先日、下のような相談がありました。
今回、実際に試験を行ってみて、当社製品のエア圧を「2.5MPa~3.0MPa」にすると、弁の開閉にちょうどいいことがわかりました。次回のマイナーチェンジでは、エア圧をこの範囲に設定する予定なので、これで特許を取りたいです!
(※事実をもとにしたフィクションです)
発明者は「数値限定発明」というものがあることを知っていたようです。
この場合に、特許権を取得できる可能性は、どの程度のものでしょうか。
数値限定発明とは(wikipedia)
数値限定発明(数値限定クレーム)について、wikipediaでは「その発明についての何らかの量の測定値が属する範囲を特定することによって、特許を受けようとする発明を特定する請求項」、「例えば、「JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータにより測定される硬さが30度以上40度未満である合成樹脂により形成される消しゴム」という請求項がこれにあたる。」と書かれていました。
たしかに、今回の『エア圧を「2.5MPa~3.0MPa」にする』ことも、特許として出願できそうです。
審査基準における数値限定発明
では、数値限定発明の進歩性は、どのように判断されるのでしょうか。特許・実用新案審査基準第III部第2章第四節では、下記のように記載されていました。
主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。
特許・実用新案審査基準より引用
しかし、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(i)から(iii)までの全てを満たす場合は、審査官は、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断する。
(i) その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること。
(ii) その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること。)。
(iii) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。
なお、有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。
また、請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、いわゆる数値限定の臨界的意義として、有利な効果の顕著性が認められるためには、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異がなければならない。他方、両者の相違が数値限定の有無のみで、課題が異なり、有利な効果が異質である場合には、数値限定に臨界的意義があることは求められない。
数値限定発明は進歩性は乏しいというのが、基本的なスタンスなんですね。
感想 結局、特許になりそう?ならなさそう?
結論として、私は「特許権の取得は難しい」と回答しました。「実験的に数値範囲を最適化又は好適化」する範囲を脱してないと判断したからです。
余談ですが、私は発明提案書を受けた時点で、「出願できるか否か」ではなく、「どのようにすれば出願できるか」を検討するようにしています。今回のような事例でも、例えば構造上の工夫はないのか、従来と比べて顕著な効果を奏する何らかの差異はないのか、などですね。数値限定は下位のクレームにおけるかもしれないです。
一方で、数値限定発明という言葉を聞いたために、発明提案書を提出したくなる技術者の気持ちもわかります。大切なのは、正しく理解してもらい、出願ポイントのツボを押さえてもらえるよう努めることだと思います。
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