特許法第36条第6項
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
サポート要件の審査の基本的な考え方
(1) 特許請求の範囲の記載が「サポート要件」を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討してなされる。
(2)審査官は、この対比、検討に当たって、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの表現上の整合性にとらわれることなく、 実質的な対応関係について検討する。
(3) 審査官によるこの実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、 発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べることによりなされる。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202bm.pdf
サポート要件違反の類型
(1) 請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない場合
(2) 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、 両者の対応関係が不明瞭となる場合
(3) 出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
(4) 請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合
特願2019-196635
(11)【公開番号】特開2021-70639(P2021-70639A)
(43)【公開日】令和3年5月6日(2021.5.6)
(54)【発明の名称】組成物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニク加工物と、糖アルコールとを含有する、組成物。
【請求項2】
液状又は半固形状である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口液剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
糖アルコールが、エリスリトールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ニンニク加工物を含有する組成物中に糖アルコールを含有せしめる工程を含む、ニンニク加工物由来の不快臭を抑制する方法。
【請求項6】
組成物が、液状又は半固形状である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
組成物が、経口液剤である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
糖アルコールが、エリスリトールである、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0038】
[試験例1]不快臭の抑制作用の評価
下記の実施例1及び比較例1の組成物をそれぞれ調製し、その臭い(組成物に対し10cm程度まで鼻を近づけた時に感じる臭い/組成物を口に含んだ時に口内から鼻に抜ける臭い)について、
0:ニンニク加工物由来の不快臭を全く感じない
1:ニンニク加工物由来の不快臭を殆ど感じない
2:ニンニク加工物由来の不快臭を感じる
3:ニンニク加工物由来の不快臭を強く感じる
の4段階で評価した。評価は20歳台~40歳台の男性5名で行い、平均値を算出した。
なお、実施例1の組成物の評価と比較例1の組成物の評価とは、同日に1時間の間隔をあけて実施した。
結果を表1に示す。
【0039】
〔実施例1〕
ニンニク加工物(オキソアミヂン末:理研化学工業(株))500mg、エリスリトール(エリスリトールT:三菱ケミカルフーズ(株))800mg及び安息香酸ナトリウム30mgを精製水に全量100mLとなるよう溶解・分散せしめ、実施例1の液状の組成物を得た。
〔比較例1〕
エリスリトールを配合しないほかは実施例1と同様の方法により、比較例1の液状の組成物を得た。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から明らかなように、エリスリトールを含有しない比較例1の組成物では、鼻を近づけた場合も口に含んだ場合も同様にニンニク加工物由来の不快臭が強く感じられたのに対し、エリスリトールを含有する実施例1の組成物ではいずれの場合もニンニク加工物由来の不快臭は一切感じられなかった。
なお、エリスリトールそのもの自体は臭いの無い成分であるとされている(医薬品添加物規格2013、株式会社薬事日報社発行)ことから、表1で確認されたニンニク加工物由来の不快臭の抑制作用は、他の成分の臭いによるマスキングとは全く異なる作用であることが示唆された。
【0042】
以上の試験結果から、エリスリトールに代表される糖アルコールがニンニク加工物の不快臭を抑制する作用を有し、ニンニク加工物と糖アルコールとを同一の組成物中に含有せしめることにより、組成物中のニンニク加工物由来の不快臭を抑制できることが明らかと
なった。
【0043】
[試験例2]安定性試験
試験例1に記載の実施例1及び比較例1の組成物(液状の組成物)をそれぞれ調製した。得られた各組成物を25℃で保存しつつ定期的に沈殿生成の有無を目視により評価し、いずれの組成物に先に沈殿生成が認められるかを確認した。先に沈殿生成が認められたものを×とし、この沈殿生成までは沈殿生成が認められなかったものを〇とした。
結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
[試験例3]安定性試験 その2
下記の実施例2及び比較例2の組成物(液状の組成物)をそれぞれ調製し、試験例2と同様に、いずれの組成物に先に沈殿生成が認められるかを確認した。
結果を表3に示す。
【0046】
〔実施例2〕
ニンニク加工物(オキソアミヂン末:理研化学工業(株))1000mg、エリスリトール(エリスリトールT:三菱ケミカルフーズ(株))4000mg、エタノール1000mg及び安息香酸ナトリウム30mgを精製水に全量100mLとなるよう溶解・分散せしめ、実施例2の液状の組成物を得た。
〔比較例2〕
エリスリトールを配合しないほかは実施例2と同様の方法により、比較例2の液状の組成物を得た。
【0047】
【表3】
000004
【0048】
表2~3から明らかなように、ニンニク加工物を含有する液状の組成物にさらにエリスリトールを含有せしめた場合(実施例1~2)には、エリスリトールを含有しない場合(比較例1~2)と比較して沈殿生成が抑制されることが明らかとなった。
【0049】
以上の試験例2及び3の結果から、エリスリトールに代表される糖アルコールが、液状又は半固形状の組成物中において、ニンニク加工物由来の沈殿生成を抑制する作用を有することが明らかとなった。
拒絶理由通知書
特許出願の番号 特願2019-196635
起案日 令和 5年 7月26日
特許庁審査官 堂畑 厚志 7880 4U00
特許出願人代理人 弁理士法人アルガ特許事務所 様
適用条文 第39条第2項(同日出願)
第29条第1項第3号(新規性)
第29条第2項(進歩性)
第36条第6項第1号(サポート要件)
この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見が
ありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してくだ
さい。
理由
1.(同日出願)この出願の下記の請求項に係る発明は、同一出願人が同日出願
した下記の出願に係る発明と同一と認められるから、この通知書と同日に発送し
た特許庁長官名による指令書に記載した届出がないときは、特許法第39条第2
項の規定により特許を受けることができない。
2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又
は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に
該当し、特許を受けることができない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又
は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもので
あるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法
第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
P.2
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(同日出願)について
・請求項 4,8
・引用文献等 1
・備考
本願の請求項4に係る発明のうち請求項2を引用する部分は、引用出願1の請
求項1に係る発明と同一である。
本願の請求項4に係る発明のうち請求項3を引用し、さらに請求項2を引用す
る部分は、引用出願1の請求項2に係る発明と同一である。
本願の請求項8に係る発明のうち請求項6を引用する部分は、引用出願1の請
求項3に係る発明と同一である。
本願の請求項8に係る発明のうち請求項7を引用し、さらに請求項6を引用す
る部分は、引用出願1の請求項5に係る発明のうち請求項3を引用する部分と同
一である。
●理由2(新規性)、理由3(進歩性)について
省略
●理由4(サポート要件)について
・請求項 1-3,5-7
発明の詳細な説明の記載から、本願発明の課題は、「ニンニク加工物由来の不
快臭を抑制する新たな手段を提供すること」であると認められる。
これに対し、発明の詳細な説明には、ニンニク加工物(オキソアミヂン末:理
研化学工業(株))500mg、エリスリトール(エリスリトールT:三菱ケミカ
ルフーズ(株))800mg及び安息香酸ナトリウム30mgを精製水に全量10
0mLとなるよう溶解・分散せしめた液状の組成物が、ニンニク加工物由来の不
快臭を全く感じないものであったこと、エリスリトールを配合しない製造例にお
いては、ニンニク加工物由来の不快臭を感じるものであったことが記載されてお
り、エリスリトールを配合することが上記課題の解決手段として把握される。
一方、請求項1に係る発明は「ニンニク加工物と、糖アルコールとを含有する
、組成物。」であるが、エリスリトールを配合することは特定しておらず、「糖
アルコール」まで拡張ないし一般化したものを含むことを特定するのみである。
P.5
しかしながら、一般に糖アルコールと称される化合物はその構造、性質は様々で
あることが技術常識であり、矯臭効果の有無、種類、程度も様々であると認めら
れる。しかしながら、発明の詳細な説明においては、エリスリトールを使用した
例が記載されるのみであり、他の糖アルコールを使用した例は何ら開示されてい
ない。また、他の糖アルコールについてもエリスリトールと同様にニンニク加工
物由来の不快臭を抑制する効果があることを推認する具体的な根拠も発明の詳細
な説明の記載及び技術常識から把握できない。してみると、出願時の技術常識に
照らしても、任意の糖アルコールを使用する場合を包含する請求項1に係る発明
の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとい
えるための具体的根拠は見いだせず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明
において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるもので
あるといえる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
請求項2-3,5-7に係る発明についても同様の点が指摘される。
<引用文献等一覧>
1.特願2019-196637号(特開2021-70640号)
2.特開2011-254755号公報
3.特開2010-042021号公報
4.特開2015-065928号公報
5.特開2018-070468号公報
6.国際公開第2007/040244号
7.国際公開第2004/077963号
8.特開平9-103263号公報
9.特開平9-224588号公報
10.特開2008-148568号公報
11.特開2013-010753号公報
サポート用件違反を回避するためには・・・
特許請求の範囲に糖アルコールと記載、明細書中では糖アルコールとしてエリスリトールのみの効果をみた実施例を記載したところ、サポート用件違反を指摘された例を見つけた。サポート用件について考える際にわかりやすい例かと思ったので、備忘録として取り上げた。
明細書を作成する立場で考えると、黄色マーカー箇所を突っ込まれないように明細書を構成する必要がある。具体的には、複数種類の糖アルコールを実施例に置いて、「糖アルコールがマスキングや沈殿抑制の効果に寄与する」ことを証明するがあったかと考える。
少々視点がずれるが、用途を限定しない請求項で権利を取得できると強い。
この点も考慮すると、「ニンニク加工物と糖アルコールの組み合わせ」の先行技術調査を行い、先行技術が見つからない糖アルコールで実施例を設定するのが好ましい。
よって、本願は、「糖アルコールとしてエリスリトール以外も使用する。使用する糖アルコールは、ニンニク加工物との組み合わせの先行技術が見つかっていない成分を含める」実施例を設定していれば、サポート用件違反を指摘される可能性が小さく、また、指摘された場合も反論しやすかったと考える。
感想
とりあえず出願時の請求項は上位概念で・・・と考えて請求項を設定しても、サポート用件違反を指摘されます。広い範囲で権利を取りたい場合には、サポート用件違反に耐えれるような実施例を設定する必要があります。
出願方針を考えてみました。
①先行技術調査にて、「ニンニク加工物と糖アルコールの組み合わせ」を探す。
※用途限定しない特許を取得できないかを検討する。
②複数種類の糖アルコールで実験を行う。
③得られた結果をもとに、新規性のある範囲に目星を付ける。
目星をつけた範囲で特許を取れるよう、実施例と比較例を設定する。
出願方針や得られた結果などで実施例や比較例の設定は変わってきますが、
例えば、(1)「ニンニク加工物と糖アルコールを含有する、臭いマスキング用組成物。」という用途特許、(2)「ニンニクと●●(糖アルコールの具体的な成分)を含有する組成物。」という、用途を限定しない特許、の2軸で権利化を目指すことを考えました。その場合は、「(1)糖アルコール有無での評価、(2)糖アルコールの種類による違いの評価」が必要かなと考えた次第です。