審査中の他社特許が権利化されたら困る場合、「拒絶理由があるから権利にならないよ!」と特許庁に情報提供することができます。どのような書類を作成するのか、練習を兼ねて記載しようと思います。
情報提供 概要
特許庁に、先行技術を提示して、こんな拒絶理由があるよ、と伝えます。ざっくり以下のような拒絶理由があります。体感ですが、食品の分野では、新規性・進歩性をベースに、突っ込みどころがあればサポート要件・単一性・実施可能要件・明確性などを指摘することが多いように思います。
新規性(特許法第29条第1項第1号から第3号)
進歩性(特許法第29条第2項)
先願(特許法第39条第1項)/同日出願(同条第2項)
実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
明確性(特許法第36条第6項第2号)
発明該当性/産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)
新規事項(特許法第17条の2第3項)
発明の単一性(特許法第37条)
その他の理由
例題_特願2020-148829
特願2020-148829(記事作成時点では審査中)で、情報提供の練習します。
出願記事 | 特許 2020-148829 (2020/09/04) 出願種別(通常) | |
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公開記事 | 2022-043520 (2022/03/16) 総通号数(44) 年間通号数(220047) 発行区分(0101) | |
出願人・代理人記事 | 出願人 東京都港区 (000006884) 株式会社ヤクルト本社 <KABUSHIKI KAISHA YAKULT HONSHA> |
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップル果汁、オレンジ果汁、パイナップル果汁、ピーチ果汁、ホワイトグレープ果汁、マスカット果汁からなる群から選ばれる1種または2種以上の果汁と、ベリー系果汁と、乳化製剤化されていない鉄とを含有することを特徴とするベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項2】
乳化製剤化されていない鉄が、乳化製剤化されていないピロリン酸第二鉄であることを特徴とする請求項1記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項3】
乳化製剤化されていない鉄の含有量が、飲食品100gあたりの鉄換算で、1.0~25mgである請求項1または2記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項4】
乳化製剤化されていない鉄の平均粒子径が、10μm未満である請求項1~3記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項5】
ベリー系果汁が、ストロベリー果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁またはアローニャ果汁から選ばれる1種または2種以上である請求項1~4記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項6】
ベリー系果汁に対するアップル果汁、オレンジ果汁、パイナップル果汁、ピーチ果汁、ホワイトグレープ果汁、マスカット果汁からなる群から選ばれる1種または2種以上の果汁の質量比がストレート果汁換算で、1:0.11~1:1.5であり、ベリー系果汁入り鉄含有飲食品全量に対する果汁の総量が、質量比で5%~20%である請求項1~5記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
【請求項7】
ベリー系果汁入り鉄含有飲食品が乳含有飲食品である請求項1~6記載のベリー系果汁入り鉄含有飲食品。
目標
対象:
請求項1について、新規性がないので特許にしちゃだめですよ!という内容を情報提供することを目標にします。
先行技術:スリムアップスリム ベジフルレッドスムージー ベリーヨーグルト味 300g
Amazon.co.jp での取り扱い開始日 2014/1/29
コラーゲンペプチド、水溶性食物繊維、ホエイパウダー(乳製品)、砂糖、野菜・果実混合汁(人参、リンゴ、オレンジ、その他)、還元麦芽糖、ヨーグルトパウダー、アサイーパウダー、苺粉末、ブルーベリー果汁パウダー、ラズベリー粉末、バナナ粉末、野菜混合粉末、植物発酵エキス末、トマトペースト、乳酸菌粉末(殺菌)、食用油脂、豚プラセンタエキス末、加工でん粉、糊料(増粘多糖類:大豆を含む)、酸味料、クエン酸K、乳酸Ca、卵殻Ca、香料、乳化剤、酸化Mg、着色料(紅麹、野菜色素)、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロース)、V.C、ヒアルロン酸、香辛料抽出物、酸化防止剤(V.E、V.C)、ピロリン酸第二鉄、V.E、ナイアシン、パントテン酸Ca、V.B6、V.B2、V.B1、V.A、葉酸、V.D、V.B12、(原材料の一部にごま、くるみ、やまいも、ゼラチンを含む)
情報提供書類 ひな形
ひな形は特許庁のWEBサイトにあります。以下のリンクから「刊行物等提出書」を使用します。
https://faq.inpit.go.jp/industrial/faq/search/result/10939.html
情報提供 練習
【書類名】 刊行物等提出書
【提出日】 令和 ●年 ●月 ●日
【あて先】 特許庁長官 殿
【事件の表示】
【出願番号】2020-148829
【提出者】
【識別番号】省略
【住所又は居所】省略
【氏名又は名称】省略
(【代表者】)
【提出する刊行物等】刊行物1:UHA味覚糖 グミサプリ 鉄 20日分(40粒) グレープ味
Amazon.co.jp での取り扱い開始日 2020/4/9 URL:・・・
【提出の理由】
1.拒絶すべき理由
・特許法第29条1項3号(新規性)
・特許法第29条2項(進歩性)
2.理由の説明
(2-1)請求項1について
刊行物1には、野菜・果実混合汁(人参、リンゴ、オレンジ、その他)、グレープ果汁、リンゴ果汁、グレープ果汁、ベリー系果汁(アサイーパウダー、苺粉末、ブルーベリー果汁パウダー、ラズベリー粉末)、ピロリン酸第二鉄を含有するスムージーが記載されている。
、仮に刊行物1に記載のピロリン酸第二鉄が乳化製剤化されていたとしても、当業者であれば、刊行物1より本願請求項1は容易に想到しうるものである。
したがって、本願発明1は、第29条1項3号(新規性)、特許法第29条2項(進歩性)の要件を満たさず、拒絶理由を有する。
【提出物件の目録】
【添付物件】
まとめ
1時間程度でざっくり記事にしてみました。どのようなものか、ニュアンスが伝わればうれしいです。
あとは、先行技術をしっかり調査したり、拒絶理由があることを丁寧に説明していけば、ある程度形になるかと思います。
近いうちに実際の拒絶理由通知が出るかと思うので、実際の拒絶理由通知もチェックしようと思います。
2024/6/2 実際の拒絶理由通知
拒絶理由通知書
特許出願の番号 特願2020-148829
起案日 令和 6年 4月23日
特許庁審査官 厚田 一拓 5575 4O00
特許出願人代理人 宮原 貴洋 様
適用条文 第29条第1項第3号(新規性)
第29条第2項(進歩性)
第36条第6項第2号(明確性)
第36条第6項第1号(サポート要件)
この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見が
ありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してくだ
さい。
理由
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又
は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に
該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又
は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもので
あるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36
条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法
第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
P.2
・請求項 1、4-6
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、リンゴ果汁にブルーベリー果汁を10-90体積%で混合し
、発酵した発酵酢、及び、当該発酵酢を含む飲料が記載されており、リンゴ果汁
にブルーベリー果汁を様々な配合比で混合したこと等が記載されている(特許請
求の範囲、実施例、表2)。
ここで、一般に果物の果汁には、微量なりとも鉄が包含されると認められる(
参考文献7参照)。
そうすると、本願請求項1、4-6に係る発明は、引用文献1に記載された発
明であり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
・請求項 1-7
・引用文献等 1-2
・備考
引用文献2には、アントシアニン系色素等の天然色素含有飲料に鉄イオンを含
有させる飲料の退色防止方法が記載されており、ピロリン酸第二鉄等を使用する
ことが記載されている(特許請求の範囲、実施例、[0009])。
ここで、引用文献1-2に記載の発明は、共に天然色素含有飲料の製造に関す
るものであるから、引用文献1に記載の飲料の退色防止のために、引用文献2に
記載されているように、ピロリン酸第二鉄等の鉄を添加することは当業者が容易
に行い得ることである。
また、所望の成分や風味を付与するために、鉄の配合量を設定することや、他
の成分を設定することは当業者が容易に行い得ることである。
そして、本願請求項1-7に係る発明の構成を採ることによって顕著な効果が
奏されるとも認められない。
よって、本願請求項1-7に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び
、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができ
たものである。
・請求項 1、4-5、7
・引用文献等 3
・備考
引用文献3には、ぶどう果汁とベリー果汁を含有する発酵乳製品が記載されて
おり、ベリー果汁がラズベリー等であることが記載されている(特許請求の範囲
、実施例)。
ここで、引用文献3には、ブドウ果汁の品種として、マスカット等の各品種を
P.3
使用することが記載されており([0015])、そのような飲料を製造するこ
とは当業者が容易に行い得ることである。
そして、これらの構成を採ることによって顕著な効果が奏されるとも認められ
ない。
よって、本願請求項1、4-5、7に係る発明は、引用文献3に記載された発
明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
・請求項 1-5、7
・引用文献等 2-3
・備考
引用文献2-3には、上述のとおりの事項が記載されており、引用文献2-3
に記載の発明は、共に天然色素含有飲料の製造に関するものであるから、引用文
献3に記載の飲料の退色防止のために、引用文献2に記載されているように、ピ
ロリン酸第二鉄等の鉄を添加することは当業者が容易に行い得ることである。
また、所望の成分や風味を付与するために、鉄の配合量を設定することや、他
の成分を設定することは当業者が容易に行い得ることである。
そして、本願請求項1-5、7に係る発明の構成を採ることによって顕著な効
果が奏されるとも認められない。
よって、本願請求項1-5、7に係る発明は、引用文献3に記載された発明、
及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することが
できたものである。
・請求項 1-7
・引用文献等 2、4-6
・備考
引用文献4には、りんご濃縮果汁とアローニャ果汁を含む飲料が記載されてい
る(試験例2)。
引用文献5には、イチゴとオレンジ、リンゴ、パイナップル、ブドウ等を混合
したミックスジュースが記載されている(図11-12)。
引用文献6には、イチゴ/バナナジュースに、ブドウジュース、オレンジジュ
ース、マンゴピューレ、モモピューレ及びブルーベリーピューレを加えたことが
記載されている(実施例3)。
なお、このように、各種果汁を含む飲料を示す文献は、ほかにも多数存在する
と認められる。
そうすると、本願請求項1、4-5に係る発明は、引用文献4-6に記載され
た発明である。
また、退色防止のために、引用文献2に記載されているように、ピロリン酸第
二鉄等の鉄を添加すること、所望の成分や風味を付与するために、鉄の配合量を
設定すること、並びに、他の成分を設定することは当業者が容易に行い得ること
P.4
である。
そして、本願請求項1-7に係る発明の構成を採ることによって顕著な効果が
奏されるとも認められない。
よって、本願請求項1-7に係る発明は、引用文献4-6に記載された発明、
及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することが
できたものである。
●理由3(明確性)について
・請求項 1-4、6-7
本願の請求項1に記載の「ベリー系果汁」について、ベリー系とされる果実は
、その定義が一義的に定められたものとも認められず、本願明細書段落0015
の記載を参酌しても、その範囲が明確とはいえない。
従属する請求項2-4、6-7に係る発明についても同様である。
●理由4(サポート要件)について
・請求項 1、3-7
本願発明の課題は、ベリー系果汁中のポリフェノールと鉄素材の反応により発
生する変色や、鉄味の低減されたベリー系果汁入り鉄含有飲食品を提供すること
と認められる。また、本願請求項1、3-7に係る発明には、乳化製剤化されて
いない鉄を含有することが特定されているが、具体的な鉄塩の種類は特定されて
いない。
他方、本願の発明の詳細な説明には、ピロリン酸第二鉄について、乳化されて
いないものと、乳化されたものを使用して、風味や変色の程度等について調べた
ことが開示されているのみである。
ここで、鉄塩の風味や変色等の性質は、使用する塩の種類に応じて変化し得る
ものであるから、ピロリン酸第二鉄以外の鉄塩で乳化製剤化されていないものを
使用した場合に、本願発明の課題を解決可能なのか不明である。
加えて、上述のように、鉄は、果汁等の成分としても包含されるところ、その
ような飲食品によって、本願発明の課題を解決可能とも認められない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1、3-7に係る発明の
範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはい
えない。
よって、請求項1、3-7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したもので
ない。
<引用文献等一覧>
1.韓国公開特許第10-2009-0036366号公報
P.5
2.特開2009-136187号公報
3.特開2017-070242号公報
4.特開2016-093144号公報
5.特開2015-037400号公報
6.特表2014-502849号公報
7.香川芳子監修,七訂食品成分表2016,2016年,第82-101頁
(注)法律または契約等の制限により、提示した非特許文献の一部または全てが
送付されない場合があります。
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