【特許実務メモ】サポート要件違反への反論:含有量の限定を回避した意見書事例

化学や食品分野の特許出願の実務において、審査官から「実施例で確認されているデータが少ないため、請求項の含有量(数値範囲)を限定せよ」というサポート要件違反(第36条第6項第1号)の指摘を受けることは非常に多い。

この典型的な拒絶理由に対し、安易に減縮補正を行うのではなく、「成分の含有量の限定は不要である」と真っ向から反論して広い権利範囲を維持できたケースがある。

本稿では、今後の実務の参考(備忘録)として、反論の法的根拠となる知財高裁判例と、実際にこのロジックを用いて特許査定となった意見書の事例を整理しておく。

反論の根拠となる知財高裁判例

審査官への反論の軸となるのは、「発明の課題がどこにあるか」という視点である。以下の2つの判決が参考になる。

① 配合比の最適化が課題ではないとする判断 (知財高裁 平成24年(行ケ)第10387号)

『審決は,特許請求の範囲に臭化n-プロピルと組み合わせる安定剤の下限値が記載されておらず,当然にその効果を奏さないような,安定剤をごくわずかしか含まないような配合量についての発明が本件発明9及び10の範囲に形式上含まれることをもって,本件発明9及び10がサポート要件を満たさないと判断した。しかし,本件発明は,臭化n-プロピルを安定化する臭化n-プロピルと安定剤の最良の組合せを見出すことを発明の課題とするものであって,臭化n-プロピルと安定剤の配合比の最適化を発明の課題とするものではないので,特許請求の範囲に,安定剤系として選択される物質の配合量の下限値が特定された記載されていないことを根拠に,本件発明9及び10がサポート要件を満たさないとすることはできない。』(平成24年(行ケ)第10387号の一部抜粋)

② 当業者であれば適宜調整可能とする判断 (知財高裁 平成24年(行ケ)第10299号)

液体調味料に配合するコーヒー豆抽出物の量については,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば,配合するコーヒー豆抽出物の量が少なければ血圧降下作用が限定される一方,その量が多ければ風味変化の改善が限定されることを理解することができるから,風味変化の改善等を図るためにその配合量を調整することが容易に可能である。したがって,本件発明(特に本件発明6~8)の特許請求の範囲の記載に配合量の上限値及び下限値の記載がないからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が,本件発明6ないし8がその解決すべき課題を解決できるものと認識できないとみることはできない。

実際の意見書事例(小林製薬・特願2022-121901)

上記の判例ロジックが、実際の審査過程でどのように主張されたかを確認する。 対象は「紅麹」と「ステアリン酸カルシウム」を組み合わせることで固形製剤の変色を抑制する発明である。

本願の請求項(抜粋)

(A)紅麹及び/又はその加工物と、(B)ステアリン酸カルシウムとを含有し、前記(B)成分の配合量が0.1重量%以上である、固形製剤。

審査官の拒絶ロジック(サポート要件違反) 明細書の実施例において、添加剤の含有量によって変色抑制(ΔE)の値が異なっている。すなわち、添加剤の配合量は課題解決に関係するパラメータであるにもかかわらず、わずか2つの実施例データのみで「0.1重量%以上」という広い範囲全体において課題を解決できるとは認められない。

出願人による意見書での反論(審判請求時) この指摘に対し、出願人は以下のロジックで反論し、結果として特許査定に至っている。

本願発明は、「変色が抑制された固形製剤を提供する」という課題に対して、(中略)ステアリン酸カルシウム((B)成分)を併用するという、従来技術では想定されていない課題解決手段を見出したものであり、ステアリン酸カルシウム((B)成分)の量を最適化することを課題とするものではありません。

発明の真の価値は「ステアリン酸カルシウムという成分を組み合わせた点」にあり、量の細かな最適化(限定)は不要であるという、前述の判例に沿った主張である。

なお、本件は拒絶査定不服審判により特許すべきものと認められたものの、特許料を納付せずに拒絶査定に至っている珍しい事例でもある。

実務上の留意点まとめ

審査官から「実施例不足による数値限定」を求められた際、反射的に減縮補正を検討する前に、以下の点を明細書から読み解く必要がある。

  • 発明の真の貢献は「新しい成分の組み合わせの発見」ではないか?
  • もしそうであれば、「配合量の最適化自体は発明の課題ではない」という主張が成立しないか?

すべての案件で通用する万能薬ではないが、不必要な権利範囲の減縮を回避するためのカードとして、常に手元に置いておきたいロジックである。

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