【2/2】請求項を「本明細書に記載の発明。」とした特許出願についての調査

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前回、請求項を「本明細書に記載の発明。」とした公報について、その出願数や通知される拒絶理由などについてのざっくり調査結果を公開しました。すると…

オムニバスクレームは2019年の知財学会で発表しましたが、もしお役に立てるなら当時のスライドを編集し、提供します。

というお言葉をいただきました。そこで、NEDS代表の長内 悟様よりご提供いただいた情報をもとに、オムニバスクレームについて少し深堀りしてみたいと思います。

本記事の内容
・オムニバスクレームも権利化を目指している。
・特許請求の範囲「本明細書に記載の発明。」に通知される拒絶理由
・なぜ「本明細書に記載の発明。」とするのかの考察

調査方法

まず、オムニバスクレームの定義ですが、「明細書または図面を参照することで発明を特定する請求項」とします。

〇オムニバスクレームに該当する請求項の例
・ 明細書に記載された発明。
・ 明細書に記載の発明。
・ 明細書または図面に記載の発明。
・ 本明細書に記載の発明。
・ 明細書に実質的に記載された発明。    など

〇調査対象の公報
2009年1月1日~2018年12月31日に日本国内で公開、公表、発行等が行われた特許及び実用新案。請求項にオムニバスクレームが記載されている公報

〇検索条件
・検索日:2019年4月2日
・ 使用データベース:SRPARTNER
・ 検索対象:2009年1月1日~2018年12月31日までの10年間に日本国内で公開、 公表、発行等が行われた特許及び実用新案

〇検索項目
請求の範囲:明細書

〇ヒット件数
7145件ヒット→ ノイズ除去後 7033件

長内, 明細書を参照して発明を特定する記載がある請求項についての調査研究, 日本知財学会第17回年次学術研究発表会, 2019年12月.

結果と考察

検索結果

・ 技術的な特徴の記載なし:2983件
(請求項に明細書を参照する旨の記載のみが書かれた公報)

・技術的な特徴の記載あり : 4050件
(明細書を参照する旨の記載+技術的な特徴を示す記載)

長内, 明細書を参照して発明を特定する記載がある請求項についての調査研究, 日本知財学会第17回年次学術研究発表会, 2019年12月.

計7033件がヒットしています。2009年1月1日~2018年12月31日に日本国内で公開、公表、発行等が行われた特許及び実用新案数が〇〇件であるので、〇%がオムニバスクレームに該当することになります。

オムニバスクレームの審査請求と法的状況

長内, 明細書を参照して発明を特定する記載がある請求項についての調査研究, 日本知財学会第17回年次学術研究発表会, 2019年12月.

上円グラフでは、約2割のオムニバスクレームが登録査定を受けているこがわかります。また、長内様の調査結果によると、2009年~2015年に出願されたオムニバスクレームにおいて、74%が審査請求をしているそうです。2017年にされた特許申請について、審査請求がされた割合は、73.1%である(特許行政年次報告書2021年版<統計・資料編> 第2章 主要統計 2.特許出願における審査請求等の推移(特許庁))ことから、オムニバスクレームであっても、権利化を目指していることに変わりはないと考えてよいでしょう。

オムニバスクレームの出願から特許査定まで

約2割のオムニバスクレームが登録査定を受けていることがわかりました。次に、オムニバスクレームの出願から特許査定までの流れを見ていきます。こちらも、長内様提供の資料をもとに紹介します。

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長内, 明細書を参照して発明を特定する記載がある請求項についての調査研究, 日本知財学会第17回年次学術研究発表会, 2019年12月.

親出願を分割し、子出願の公開後に補正しています。

このような経緯で登録されているのを見ると、戦略的にオムニバスクレームにしているように思えます。前回の記事のコメントにもあったのですが、このやり方だと50条の2の通知を回避できるんですよね。そのほか、 シフト補正回避、審査請求料を抑えるというコメントもいただきました。

補償金請求権ってどうなるの?

オムニバスクレームのデメリットがないかを考えたとき、補償金請求権はどうなるのか気になりました。工業所有権法逐条解説では「特許出願人は、補償金を請求するためには、原則として第三者に
対し出願公開時の特許請求の範囲に記載されている発明の内容あるいは出願公開後に特許請求の範囲に関する補正をした場合にはその補正後の発明の内容を記載した書面を提示して警告しておく必要がある。」とあります。してみると、オムニバスクレームから特許査定を得ても、補償金請求権は行使できないように思います。

仮に補償金請求権を行使できないとすると、出願人側としては大きなデメリットです。そのほかにも何かデメリットはあるのでしょうか…?

まとめ オムニバスクレームは軽視できない

オムニバスクレームが権利化を目指している以上、知財部側も軽視できませんね。一番怖いのが、公開公報の時点で検索式にひっかからずに、登録査定になった後にひょこり出てくることだと思います。

また、技術部門への説明も手間がかかります。「どこを権利化したいのかわからないので、こういう技術で権利化しようとする公報があると心に留めておいてください。」などと言われても困るでしょうし、具体的な対応の取りようがありません。かなり苦しいですけど、なにか対応するとしたら、関連しそうな公報をたくさん集めて情報提供するとかでしょうか? 

意外と対応に困るオムニバスクレーム、個人的には「特許請求の範囲を公開公報時に隠す意図がある」場合には規制が欲しいですが、難しいでしょうね。一出願戦略として流行らなければいいなと思います。

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