【意見書/事例で学ぶ】「細胞試験(vitro)のみで臨床効果(vivo)を確認できていない」サポート要件違反を解消した事例

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特許第7640990号

書誌事項・特許請求の範囲

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】特許第7640990号(P7640990)
(24)【登録日】令和7年2月26日(2025.2.26)
(45)【発行日】令和7年3月6日(2025.3.6)
(54)【発明の名称】食後の尿酸値上昇抑制用組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸又はその塩(茶、赤ワイン又はブドウに由来するものを除く)を有効成分とすることを特徴とする食後の尿酸値上昇抑制用組成物。
【請求項2】
没食子酸又はその塩(茶、赤ワイン又はブドウに由来するものを除く)を有効成分とすることを特徴とするプリン体吸収抑制用組成物。

拒絶理由通知書

  特許出願の番号      特願2021-004541
 起案日          令和 6年11月26日
 特許庁審査官       榎本 佳予子       9638 4C00
 特許出願人代理人     成川 弘樹(ほか 1名) 様
 適用条文         第29条第1項第3号(新規性)
              第29条第2項(進歩性)
              第36条第6項第1号(サポート要件)
              第36条第4項第1号(実施可能要件)

[B]
●理由3(サポート要件)について

・請求項   1~2
 段落0006~0007等の発明の詳細な説明の記載からみて、請求項1~2に係る発明が解決しようとする課題は、食後の尿酸値上昇抑制作用やプリン体吸収抑制作用に優れた組成物の提供であると認められる。
 ここで、発明の詳細な説明の記載を検討するに、実施例において没食子酸について具体的な試験結果が示されるのは、5’-ヌクレオチダーゼを含む小腸粉末によるイノシン一リン酸からイノシンへの代謝阻害効果にとどまっており、プリン体吸収や食後の尿酸値上昇に対する抑制効果は直接確認されていない。

 また、実施例以外の記載をみても、5’-ヌクレオチダーゼの酵素活性を抑制しさえすれば、他の生体分子との相互作用や生体内挙動によらず、プリン体吸収や食後の尿酸値上昇を抑制すると推認するに足る合理的な根拠も見いだせない。
 そして、没食子酸は抗酸化活性のような様々な生理活性を有することや、一般に、化合物の生体内挙動や活性の予測は困難であることが出願時の技術常識であることもふまえれば、発明の詳細な説明の記載からでは、没食子酸がプリン体吸収や食後の尿酸値上昇を抑制し、上記課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。
 したがって、請求項1~2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

サポート要件の審査基準

■審査基準

(1) 特許請求の範囲の記載が「サポート要件」を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討してなされる。
(2)審査官は、この対比、検討に当たって、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの表現上の整合性にとらわれることなく、 実質的な対応関係について検討する。
(3) 審査官によるこの実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、 発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べることによりなされる。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202bm.pdf

■サポート要件違反の類型

(1) 請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない場合

(2) 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、 両者の対応関係が不明瞭となる場合

(3) 出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合

(4) 請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合

意見書(認められて特許査定)

【書類名】      意見書
【整理番号】     TSPJ1052
【提出日】      令和 7年 1月23日
【あて先】      特許庁審査官 殿
【事件の表示】
  【出願番号】   特願2021- 4541
【特許出願人】
  【識別番号】   398028503
  【氏名又は名称】 株式会社東洋新薬
【代理人】
  【識別番号】   230116816
  【弁護士】
  【氏名又は名称】 成川 弘樹
  【電話番号】   (省略)
【発送番号】     585031


【意見の内容】※抜粋

〔3-2.[B]・[C]について〕
<小腸でのイノシンへの代謝阻害により食後の尿酸値低下が抑制される機序について>
イノシン一リン酸(プリンヌクレオチド)はそのままの構造では体内へ吸収されず、小腸で5’-ヌクレオチダーゼによってイノシン(プリンヌクレオシド)に代謝されることではじめて体内へ吸収されます(参考資料1、2)。そして、体内へ吸収されたイノシン(プリンヌクレオシド)は代謝され、主に肝臓で尿酸に合成されるため、尿酸値が上昇します(参考資料3)。したがって、ヌクレオチダーゼを阻害し、イノシン(プリンヌクレオシド)への代謝を阻害することで、イノシン一リン酸(プリン体)の体内への吸収を防ぐことができ、食後の尿酸値の上昇が抑制されます。
なお、審査官殿は拒絶理由通知において『5’-ヌクレオチダーゼの酵素活性を抑制しさえすれば、他の生体分子との相互作用や生体内挙動によらず、プリン体吸収や食後の尿酸値上昇を抑制すると推認するに足る合理的な根拠も見いだせない』とご指摘しておられますが、没食子酸が直接イノシン一リン酸からイノシンへの代謝を阻害するため、他の生体分子は関係ありません。また、イノシンの代謝阻害反応は没食子酸が吸収される前に小腸でおきる反応であるため、生体内の挙動によるものでもありません。
また、『没食子酸は抗酸化活性のような様々な生理活性を有することや、一般に、化合物の生体内挙動や活性の予測は困難であることが出願時の技術常識であることもふまえれば、発明の詳細な説明の記載からでは、没食子酸がプリン体吸収や食後の尿酸値上昇を抑制し、上記課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない』ともご指摘しておられますが、上述したとおり、イノシン(プリンヌクレオシド)への代謝を阻害することで、イノシン一リン酸(プリン体)の体内吸収が阻害されて食後の尿酸値の上昇が抑制されることは本願出願時の技術常識ですので、審査官殿のご認定には納得致しかねます。また、本願出願時において、5’-ヌクレオチダーゼ以外の生体分子に関して没食子酸がプリン体吸収や食後の尿酸値上昇を逆に促進するような具体的な技術常識があったわけでもありません。
そのため、本願出願時の技術常識及び本願明細書の段落[0024]や実施例の記載に基づけば、当業者は、没食子酸がプリン体吸収や食後の尿酸値上昇を抑制し、本願発明の課題を解決できると認識できます。

<動物試験による食後の尿酸値上昇抑制の確認>
上述したとおり、本願明細書の実施例等に基づき、没食子酸によってプリン体吸収や食後の尿酸値上昇の抑制が認められることは明らかではありますが、そのことをよりご理解頂くために動物試験を実施しましたので、以下に詳細を記載致します。

1.試験方法
雄性Wistarラット(6週齢)を5日間馴化した。馴化後、高尿酸血症の処置として、オキソン酸カリウム(PO)250mg/kgを被験物質投与の2時間前に腹腔内投与した。ラットを2群に分け、コントロール群にはヌクレオチド(商品名「リボタイド」)100mg/kgを強制経口投与し、没食子酸投与群にはヌクレオチド100mg/kg及び没食子酸258.4mg/kgを強制経口投与した。被験物質投与前及び投与30分後に浅麻酔下で顎下静脈から採血し、遠心で得られた血清より尿酸値を市販キットによって測定し、投与30分後における血中尿酸の変化値を算出した(式1)。なお、ヌクレオチドは、分解されてプリン体として吸収されることにより、食後の血中尿酸値を上昇させる物質である。
[式1]
投与30分後における血中尿酸変化値 = 投与30分後の血中尿酸値 - 投与前の血中尿酸値

2.試験結果
試験結果を表に示す。没食子酸投与群では、コントロール群に比べて、食後の血中尿酸値上昇が抑制されていた。この結果より、生体において、没食子酸がプリン体の吸収を抑制し、食後の尿酸値上昇が抑制されることを確認できた。

知財高裁平成21年(行ケ)第10134号

被告
本件補正発明における「(特定の成分組成を有する)組成物からなる…ヒドロキシラジカル消去剤」が,本件補正発明に係る解決課題である生活習慣病(の予防)に対して有効である程度の卓越して強力なヒドロキシラジカル消去活性の抗酸化作用を有することを当業者が認識できるものではない。
(実施例で利用されている)デオキシリボース法による測定法は,ヒドロキシラジカル消去活性の測定法としては技術的に不適当である。

知財高裁
(2) 記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断について
ア 本件審決は,新請求項1には「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」が記載されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないこと,また,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要するが,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載もないことを挙げ,本件補正発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができないとした。

・・・ 中略 ・・・

しかしながら,医薬についての用途発明において,疾病の予防に対する効果の有無を論ずる場合,たとえ生体に対する薬理的又は臨床的な検証の記載又は示唆がないとしても,生体を用いない実験において,どのような化合物等をどのような実験方法において適用し,どのような結果が得られたのか,その適用方法が特許請求の範囲の記載における医薬の用途とどのような関連性があるのかが明らかにされているならば,公開された発明について権利を請求するものとして,特許法36条6項1号に適合するものということができるところ,上記ウのとおりの本願明細書の実施例1や図1の記載,本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であることなどの記載によると,同号で求められる要件を満たしているものということができる。

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学ぶシリーズ拒絶理由通知・意見書
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