特許庁が活用事例として公開している「知財経営の実践に向けたコミュニケーションガイドブック~経営層と知財部門が連携し企業価値向上を実現する実践事例集~」について、備忘録としてまとめます。
参照元:https://www.jpo.go.jp/support/example/chizai_keiei_guide.html
特許庁の過年度事業で見いだされた課題認識
特許庁の過去の調査研究からは、知財経営を実践できている企業では共通して、経営層や関係部門と知財部門が、将来の経営や事業を見据え、それに対して知財がどのように貢献するかについて認識を共有している状態に至っていることが見いだされた。
しかし、多くの企業では、このような姿に至るために必要な、経営層や関係部門と知財部門の間での十分なコミュニケーションがなされていない。
本年度事業の目指したこと
本調査研究では、知財経営を推進するためのコミュニケーションにおける課題を特定し、それに対する打ち手を見いだすことを目的として設定した。
そのために、好事例の調査に加え、知財経営の実践に悩む企業の調査も実施した。知財経営の実践に悩む企業の調査では、経営層や知財部門、関係部門が将来構想のためのフレームワークである経営デザインシートを活用して将来構想について議論する場を繰り返し(最低でも5回)設け、そこにコンサルタントを派遣して議論を伴走支援し、その様子を観察することで上記目的の達成を目指した。
共通的に見いだされた2つの課題
知財経営の推進に向けては「知財部門」「知的財産」に関して、経営層・知財部門・関係部門それぞれの役割に対する「意識」のギャップがある。
知財経営の実践に悩む企業では、例えば「知的財産とは既存の事業や研究成果等を”守る”資源で、知財部門の役割は知財権の管理」などの認識に、経営層や他部門、そして知財部門自身も囚われている。
他方、知財経営を実践できている企業では、将来の経営や事業に対して知的財産が貢献することが求められている。すなわち、知財経営の実践に悩む企業と知財経営を実践できている企業との間には、「知財部門」、「知的財産」の役割に対する「意識」についてのギャップがある。
また、知財部門が本役割に加えて、事業や経営に貢献をしようとしても、後述の「情報」のギャップもあり、その試みに対して経営層の理解や、活躍の場の提供などが不足している。
知財経営の推進において不可欠な経営層と知財部門の対話において、主に「知財部門」に経営サイドの情報・視点が不足する「情報」のギャップがある。
知財経営の実践に悩む企業の知財部門では、例えば経営層が意思決定の基礎とする自社情報、競合他社情報、市場情報など様々な情報が不足しており、この点で、知財経営を実践できている企業との間に、知財部門が知るべき「情報」についてのギャップがある。また、知財経営の実践に悩む企業の知財部門では、経営や事業に係る情報を分析し、提案につなげることの経験が少ない。その結果、多くの知財部門が経営層や他部門に対する「刺さる」情報提供に苦戦している。
また、知財経営の実践に悩む企業の経営層や他部門は、「知的財産」からどのような情報を引き出せるのか、その仮説や情報を持っていないことも多く見られた。
調査を通して見いだされたポイントとなる打ち手
これらの課題に対して、今回の調査研究では、ポイントとなる2つの打ち手が明らかとなった。
知財経営の推進に向けて、経営層・知財部門及び関係部門が、それぞれの役割モデルを再定義すること
経営層自身が、企業価値の多くを知的財産が占めることや、自社の変革に向けた知的財産への戦略的な投資・活用の重要性を認識した上、知財部門の役割を、将来の経営や事業を見据え、それに対して知的財産で貢献するという位置づけに再定義することが必要である。また、知財部門自身も知的財産の専門性に囚われ過ぎず、自らが将来の経営や事業を見据え、それに知的財産で貢献するという位置づけであることを問い続ける必要がある。
経営層・知財部門の議論の機会を積極的に創造し、濃密な議論を繰り返し、相互が情報の差を埋めること
知財部門は、自身がもつべき情報を、「知的財産」のみならず「経営課題」と紐づけて意識することが求められる。そして、IPランドスケープ等を通じた自社の強みの洗い出し、将来の自社事業の差別化に必要な開発テーマの提案、オープンイノベーション戦略の提案など、経営層や他部門に刺さる「情報」を意識的に収集・分析・発信し、それに対するフィードバックを受けて改善を繰り返すことが重要である。
そのために経営層には、知財部門に経営や事業に関する情報が共有されるように、そしてその情報をもとに対話する機会を提供するように、リーダーシップを発揮することが求められる。例えば、戦略構築段階、事業構想段階での議論や、経営層が出席する会議に知財部門にも参加させるといった取組が挙げられる。また、知財部門に将来の経営や事業に対して知的財産で貢献するための活動を促すとともに、その結果知財部門から出される情報や提案などに対して、経営層が長期的視点でフィードバックを繰り返し行うことも必要である。
知財部門は、将来の経営や事業に対し知的財産で貢献することを目指し、一方的な情報提供ではなく「対話」であることを意識し、どのような情報が「刺さる」のか、相手からのフィードバックを必ず受け、相手の求めていることを理解し、改善を繰り返すことが必要である。
そして、経営層・知財部門・関係部門がかみ合った議論を行うためには、議論の内容に応じた適切なフレームワーク(例:経営デザインシート)を活用し、議論の対象や時間軸を可視化して、相互の認識を合わせた上で、濃密な議論を進めることが効果的である。
また、知財経営を実践できている企業の知財部門の活動のイメージをつかむために、特許庁の過年度事業の事例集や、様々な企業が統合報告書やホームページなどで開示している知財戦略の事例を参考にすることも有益である。
これら打ち手を継続し、試行錯誤を繰り返して少しずつ課題を解いていくことで、経営層や関係部門と知財部門の間でのコミュニケーションは徐々に改善し、関係者間の将来に対する相互理解が醸成され、知財経営の好事例といえる状態に一歩ずつ近づいていくことができる。





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