特許権│裁定と実施権┃83条・84条・85条・86条・87条・88条・89条・90条・91条・91条の2・92条・93条

特許法

裁定による通常実施権には、①不実施の場合の裁定②自己の特許発明を実施するための裁定③公共の利益のための裁定がある。

第八十三条 (不実施の場合の通常実施権の設定の裁定)

特許発明の実施が継続して三年以上日本国内において適当にされていないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を経過していないときは、この限りでない。
 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。

第八十四条 (答弁書の提出)

特許庁長官は、前条第二項の裁定の請求があつたときは、請求書の副本をその請求に係る特許権者又は専用実施権者その他その特許に関し登録した権利を有する者に送達し、相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。

第八十四条の二(通常実施権者の意見の陳述) 

第八十三条第二項の裁定の請求があつたときは、その特許に関し通常実施権を有する者は、前条に規定する期間内に限り、その裁定の請求について意見を述べることができる。

第八十五条 (審議会の意見の聴取等)

特許庁長官は、第八十三条第二項の裁定をしようとするときは、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない。
 特許庁長官は、その特許発明の実施が適当にされていないことについて正当な理由があるときは、通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。

本条一項は、政令で定める審議会(工業所有権審議会)等の意見を聴くことについて規定したものである。請求を棄却することについての裁定をする場合及び請求を容認して通常実施権を設定すべき旨の裁定をする場合のいずれの場合も意見をきかなければならない。後者の裁定をする場合は、八六条二項各号に掲げる事項についてもきかなければならない。しかし、工業所有権審議会は諮問機関であるので、特許庁長官は審議会の意見に拘束されるものではない。なお、本項は昭和五八年の一部改正により、審議会を政令で定めるものとされた。
二項は、通常実施権を設定すべき旨の裁定をする場合の制限について規定する。(中略)。ここにいう正当な理由の事例としては、実施をはじめようとしたところ工場が火災にあい、現在その再建中であるというような場合があげられよう。

工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁

第八十六条 (裁定の方式)

第八十三条第二項の裁定は、文書をもつて行い、かつ、理由を附さなければならない。
 通常実施権を設定すべき旨の裁定においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
 通常実施権を設定すべき範囲
 対価の額並びにその支払の方法及び時期

第八十七条 (裁定の謄本の送達)

特許庁長官は、第八十三条第二項の裁定をしたときは、裁定の謄本を当事者当事者以外の者であつてその特許に関し登録した権利を有するもの及び第八十四条の二の規定により意見を述べた通常実施権者に送達しなければならない。
 当事者に対し前項の規定により通常実施権を設定すべき旨の裁定の謄本の送達があつたときは、裁定で定めるところにより、当事者間に協議が成立したものとみなす。

第八十八条 (対価の供託)

第八十六条第二項第二号の対価を支払うべき者は、次に掲げる場合は、その対価を供託しなければならない。
 対価の弁済の提供をした場合において、その対価を受けるべき者がその受領を拒んだとき。
 その対価を受けるべき者がこれを受領することができないとき。
 その対価について第百八十三条第一項の訴えの提起があつたとき。
 当該特許権又は専用実施権を目的とする質権が設定されているとき。ただし、質権者の承諾を得たときは、この限りでない。

第八十九条 (裁定の失効)

通常実施権の設定を受けようとする者が第八十三条第二項の裁定で定める支払の時期までに対価(対価を定期に又は分割して支払うべきときは、その最初に支払うべき分)の支払又は供託をしないときは、通常実施権を設定すべき旨の裁定は、その効力を失う。

第九十条 (裁定の取消し)

特許庁長官は、第八十三条第二項の規定により通常実施権を設定すべき旨の裁定をした後に、裁定の理由の消滅その他の事由により当該裁定を維持することが適当でなくなつたとき、又は通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明の実施をしないときは、利害関係人の請求により又は職権で、裁定を取り消すことができる。
 第八十四条、第八十四条の二、第八十五条第一項、第八十六条第一項及び第八十七条第一項の規定は前項の規定による裁定の取消しに、第八十五条第二項の規定は通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明の実施をしない場合の前項の規定による裁定の取消しに準用する。

第九十一条 

前条第一項の規定による裁定の取消があつたときは、通常実施権は、その後消滅する。

第九十一条の二 (裁定についての不服の理由の制限)

第八十三条第二項の規定による裁定についての行政不服審査法の規定による審査請求においては、その裁定で定める対価についての不服をその裁定についての不服の理由とすることができない。

第九十二条 (自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定)

特許権者又は専用実施権者は、その特許発明が第七十二条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその特許発明の実施をするための通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
 前項の協議を求められた第七十二条の他人は、その協議を求めた特許権者又は専用実施権者に対し、これらの者がその協議により通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾を受けて実施をしようとする特許発明の範囲内において、通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
 第一項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許権者又は専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。
 第二項の協議が成立せず、又は協議をすることができない場合において、前項の裁定の請求があつたときは、第七十二条の他人は、第七項において準用する第八十四条の規定によりその者が答弁書を提出すべき期間として特許庁長官が指定した期間内に限り、特許庁長官の裁定を請求することができる。
 特許庁長官は、第三項又は前項の場合において、当該通常実施権を設定することが第七十二条の他人又は特許権者若しくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
 特許庁長官は、前項に規定する場合のほか、第四項の場合において、第三項の裁定の請求について通常実施権を設定すべき旨の裁定をしないときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
 第八十四条、第八十四条の二、第八十五条第一項及び第八十六条から前条までの規定は、第三項又は第四項の裁定に準用する。

第九十三条 (公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)


特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる。
 第八十四条、第八十四条の二、第八十五条第一項及び第八十六条から第九十一条の二までの規定は、前項の裁定に準用する。

一項は、協議するための要件について規定する。本条の場合は特許庁長官ではなく経済産業大臣が裁定するのである。本条についてのみ経済産業大臣の権限としたのは、旧法がそうであったこと、公共の利益のため特に必要であるかどうかの判断をしなければならないこと、及び、他の行政機関(たとえば、厚生労働大臣、農林水産大臣等)からの請求が予想されること等の理由に基づく。

工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁

(例題)
特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる。

(答え)〇

R2特実2

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