【意見書で学ぶ】成分Aの用途発明について、成分Aを含有する植物でその用途が知られていたが新規性が認められた事例

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特許第6800404号

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】特許第6800404号(P6800404)
(24)【登録日】令和2年11月27日(2020.11.27)
(45)【発行日】令和2年12月16日(2020.12.16)
(54)【発明の名称】自律神経調節剤

【請求項1】
2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする自律神経調節剤。
【請求項2】
2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする交感神経活性化剤。

審判請求書(認められて特許査定)

【書類名】      意見書
【整理番号】     TSPJ0805
【提出日】      令和 2年 5月26日
【あて先】      特許庁審査官 殿
【事件の表示】
  【出願番号】   特願2016-120116
【特許出願人】
  【識別番号】   398028503
  【氏名又は名称】 株式会社東洋新薬
  【代表者】    服部 利光
【発送番号】     125501
【意見の内容】
1.拒絶理由の内容
審査官殿は、令和2年3月30日(発送日)付けの拒絶理由通知書において、以下の理由により、この出願は特許を受けることができないと認定されました。

(1)(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(新規性)について
●理由2(進歩性)について

・請求項 1、2
・引用文献等 1、2
・備考
引用例1には、黒生姜加工物品を含有することを特徴とする交感神経活発化剤が記載されており(請求項1、2)、黒生姜のエタノール抽出物をマウスに投与すると、肩甲間褐色細胞組織交感神経活動(BAT-SNA)が経時的に増加することから、黒生姜エタノール抽出物は交感神経の活動を活発化させることが記載されている(実施例)。

 交感神経の活動を活発化させることは自律神経を調節することに相当するから、請求項1に係る発明と、引用例1に記載された発明とを対比すると、両者は以下の点で一見相違する。

 相違点:請求項1に係る発明の自律神経調節剤は「2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含有する」のに対し、引用例1に記載された発明の自律神経調節剤は黒生姜エタノール抽出物を含む点。

 相違点について検討する。引用例2には、黒生姜をジクロロメタンで抽出し、一連のフラボノイド化合物を得たこと、フラボノイド化合物を分析したところ、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンが含まれていたことが記載されている(「2.Experimental」、化合物10)。

 フラボノイド化合物がエタノールに易溶であることは技術常識であるから、引用例1に記載された黒生姜エタノール抽出物は、引用例2に記載された2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含有する蓋然性が高い。
 そうすると、上記相違点は実質的な相違でなく、請求項1に係る発明は、引用例1に記載されている。

 請求項2に係る発明も、引用例1に記載された発明と上記相違点で相違するから、同様に、引用例1に記載されている。

 黒生姜エタノール抽出物をカプセルや液剤等の好ましい剤型にして投与することに格別の相違は要しないから、請求項1、2に係る発明は、引用例1、2から当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
(1)特開2014-031367号公報
(2)Journal of Chromatography A, 2007, Vol.1143, p.227-233

2.補正の説明
 請求項1及び請求項2について、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを「有効成分とする」ことを特徴とする自律神経調節剤または交感神経活発化剤に補正しました。この補正は0008、0010、0012及び0017段落に基づく補正であり、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項に規定される要件を満たしています。また、この補正は、いわゆるシフト補正にではなく、特許法第17条の2第4項に規定される要件を満たしています。

3.本願が特許されるべき理由
(1)本願発明について
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」ともいう)は以下のとおりです。
「 2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする自律神経調節剤。」
補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」ともいう)は以下のとおりです。
「2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする交感神経活性化剤。」
 本願発明によれば、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンが交感神経系を活性化させることにより、交感神経系の働きを活性化させる自律神経調節剤または交感神経活発化剤を提供することができます(0006及び0007段落、実施例参照)。

(2)新規性及び進歩性について
(a)引用例の説明
 引用例1には、黒生姜加工物品を含有することを特徴とする交感神経活発化剤が記載されており(請求項1、2)、黒生姜のエタノール抽出物をマウスに投与すると、肩甲間褐色細胞組織交感神経活動(BAT-SNA)が経時的に増加することから、黒生姜エタノール抽出物は交感神経の活動を活発化させることが記載されています(実施例)。
 引用例2には、引用例2には、黒生姜をジクロロメタンで抽出し、一連のフラボノイド化合物を得たこと、フラボノイド化合物を分析したところ、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンが含まれていたことが記載されています(「2.Experimental」、化合物10)。

(b)本願発明と引用文献1との対比(新規性)
 本願発明は、「2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする自律神経調節剤」並びに「2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを有効成分とすることを特徴とする交感神経活発化剤」です。引用例1には黒生姜を有効成分とする交感神経活発化剤が記載されていますが、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オン(以下、「本願請求項の化合物」と略す)については記載も示唆もされていません。本願発明が本願請求項の化合物を有効成分とするのに対して、引用例1の発明は黒生姜を有効成分とする点において、本願発明は引用例1と相違します。
また、ある植物を有効成分とする用途発明が公知であったとしても、その植物に含まれる特定の化合物を有効成分とする用途発明について公知であったとは言えません。このことは、貴庁における過去の審査を見ても明らかです(例えば、下記の例1-3参照)。
例1.特許第5009619号
茶を有効成分とするリパーゼ阻害剤が公知(特開平01-090131の請求項等)であったが、茶に含まれる特定のカテキンを有効成分とするリパーゼ阻害剤について特許された。
例2.特許第5448384号
ブロッコリー種子を有効成分とする抗酸化剤が公知(特開2008-074816の請求項等)であったが、ブロッコリー種子より抽出された特定の化合物を有効成分とする抗酸化剤について特許された。
例3.特許第5917450号
黒生姜のエタノール抽出物を有効成分とする筋量増加剤が準公知(国際公開第2013/172681号)であったが、黒生姜に含まれる特定のメトキシフラボノイドを有効成分とする筋量増加剤について特許された。

したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明ではないため、新規性を有し
ます。

(c)本願発明と引用文献1との対比(進歩性)
 審査官殿は、拒絶理由において以下のように認定されています。
『フラボノイド化合物がエタノールに易溶であることは技術常識であるから、引用例1に記載された黒生姜エタノール抽出物は、引用例2に記載された2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5,7-ジメトキシ-4H-1-ベンゾピラン-4-オンを含有する蓋然性が高い。』

 しかしながら、引用例1の黒生姜の抽出溶媒が含水エタノールであるのに対して、引用例2はジクロロメタンです。エタノール及び水は高極性の溶媒であるのに対して、ジクロロメタンは中極性の溶媒であり、溶媒の物性が異なります(参考文献1)。溶媒が異なれば抽出される化合物も異なることは技術常識であるため、引用例1の黒生姜抽出物が本願請求項の化合物を当然に含有するとは言えないと思料致します。
 また、引用例1に記載されるのは黒生姜による効果であり、本願請求項の化合物による効果を示すものではありません。黒生姜は、ルチン、アントシアニン、タンニン、セレン、クルクミン、グリシン、アルギニン、鉄分など、多種多様の成分を含有しています(例えば、特開2013-132257の0002段落、参考文献2参照)。このような多種多様の成分の中から、自律神経調節または交感神経活発化の有効成分として本願請求項の化合物を選択することには困難性が認められます。なお、ある植物を有効成分とする用途発明が公知であったとしても、その植物に含まれる特定の化合物を有効成分とする用途発明を見出すことに進歩性が認められることは、貴庁における過去の審査を見ても明らかです(上記「理由1(新規性)について」の例1及び2参照)。
 さらに、本願明細書に記載された比較例の化合物は、本願請求項の化合物と同様、引用例2において黒生姜をジクロロメタンで抽出して得られたフラボノイド化合物の1つ(「2.Experimental」、化合物11)ですが、交感神経の活動を抑制しています。すなわち、同じ黒生姜に由来する化合物であっても、引用例2の化合物11が交感神経の活動を抑制するのに対して、本願請求項の化合物は、交感神経の活動を活発化させるというように、真逆の効果を奏します。このことは、当業者であっても決して容易に想到できません。

 したがって、本願発明は、引用例1及び2の記載に基づき当業者が容易に想到できた発明ではないため、進歩性を有します。

4.結論
以上のように、本願発明は拒絶理由を有しないものと思料致します。再度ご審査の上、特許をすべき旨の査定を賜りますようお願い申し上げます。

以上

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