初めに
本記事は知的財産管理技能協会が公開している試験科目及びその範囲の細目の資料と過去問を踏まえ、関係する資料をまとめたものです。過去試験の問題文やその解説をしているわけではありません。また、本記事に記載の情報が試験にでることを保証するものでもありません。試験情報が少ない中で、受験者の勉強した内容を記録したものであることをご理解ください。
本記事に記載する内容は引例元を記載するので、最新の情報を必ず参照してください。
国や地方公共団体、独立行政法人の報告書等は転載可ですので地の文に記載&最後に出展をまとめています。(国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができます(著32条2項)。)
試験の全体像はこちらにまとめています。
表1 試験科目及びその範囲 試験科目及びその範囲の細目 学 科 試 験 (2025年11月以降)
| A-1 知的財産戦略 | 知的財産戦略に関し、次に掲げる事項について専門的な知識を有すること。 (1)IP ランドスケープ (2)ポートフォリオマネジメント (3)オープン&クローズ戦略 (4)コーポレートガバナンス・コード |
勉強方針
知財検定1級では特許庁やその他官公庁が公式に公開している資料を基に知財戦略に関する問題を作成している傾向がある。そのため、特許庁の最新の資料はマストで抑えておくべき。
時間がない場合は↑だけでも。知財戦略の概要をまとめています。
(1)IP ランドスケープ
経営戦略に資するIPランドスケープ実践ガイドブック
IPランドスケープは、一般的には、「経営戦略又は事業戦略の立案に際し、経営・事業情報に知財情報
を組込んだ分析を実施し、その分析結果(現状の俯瞰・将来展望等)を経営者・事業責任者と共有すること」と定義される。
事業戦略、技術開発戦略・知財戦略、パートナリング、活動の外部向け可視化の4つの観点から、IPランドスケープの代表的な13の目的がまとめられている。そして、それら13の目的ごとに活用できる分析手法もまとめられている。各詳細はリンク先資料参照。特に、仮想事例集(P18~)にはしっかり目を通し、どのような事例が想定されるのかを理解しておくのは有効だと思います。


知財人材スキル標準version2.0
特許庁が公表している「知財人材スキル標準version2.0」では、①ミッションおよび貢献すべき課題、②業務内容、③知識、④能力、⑤経験を以下のように整理している。
以下について、事業部門/知的財産部門/研究開発部門と連携し、業務を行うことができる。
①ミッションおよび貢献すべき課題
・事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
・新規事業の創出
・既存事業の維持/成長
・既存事業の縮小/撤退②業務内容
・知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析
・企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握
・個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等)
・自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージの提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願およびライセンス戦略の提示等)
・知財デューデリジェンス
・潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。③知識
・ビジネス(経営学の基礎理論等を含む)とそのトレンドに関する知識
・オープン&クローズ戦略
・市場の視点からみた技術のトレンドに関する知識(IoT,AI,革新的製造技術・手法等)④能力
業務内容を実行するため、以下の能力を有している。
・自社の業界および関連する様々な業界の企業動向、技術動向を把握する能力
・競合等の特許出願動向や、特定技術からビジネス上のインパクトを把握する能力
・複数の技術・アイデアをパッケージ化して自社の将来戦略と整合させた上で提案する能力
・業務に有用な情報システムを適切に選択し活用することができる能力⑤経験
https://www.jpo.go.jp/support/general/document/chizai_skill_ver_2_0/skill_card.pdf
・新規事業を担当した経験
・M&Aに携わった経験
・経営戦略部門での経験
(2)ポートフォリオマネジメント
特許庁が公表している「知財人材スキル標準version2.0」では、①ミッションおよび貢献すべき課題、②業務内容、③知識、④能力、⑤経験を以下のように整理している。
以下について、事業部門/知的財産部門/研究開発部門と連携し、業務を行うことができる。
①ミッションおよび貢献すべき課題
・事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
・新規事業の創出
・既存事業の維持/成長
・既存事業の縮小/撤退②業務内容
以下の業務を複数回成功裡に行った。
・自社保有技術に関する出願・放棄・秘匿等の戦略策定を通じた知財ポートフォリオの構築
・技術動向や競合の特許出願状況、市場におけるルール形成等の動向を勘案した、時機を得た全社的知財ポートフォリオの評価・見直し
・知財ポートフォリオや知財戦略パッケージにおけるコスト-リターンの分析・評価
・ポートフォリオ分析に基づいたR&Dテーマ及び社外からの調達が必要となる技術の評価・提案
・過去の知財戦略に関するエビデンスに基づく成果評価・検証③知識
②業務内容を実行するため、以下の知識を有している。
・自社の事業戦略、技術開発戦略
・自社の収益構造に関する理解
・資産・技術価値評価手法の理解
・自社、業界の技術動向
・財務、税務に関する知識④能力
②業務内容を実行するため、以下の能力を有している。
・将来展望に基づいて必要な知財、技術、事業ポートフォリオを構想し、ポートフォリオの評価基準を設定する能力
・ポートフォリオを元に、リスク分析を行った上でR&Dおよび新規・既存事業テーマのコストおよびリターンの分析を行う能力
・構想されたポートフォリオ評価基準に基づいて、必要な知的財産権の確保、放棄を行う能力
・業務に有用な情報システムを適切に選択し活用することができる能力⑤経験
https://www.jpo.go.jp/support/general/document/chizai_skill_ver_2_0/skill_card.pdf
・事業戦略に携わった経験
・新規R&Dテーマの立案経験
・ベンチャー企業等とのアライアンス、買収などの経験
(3)オープン&クローズ戦略
特許庁が公表している「知財人材スキル標準version2.0」では、①ミッションおよび貢献すべき課題、②業務内容、③知識、④能力、⑤経験を以下のように整理している。
以下について、事業部門/知的財産部門/研究開発部門と連携し、業務を行うことができる。
①ミッションおよび貢献すべき課題
・事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
・新規事業の創出
・既存事業の維持/成長
・既存事業の縮小/撤退②業務内容
以下の業務を複数回成功裡に行った。
・外部企業・技術の評価
・知財の観点からのアライアンス候補企業・M&A候補企業の探索・提案
・エコシステムデザインの構想・構築
・新規・既存技術のオープン・クローズ戦略の立案(①知財、標準化、営業秘密の切り分け ②知財、標準化、営業秘密のそれぞれについて戦略立案)・クローズ領域の選定・
確保、模倣品・侵害品の排除方針の策定
・国内外政府・規制当局等への対応を通じた、模倣品・侵害品の排除を含む、最適な経営環境の構想・構築③知識
②業務内容を実行するため、以下の知識を有している。
・市場の視点からみた技術のトレンドに関する知識(IoT,AI,革新的製造技術・手法等)
・オープン&クローズ戦略
・標準化戦略やプロセスに関する知識
・フォーラム、業界団体および標準化団体等の動向に関する知識
・デザインシンキング等の創造技法、TRIZなどの問題解決法及びファシリテーション手法に関する知識④能力
②業務内容を実行するため、以下の能力を有している。
・自社の業界および関連する業界のアライアンス関係(資本、技術、フォーラム等)の動向を把握する能力
・エコシステム形成、アライアンスに関する戦略構築能力⑤経験
https://www.jpo.go.jp/support/general/document/chizai_skill_ver_2_0/skill_card.pdf
・M&Aに携わった経験
・標準化業務に携わった経験
・多社間のアライアンス交渉を担当した経験
標準化
標準化はオープン戦略の一つであり、自社技術を標準化することによって市場拡大等を図ることが可能となる。一方で、標準化された技術では他社との差別化を図ることができないため、標準化による技術のオープン化とあわせて、他社との差別化を図るためにコア技術のクローズ化を検討することが重要である。参考資料からは、標準化を進める上で検討しなければならない事項に対する考え方を学ぶことができる。
<標準化を進めるためのIPランドスケープ>
https://www.jpo.go.jp/support/example/ip-landscape-guide/document/index/all_guidebook.pdf
標準化戦略を策定する上では、IPランドスケープを用いた技術トレンドや自社の強みの分析が有効である。これにより、自社が標準化を主導し得る技術や、差別化のためにクローズ化すべき技術をより精度高く捉えることができ、事業上の利益をより効果的に享受し得る標準化戦略の立案が可能となる。
<標準化を用いた事業戦略>
標準化を事業戦略に組み込んで実行していく方針を検討する上で、例えば経済産業省が公表している以下の資料を参考とすることができる。
「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/business-senryaku/index.html
「標準化実務入門」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/katsuyo/jitsumu-nyumon/index.html
標準化
(4)コーポレートガバナンス・コード
本項目は、内閣府の「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)」、経産省の「価値協創ガイダンス2.0」などの理解が必要と考えられる。「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)」に沿って重要と考える点をまとめる。
コーポレートガバナンス・コーポレートガバナンスコード
経産省のコーポレートガバナンスに関するページ(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance.html)では日本取引所を参照元にしているため、日本取引所の定義を軸にするのが良いと思われる。
コーポレートガバナンス・コードについて
本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。基本原則
【株主の権利・平等性の確保】
1. 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
2. 上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。【適切な情報開示と透明性の確保】
3. 上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。【取締役会等の責務】
4. 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。【株主との対話】
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
5. 上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。
2021 年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場会社は、知的財産への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであることが求められるようになった。また、取締役会が、知的財産への投資の重要性に鑑み、経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行について、実効的な監督を行うべきであることが盛り込まれた。
改訂コーポレートガバナンス・コード(令和 3 年 6 月 11 日公表)
第 3 章 適切な情報開示と透明性の確保
原則3-1.情報開示の充実
補充原則
3-1③ 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。第 4 章 取締役会等の責務
原則4-2.取締役会の役割・責務(2)
補充原則
4-2② 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。
知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer.2.0

2.知財・無形資産ガバナンスガイドライン Ver.2.0 の狙いと概要
本ガイドラインは、知財・無形資産の投資・活用の促進による、企業価値の向上と投資資金の獲得という好循環を加速化すべく、全体を通底する「プリンシプル(原則)」、企業の「アクション」、企業と投資家・金融機関間の「コミュニケーション・フレームワーク」、を示すものである。
(1) 知財・無形資産の投資・活用戦略における 5 つのプリンシプル(原則)
企業価値向上に資する知財・無形資産の投資・活用の要諦とは、企業が、自社の目指すべき将来の姿(To Be)を描き、現状の姿(As Is)との差分を埋める戦略を、知財・無形資産の投資・活用を通じて具現化していくことである。
その実現に向け、企業・投資家・金融機関は、以下5つのプリンシプル(原則)に基づく取組を進めると相互理解が深まる。
1 「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる
企業は、知財・無形資産を活用した高付加価値を提供するビジネスモデルを積極的に展開し、価格決定力につなげることで、製品・サービス価格の安易な値下げを回避し、事業活動成果の高効率な回収や、「発想の大転換を伴うイノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)につなげることが重要である。
2 「費用」でなく「資産」の形成と捉える
イノベーションで新たな市場が確立されるまでの市場創成期においては、ある程度の赤字を覚悟してでも十分な知財・無形資産への投資を行っていくことが重要である。そのためには、経営者は、知財・無形資産の投資・活用は単年度「費用」でなく「資産」の形成という発想を持つことにより、安易に削減の対象としないことが重要である。
3 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
企業は、自社の強みとなる知財・無形資産が、どのようにサステナブルな価値創造やキャッシュフローの創出につながるかについて、投資家や金融機関等に対する論理的な説明が求められる。その際、必要な資金の獲得、社内外の関係者との戦略の共有化を図るために、その戦略を「ロジック/ストーリー」として論理的に説明する必要がある。
4 全社横断的な体制整備とガバナンス構築
知財・無形資産の投資・活用戦略は、企業価値に大きな影響を与える経営上の重要事項である。そのため、社内の幅広い知財・無形資産を全社的に統合・把握・管理し、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行・評価を取締役会がモニターするガバナンスを構築することが重要である。
5 投資家・金融機関における、中長期視点での投資への評価・支援
知財・無形資産の投資・活用は長期的な取組であり、価値創造やキャッシュフローの創出につながるまでに一定のタイムラグが生じることも多い。そのため、投資家や金融機関は、企業の取組を長期的な観点から評価し、納得できる説明があるのであれば、短期的には収益を圧迫したとしても、その経営方針を支持し、大胆な知財・無形資産への投資を理解し支援する姿勢が求められる。
(2) 知財・無形資産の投資・活用のための企業における7つのアクション
企業においては、自社の目指すべき将来の姿を描き出し、現状の姿からの差分を埋める知財・無形資産の投資・活用戦略を描く「バックキャスト」型での戦略構築が重要である。その実現においては、企業は以下のアクションを取ることが必要である。
フォーキャスト、バックキャストの用語を理解する
(i) 現状の姿の把握
自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を行い、自社の現状の姿(As Is)を正確に把握する。
(ii) 重要課題の特定と戦略の位置付けの明確化
技術革新・環境・社会を巡るメガトレンドのうち自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定した上で、注力すべき知財・無形資産の投資・活用戦略の位置付け付けを明確化する。
(iii) 価値創造ストーリーの構築
自社の知財・無形資産の価値化が、どのような時間軸(短期・中期・長期)でサステナブルな価値創造に貢献していくかについて、達成への道筋を描き共有化する。
具体的には、目指すべき将来の姿(To Be)を描き、強みとなる知財・無形資産を、事業化を通じて、製品・サービスの提供や社会価値・経済価値にいかに結びつけるかという因果関係を明らかにした価値創造ストーリーを構築し、これを定性的・定量的に説明する。
(iv) 投資や資源配分の戦略の構築
知財・無形資産の把握・分析から明らかとなった自社の現状の姿(As Is)と目指すべき将来の姿(To Be)を照合し、そのギャップを解消し、知財・無形資産を維持・強化していくための投資や経営資源配分等の戦略を構築し、その進捗を KPI の設定等によって適切に把握する。
(v) 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
戦略の構築・実行とガバナンスのため、取締役会で知財・無形資産の投資・活用戦略について充実した議論ができる体制を整備するとともに、社内の幅広い関係部署の連携体制の整備、円滑なコミュニケーションの促進や関連する人材の登用育成に取り組む。
(vi) 投資・活用戦略の開示・発信
法定開示資料の充実のみならず、任意の開示媒体(統合報告書、コーポレートガバナンス報告書、IR 資料、経営デザインシート等)、更には、広報活動や工場見学といった機会等も効果的に活用し、知財・無形資産の投資・活用戦略を開示・発信する。
(vii) 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨
投資家や金融機関その他の主要なステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じて、知財・無形資産の投資・活用戦略を磨き高める。
(3)企業と投資家・金融機関の価値協創を支えるコミュニケーション・フレームワーク
現在、企業の知財・無形資産の投資・活用における開示や投資家・金融機関との対話の内容は、「現在のビジネスモデルや事業ポートフォリオ(As Is)における知財・無形資産の投資・活用の状況の開示」、「研究開発費の支出額や特許の取得に要した費用」等に留まることが多く、投資家・金融機関が期待する情報との間には、一定のギャップが存在する。
そのため、企業と投資家・金融機関は、相互の思考構造のギャップを埋める必要があり、次に示すコミュニケーション・フレームワークに則した協創(対話等)に取り組み、両者の知見の相乗効果により、その戦略の強化に努めるべきである。
知財・無形資産の投資・活用を通じた企業価値の顕在化・創造は、企業と投資家・金融機関の双方にとってメリットがある。本フレームワークを通じ、両者が協創を図り、企業価値向上に繋げる取組を果敢に進めることを推奨する。
1.事業ポートフォリオ変革からバックキャストした「ストーリー」上に戦略を位置付ける
企業の事業ポートフォリオにおける各事業の成長性・資本収益性から見た現在の位置付け(As Is)を明確にし、目指すべき将来の姿(To Be)に到達するために、どのようなシナリオで事業の位置付けを引き上げていくのか。その際に、知財・無形資産戦略をどのように活用し、実現するのかを明らかにする情報開示や対話を行う。
2.自社の本質的な強みと知財・無形資産をビジネスモデルに接続する「企図する因果パス」を明らかにする
「製品・サービスの競争力・差別化要因となる知財・無形資産が他社と何故どのように異なり、どのような時間軸で持続可能で競争優位なビジネスモデルに繋がるのか」、その実現性を含めて説明し、その投資戦略の優位性・必然性を明らかにする情報開示や対話を行う。
3.目指すべき経営指標(ROIC 等)と知財・無形資産投資・活用戦略を紐付ける
企業における知財・無形資産の投資・活用を、コーポレートレベルの経営指標(ROIC 等)と紐付けて決定し、企業価値向上に対する知財・無形資産の投資・活用の貢献を明らかにする情報開示や対話を行う。
(4) 投資家や金融機関等に期待される役割
知財・無形資産の投資・活用を通じた企業価値の顕在化・創造は、企業と投資家・金融機関の両者に大きなメリットをもたらすため、企業のみならず、資本・金融市場を取り巻く幅広いプレイヤーにおいても、重要な役割を担うことが期待される。
投資家は、各社固有の投資哲学に照らし、企業価値を支える知財・無形資産の投資・活用戦略を認識し、将来の企業価値創造への貢献を評価し投資判断に活かすことや、企業価値創造の持続可能性についての疑問や懸念を適宜企業に伝える対話を通じてスチュワードシップ責任を果たすこと、このような評価や分析を行える人材育成と環境整備を行うことが求められる。
そのために、主に資本市場におけるアセット・オーナーは、中長期的な視点を意識した運用の設計を行い、アセット・マネージャー、セルサイド・アナリスト等は中長期的な視点をもち、企業の知財・無形資産を生かし切るや投資判断・エンゲージメントを担うことが期待される。
また、金融機関等の金融市場のプレイヤーにおいても、同じく中長期的な視点を持ち、知財・無形資産を活用した評価や経営支援の実践、スタートアップ等への資金供給を担い、企業価値の顕在化の一翼を担うことが期待される。
日本における知財・無形資産の投資・活用の現状と課題
現在、企業において、知財・無形資産の投資・活用が十分とは言えず、この投資が企業価値として適切に顕在化しているとは言えない。また、投資家・金融機関においても、知財・無形資産の投資・活用に対する評価やエンゲージメントが十分とはいえない。
その原因としては、企業における「戦略構築」や「社内体制」、「SX への対応」等の課題、資本市場における「中長期的視点の欠如」、「ジャパン・パッシング」、更には企業と投資家・金融機関の間をとりまく「思考構造のギャップ」等の存在が指摘される。
企業価値を顕在化するコミュニケーション・フレームワーク
知財・無形資産の投資・活用を通じた企業価値の顕在化・創造は、企業と投資家・金融機関それぞれにメリットをもたらす。
企業と投資家・金融機関は、思考構造のギャップを埋めるコミュニケーション・フレームワークに則した協創に取り組み、両者が連携し、知財・無形資産の投資・活用にかかる戦略の強化に努めるべき。
また、フレームワークを活用した望ましい協創に向けては、一方通行の説明・質問ではなく、企業と投資家・金融機関が、直接、互いの関心・見解や課題認識や将来への方向性を共有し、投資家からではなく企業からの質問等も実施するなど、双方向での実質的な対話を強化することでさらなる進化がもたらされる。
(1) 知財・無形資産の投資・活用を企業変革につなげる「ストーリー」の構築と磨き上げ
企業は現在、サステナビリティ対応を起因とした市場変化、人口減少などの市場縮小、破壊的イノベーションなどの市場変革に直面している。2023 年に実施された「第 26 回世界 CEO 意識調査」においても、「現在のビジネスのやり方を継続した場合、10 年後に自社が経済的に存続できない」と考える日本の CEO は 72%(世界全体では 39%)に達し、日本企業は特に、将来に対する危機感が極めて強い。
その状況下、企業価値を向上するためには、それらメガトレンドによる「機会」や「リスク」を踏まえ、ビジネスのやり方を変革した先の目指すべき「将来の姿(To Be)」やそれを実現するための全体戦略を描くことが求められる。
全体戦略を実行する上では、事業ポートフォリオ変革からバックキャストした「ストーリー」上に、現在(As Is)と将来(To Be)のギャップを埋める投資の一つとして、知財・無形資産の投資・活用戦略を位置付けることが重要である。知財・無形資産は差別化源泉であり、それらの投資活用は、事業ポートフォリオ変革の実現性を高める上で必要不可欠なためである。
企業の事業ポートフォリオにおける各事業の成長性・資本収益性から見た現在の位置付け(As Is)を明確にし、目指すべき将来の姿(To Be)に到達するために、どのようなシナリオで事業の位置付けを引き上げていくのか、一連の流れをストーリーとして投資家・金融機関に対する情報開示や対話に繋げていくことが求められる。
(2) 知財・無形資産の投資・活用と事業価値をつなぐ因果パスの企図・実装
前述の「経営変革のストーリー」に対して、その実現性や信頼性・再現性等を確保していく上では、企業においては、「知財・無形資産投資」が、最終的に ROIC(資本効率)、PER(成長期待)といったアウトカムにつながるように、価値創造プロセスの中で「高利益率に係る製品・サービスの競争力・差別化要因となる知財・無形資産が他社となぜどのように異なり、どのような時間軸で持続可能で競争優位なビジネスモデルになるのか」といった粒度で、企図する関係性(因果パス)について、投資家・金融機関と対話を行うことが有用である。
また、企図する因果パスの説明においては、定量的な指標(KPI 等)を効果的に用いることや、新たな企業価値創造に関する過去のトラックレコードや具体的な組織の学習能力の維持・強化の取組についての説明も交えて、その継続性・再現性についての信頼度を高めることも有用である
なお、投資家には「因果パス」を見抜く力が求められる。因果パスを見抜く上では、例えば、次にあげる問いを通じて企業の活動を高度化することが有効と考えられる。企業においても、以下の問いに答えていくために、IP ランドスケープ等を活用し、知財・無形資産の棚卸・見える化、市場や競合動向の分析を図ることも重要である。
成長性の観点
市場規模 :事業ターゲット(製品・サービス)で想定される市場規模はどの程度か。
差別化 :成長ドライバーとなる製品・サービスを支える差別化要素、磨くべき差別化要素は何か。
外部連携 :自社で担うべきものと、他社で担うべきものをどのように識別しているか、自社の差別化要
素の価値を高める他社との連携状況(事業・資本等)は何か。
収益性の観点
差別化要素:自社市場に対する他社の参入障壁を支える差別化要素(知財・無形資産)は何か、
それは持続可能か。
事業リスク :参入障壁を崩す要素は何か。そうした事態発生に対してどのように備えているのか。
(3) 経営指標(ROIC 等)と知財・無形資産の投資・活用戦略の紐付け
前述の「経営変革のストーリー」と自社の知財・無形資産の投資・活用とビジネスモデルの強みを接続する「因果パス」を明確にするために、企業における知財・無形資産の投資・活用を、コーポレートレベルの経営指標(ROIC等)と紐付けて説明し、企業価値向上に対する知財・無形資産の投資・活用の貢献を明らかにする対話が求められる。
企業価値向上へのつながりについての開示に当たっては、打ち手に関する関連指標を単に設定するだけでは足りない。経営者自身が、それらがコーポレートレベルの財務・非財務上の成果(KPI 等)とのインパクト面での「つながり」を、自社の戦略に即し、具体的な成長期待との紐付けを社内外に表明することが重要である。
具体的には「タイムラグを踏まえた ROIC 逆ツリー」等の形式での検討・表明等が想定されるが、これら投資の内訳及び関連指標は企業が置かれている環境・企業のライフステージ・業種/業態やコア事業等により大きく異なるものの、当該指標を設計・実行している企業においては、以下の検討及び実行・評価の取組が見受けられる。
・ 自社のパーパス等との方向性を合わせた、知財・無形資産の投資・活用による関連する経営戦略・施策等を整理する。
・ 自社において、どのような知財・無形資産の投資・活用が攻め・守りの観点で競争力になるのか、また、それらの知財・無形資産が、ビジネスモデルに対し、どういう働きをしているのかを特定する(例えば、事業の成長速度を高める、市場形成に寄与する、独占・他社排除による利益創出等に繋がる知財・無形資産を明らかにする)
・知財・無形資産の投資・活用が持つ投資のタイミング(費用として発生したタイミング)と企業価値化されるタイミング(例:事業化)のタイムラグを踏まえ、現在の投資と将来の企業価値をつなぐ意識を持ち、当該仮説の自社としての KPI を設定する。
・具体的には、中長期的な視点で見た知財・無形資産の投資・活用の「結果」関係の KPI、及び、自社
なりに特定した中間アウトプットや行動目標である「要因・過程」系の KPI など、タイムラグを意識した設定が重要である。
・その際、企業においては、事業環境・ビジネスモデルの特性 ・目指す姿(To Be)等に鑑みて、どのような KPI が企業価値向上に寄与するのかの検討を行うことが重要である。
検討の体制として、企業内の経営から現場に至る関連部門(担当役員及び経営企画部門・IR 部門・事
業部門・知財部門)が対話を重ねながら落とし込みを図ることが重要である。例えば、各現場に張り付き現場をサポートするアドバイザー等の社内人材を調整すること。
Ⅳ 企業に求められる知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信
企業における知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信においては、将来その企業が、どのような社会的、経済的価値を創出しようとしているのか、そのためにどのような知財・無形資産を活用して、どのようなビジネスモデルで価値提供とマネタイズを実現することを目指すのかということについて、戦略を構築し、戦略的意思を表明することが求められる。そのための取組は、
①知財・無形資産を「価格決定力」「ゲームチェンジ」につなげる、
②知財・無形資産の投資・活用を「費用」でなく「資産」形成として捉える、
③「ロジック/ストーリー」としての説得的な説明を行う、
④全社横断的な体制のもとで実践する、
といったプリンシプル(原則)のもとで設計されることが求められる。加えて、戦略構築に当たっては、将来を起点とした「バックキャスト型」の戦略構築プロセスが求められる。その際、自社の知財・無形資産の価値を引き出すためには、スタートアップ等に知財・無形資産等を提供し、外部のアイデアと組み合わせていくための提供資産の見える化、経営トップ直轄の「スタートアップ起点の価値創造型」連携モデルの構築と高い統合作業(PMI)能力が必要である。
開示・発信を踏まえた対話に当たっては、投資家には多様な投資運用形態があり、視点も異なることを意識し、そのニーズに合わせた対応を図る必要があるとともに、企業側から投資家に質問をする等双方向の対話となるようにすることが求められる。なお、開示・発信・対話に当たっては、いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルールを前提とした対応をとることが必要である。
知財・無形資産の投資・活用戦略のガバナンスに当たっては、取締役会自体が投資家・金融機関の目線に立った骨太な議論を展開し、実質的監督を行うと共に、経営トップの責任の下で全社横断的な体制が構築される必要がある。
投資家や金融機関等に期待される役割
- 知財・無形資産の投資・活用を通じた企業価値の顕在化・創造は、企業と投資家・金融機関の両者にメリットをもたらす。
- 主に資本市場におけるアセット・オーナー、アセット・マネージャー、セルサイド・アナリスト等は、中長期的な視点をもち、知財・無形資産を生かし切る運用の設計や投資判断・エンゲージメントを担うことが期待される。
- また、主に金融市場のプレイヤーにおいても、同じく中長期的な視点を持ち、知財・無形資産を活用した評価や経営支援の実践、スタートアップ等への資金供給を担い、企業価値の顕在化の一翼を担うことが期待される。
その他 知財戦略
参考文献
内閣府知的財産戦略推進事務局 知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(略称:知財・無形資産ガバナンスガイドライン)Ver.2.0
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/governance_guideline_v2.html
経産省 価値協創ガイダンス2.0
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/ESGguidance.html






コメント