【意見書で学ぶ】「多数列挙のうちの一つ」という表現【特願2017-158610】

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【意見書で学ぶ】「多数列挙のうちの一つ」という表現【特願2017-158610】

(21)【出願番号】特願2017-158610(P2017-158610)
(22)【出願日】平成29年8月21日(2017.8.21)
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社

【要約】
【課題】光及び熱に対する安定性がより高められたアントシアニン系色素を含有する着色飲料を提供すること。
【解決手段】着色飲料は、アントシアニン系色素と、リン酸とを含有し、pHが3.5以下である。

【特許請求の範囲】

〇出願時(特開2019-033722)
【請求項1】
アントシアニン系色素と、
リン酸と、
を含有し、
pHが3.5以下である、着色飲料。
【請求項2】
更に、マリーゴールド色素を含有する、請求項1に記載の飲料。
・・・

〇登録時(特許6999328)
【請求項1】
アントシアニン系色素と、
リン酸と、
マリーゴールド色素と、
を含有し、
pHが3.5以下である、着色飲料。
【請求項2】
前記リン酸が、オルトリン酸である、請求項1に記載の飲料。
・・・

拒絶理由と意見書

審査官
審査官

・アントシアニン系色素

・リン酸

・pH3.5以下

を満たす飲料は開示されていて、その文献の中にカロチノイド系色素を添加してもよいことが記載されている。

よって進歩性に乏しい。

出願人
出願人

・引用文献に全く示唆がないマリーゴールド色素を添加する動機付けはない。

・引用文献に記載されたカロチノイド色素は、多数列挙された色素のうちの1つであり、特別にこのカロチノイド色素に着目するような記載はない。

・リン酸系化合物として具体的に挙げられているものは、L-アスコルビン酸等であり、リン酸そのものがリン酸系化合物として挙げられているわけではない。

よって、進歩性を有する。

実際の拒絶理由通知書と意見書の記載(抜粋:下線、太字は著者が付記)

審査官
審査官

拒絶理由通知書
(前略)
●理由2(進歩性)について

・請求項 1-6
・引用文献等 3<特開2010-130992号>

文献3には、N-メチルアントラニル酸メチルを有効成分とする褪色防止剤で
あって、リン酸系化合物をさらに含有する褪色防止剤
が記載され、アントシアニ
ン系色素を含有する飲料に添加しうること、リン酸系化合物等の公知の褪色成分

を組み合わせて用いることで相加的又は相乗的な褪色防止作用を期待できること
アントシアニン系色素として、赤キャベツ色素、ムラサキイモ色素、アカダイ
コン色素等が挙げられること
、乳酸飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料等に使用できる
こと、カロチノイド系色素を添加してもよいこと、加法混色を利用した組合せ飲
料とできること、実施例として、純水に無水クエン酸とクエン酸三ナトリウムを
溶解してpHを3.2に調整し、N-メチルアントラニル酸メチルの4%エタノ
ール溶液と各種食用タール色素を添加して、色素成分含有飲料を製造したこと(
実施例1)、アントシアニン系色素の1つであるぶどう果汁色素を配合し、N-
メチルアントラニル酸メチルの4%エタノール溶液を添加して実施例1と同様に
飲料を調製したこと、が記載されている(特に、請求項1~4、段落0017、
0021、0023、0027、0030~0031、実施例1、3参照)。
 
そうすると、文献3の記載に基づいて、アントシアニン系色素を含む飲料にリ
ン酸系化合物を含む褪色防止剤を添加することは、当業者であれば容易に想到し
得たことであって、アントシアニン系色素の種類は適宜選択し得たものであり、
色素の含有量やpHを調整すること、他の色素と組み合わせることは、当業者の
通常の創作能力の発揮の範囲内である。そして、本願の上記請求項に係る発明が
、文献3の記載から予測し得ないほどの顕著な効果を奏するとはいえない。
(後略)

意見書
(前略)
(4)引用文献3に記載された発明に対する進歩性
 審査官殿によれば、引用文献3には、「N-メチルアントラニル酸メチルを有効成分とする褪色防止剤であって、リン酸系化合物をさらに含有する褪色防止剤」が記載されています。また、具体例として、実施例1には、純水に無水クエン酸とクエン酸三ナトリウムを溶解してpHを3.2に調整し、N-メチルアントラニル酸メチルの4%エタノール溶液と各種食用タール色素を添加して、色素成分含有飲料を製造したことが記載されています。実施例3には、アントシアニン系色素の1つであるぶどう果汁色素を配合し、N-メチルアントラニル酸メチルの4%エタノール溶液を添加して実施例1と同様に飲料を調製したことが記載されています。

 本発明と引用文献3に記載された発明とを比較すると、両者は、アントシアニン系色素を含有するpHが3.5以下である着色飲料であるという点で一致し、以下の点で相違します。

(相違点1)本発明はマリーゴールド色素を含むものであるのに対し、引用文献3に記載の発明はマリーゴールド色素を含まない点
(相違点2)本発明はリン酸を含むのに対し、引用文献3に記載の発明は、リン酸系化合物を含むものの、リン酸を含むとは言えない点。

 上記各相違点について検討します。

 まず、相違点1に関して、引用文献3及びその他の引用文献のいずれを参照しても、「マリーゴールド色素」との記載は見当たりません。少なくともこの点で、引用文献3に記載の発明において、引用文献に全く示唆がないマリーゴールド色素を添加する動機付けは、当業者といえども得られません。

 なお、引用文献3には、段落0027に、「パプリカ色素及びカロチン色素等のカロチノイド色素」との記載があります。よって、審査官殿は、マリーゴールド色素がカロチノイド色素に該当するとの前提のもと、引用文献3記載の発明において、色素として、カロチノイド色素であるマリーゴールド色素を使用することは容易である、とご判断されているものと思料します。

 しかしながら、引用文献3の0027に記載されたカロチノイド色素は、多数列挙された色素のうちの1つであり、特別にこのカロチノイド色素に着目するような記載はありませんむしろ、引用文献3の0027には、「中でも、食用タール色素・・・及びアントシアニン系色素に対して顕著な褪色防止作用を発揮する」との記載があることを考慮すると、当業者であれば、色素として、食用タール色素及びアントシアニン系色素を選択するのが自然であり、敢えてカロチノイド色素を選択する動機付けは得られません。 仮にカロチノイド色素を選択する動機付けが得られたとしても、引用文献3においてカロチノイド色素として例示されている色素は、「パプリカ色素及びカロチン色素」です。カロチノイド色素として、敢えて引用文献3に記載されたパプリカ色素及びカロチン色素とは異なるマリーゴールド色素を選択する動機付けは得られません。

 更には、本発明によれば、マリーゴールド色素により、アントシアニン系色素の安定性が向上する、という効果が奏されます。いずれの引用文献を参照しても、マリーゴールド色素によるこのような効果は記載されておらず、示唆もされておりません。すなわち、マリーゴールド色素により得られる本発明の効果は、当業者にとって予想外の効果であるものと思料します。

 続いて、相違点2について検討します。引用文献3に記載された発明は、褪色防止剤として、リン酸系化合物を含有するものですが、リン酸系化合物として具体的に挙げられているものは、L-アスコルビン酸等であって(段落0017)、リン酸そのものがリン酸系化合物として挙げられているわけではありません。そして、リン酸そのものが褪色防止剤として使用できるという技術常識も存在しないものと思料します。従って、当業者といえども、引用文献3に記載された発明において、褪色防止剤として、リン酸を選択する動機付けは得られないものと思料します。

 加えて、本発明では、リン酸を用いることによって、酸味を抑えたままpHを3.5以下にすることができ、これによって酸味を抑えたままアントシアニン系色素を安定化させる、との効果を奏します。このような効果は引用文献3には何ら記載されておりません。

 すなわち、本発明において、相違点2により奏される効果も、当業者にとって予想外であるものと思料します。

 なお、相違点2に関する違いをより明確にするため、請求項2では、リン酸がオルトリン酸であることが特定されております。この点についてもご留意ください。

 以上説明したように、当業者といえども、引用文献3に記載の発明において相違点1及び2に係る構成を採用する動機付けは得られません。また、相違点1及び2によって本発明が奏する効果は、当業者の予想を超えたものであるものと思料します。従って、本発明は、引用文献3に記載された発明に対して進歩性を有しているものと思料します。

特許査定

補足

「多数列挙のうちの一つ」は、その基準や組み合わせが開示されているとは認めがたい、とする判例があるようです(例えば、平成27(行ケ)10244  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟平成28年9月21日  知的財産高等裁判所)。

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