書での主張内容例: 「審査官殿が指摘される請求項の濃度範囲は、明細書【00ZZ】段落に記載された特定の製造方法と組み合わせることで、高濃度領域においても界面活性剤の刺激性を効果的に抑制し、敏感肌への低刺激性を維持できることが、添付の実験データ(表C)によって明確に示されています。この製造方法は、界面活性剤のミセル構造を最適化し、皮膚への吸着を抑制することで刺激性を低減するものであり、明細書に記載された課題解決手段と完全に整合しています。したがって、請求項の記載は、発明の課題を解決するための手段を適切に反映しており、サポート要件を満たしています。」
参考特許出願/審決番号: この類型は、審査基準 に記載されている一般的な問題です。直接的な化粧品・トイレタリー分野の判例は少ないですが、課題解決手段と請求項の整合性が問われる事例は多岐にわたります。例えば、黒ショウガ成分含有組成物事件(特許第5569848号) は、特定の成分を「被覆」するという手段が課題解決に寄与すると認識されるかが争点となり、明細書の記載内容が重要視されました。もし請求項が「被覆」という手段を限定せず、課題解決に寄与しない他の形態まで包含していれば、この類型に該当する可能性がありました。
4. 意見書作成における留意点と実践的アドバイス
意見書は、単なる反論の羅列ではなく、審査官の理解を深め、発明の真の価値を伝えるための重要なコミュニケーションツールです。
4.1. 明細書記載の重要性:出願時の記載が意見書主張の根拠となる
意見書での主張は、原則として出願時の明細書、特許請求の範囲、または図面に記載された内容に根拠がなければなりません 。特に、有利な効果や課題解決のメカニズムを主張する場合、その内容が明細書等から明確に把握される必要があります 。
出願時に、将来的に広範なクレームを維持するための根拠となるような記載を明細書に盛り込むことが重要です。例えば、特定の成分の組み合わせがなぜ特定の効果を発現するのか、その作用メカニズムを詳細に記述する、あるいは複数の実施例や比較例を記載することで、請求項の範囲全体にわたって発明の課題が解決できることを当業者が合理的に認識できるようにします。化粧品・トイレタリー分野では、使用感、安定性、特定の肌への効果といった評価が重要であるため、これらの評価基準と結果を詳細に記載することが、後の意見書での主張を裏付ける上で不可欠です。
4.2. 実験データの活用:サポート要件充足を裏付けるためのデータ提示
サポート要件の判断において、「厳密な科学的証明」は不要で「合理的な期待」で足りるとされていますが 、この「合理的な期待」を裏付けるために、実験データが有効な証拠となる場合があります。特に、明細書に記載された実施例が限定的であるために、請求項の広範な範囲がサポートされていないと指摘された場合(類型3)には、追加の実験データが有効な反論材料となり得ます。
意見書に添付する実験データは、本願発明の優位性や、請求項の広範な範囲にわたって課題が解決できることを客観的に示すものである必要があります。特に、明細書に記載された技術的原理や作用メカニズムが、請求項の範囲全体に適用可能であることを示すデータ、または、特定の数値範囲や構成が臨界的意義を持つことを示すデータが有効です。化粧品・トイレタリー分野では、成分の組み合わせや製造プロセスが多岐にわたるため、適切な比較例を設定し、その比較例がなぜ本願発明の効果を達成できないのかを明確にすることで、審査官の容易想到性の論理付けを効果的に崩すことができます。
4.3. 補正の検討:意見書と補正の連携戦略
サポート要件違反の拒絶理由を解消する最も確実な方法は、特許請求の範囲を明細書の記載に合致するように補正することです。独立請求項を補正せずに対応が難しい場合、下位請求項や明細書記載をもとに独立請求項を限定することを検討します 。本願発明の実施例と引用文献の実施例を詳細に比較し、違いを見つけ、その違いが相違点となるように請求項を補正することも有効です 。組成物の質量比や成分の比率の違いなど、具体的な数値の違いから補正の根拠を探します 。
補正は拒絶理由を解消する強力な手段ですが、その範囲やタイミングは特許戦略に大きく影響します 。最初の拒絶理由通知で補正を行うか、意見書で反論を試みてから補正を検討するかは、ケースバイケースで判断が必要です。特に、化粧品・トイレタリー分野では、市場投入後の製品ラインナップや将来の改良を考慮し、権利範囲を不必要に狭めないよう慎重な補正が求められます。補正の際には、明細書の記載(特に実施例や好ましい範囲の記載)を根拠とすることが重要であり、出願時に将来の補正を見越した記載をしておくことが、後の対応の柔軟性を高めます。
4.4. 審査官とのコミュニケーション
意見書提出後、必要に応じて審査官との面談を申し入れることも有効です。面談を通じて、審査官の真意をより深く理解し、口頭で補足説明を行うことで、書面だけでは伝わりにくいニュアンスを伝えることができます。特に、化学組成物や複雑な処方に関する発明では、図やグラフを用いて視覚的に説明することで、審査官の理解を深めることができます。
5. まとめ
本事例集は、化粧品・トイレタリー分野における特許出願のサポート要件違反拒絶理由通知に対し、企業知的財産部の担当者が自信を持って対応できるよう、実践的な指針を提供することを目的としています。サポート要件判断の基礎を理解し、各拒絶理由の類型に応じた意見書戦略と補正戦略を習得することで、貴社の重要な技術を確実に権利化するための強力なツールとなるでしょう。
特許制度は、発明の公開と引き換えに独占権を付与することで産業の発展を促進するものです。この目的を達成するためには、明細書に適切に裏付けられた真に「公開された発明」を適切に保護することが不可欠です。本事例集が、貴社の知的財産戦略の一助となり、ひいては産業全体の発展に貢献できることを願っています。





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