確認問題
制度の趣旨
特許異議申立制度は、特許付与後の一定期間に限り、広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与し、申立てがあったときは、特許庁自らが当該特許処分の適否について審理し、当該特許に瑕疵があるときは、その是正を図ることにより、特許の早期安定化を図る制度である。
【特許異議申し立てと無効審判の比較】
特許異議申立制度 | 特許無効審判 | |
制度趣旨 | 特許の早期安定化を図る | 特許の有効性に関する当事者間の 紛争解決を図る |
手続き | 査定系手続き (原則、特許庁と特許権者) | 当事者系手続き 審判請求人と特許権者 |
請求人適格 | 何人も可 | 利害関係人のみ |
申し立て・請求期間 | 特許公報発行の日から6月 | 設定登録後いつでも 権利消滅後でも請求可 |
取り下げ | 請求項ごとに可 取り消し理由通知後は不可 | 請求項ごとに可 答弁書提出後の取り下げには相手方の承諾が必要 |
異議・無効理由 | 公益的事由 (新規性・進歩性・記載不備など) | 公益的事由 + 権利帰属に関する事由 (冒認出願・共同出願違反) + 後発的事由 |
審理方式 | 書面審理のみ(例外なし) | 原則口頭審理、書面審理も可 |
複数申し立て | 原則併合 | 原則併合しない |
決定・審決の予告 | 取り消し決定の前に、取り消し理由の通知 | 請求成立の前に、審決の予告 |
決定・審決 | 特許の取り消しもしくは維持 または申し立ての却下の決定 | 請求の成立もしくは不成立 または却下の審決 |
不服申し立て | 取消決定に対して、特許権者は、 特許庁長官を被告として東京高等 裁判所(知的財産高等裁判所)に出 訴可能 維持決定及び申立て却下の決定 に対する不服申立ては不可 | 審判請求人及び特許権者の双方と も、相手方を被告として、東京高等 裁判所(知的財産高等裁判所)に出 訴可能 |
第百二十条の二(職権による審理)
特許異議の申立てについての審理においては、特許権者、特許異議申立人又は参加人が申し立てない理由についても、審理することができる。
2 特許異議の申立てについての審理においては、特許異議の申立てがされていない請求項については、審理することができない。
趣旨
一項は、特許権者や特許異議申立人が申し立てない理由についても職権によって審理を行うことができる旨を規定したものである。これは、特許庁による特許処分の見直しという特許異議の申立制度の趣旨を全うするには、特許権者や特許異議申立人の主張に拘束されることなく、特許異議の申立てがなされた特許について取消理由の有無を職権で審理することができるものとすべきであるからである。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁
二項は申し立てられない請求項については審理することができない旨を規定したものである。特許異議の申立制度は、特許権を設定した後に特許異議の申立てを待ってその審理を行うものであるから、申立ての対象となっていない請求項についてまで職権により審理を行えることとすると、徒に特許権者の地位を不安定にするおそれがあるからである。
(メモ)
特許異議の申し立ての職権審理の規定。制度趣旨:「当該特許に瑕疵があるときは、その是正を図ることにより、特許の早期安定化を図る制度」のとおり、特許性の疑念が生じたものは、しっかり確認することにしている。しかし、巻き添えで別の請求項まで審理することは、特許権者の地位を徒に不安定にするからダメ、という規定。
第百二十条の三(申立ての併合又は分離)
同一の特許権に係る二以上の特許異議の申立てについては、その審理は、特別の事情がある場合を除き、併合するものとする。
2 前項の規定により審理を併合したときは、更にその審理の分離をすることができる。
(メモ)
「特別な事情がある場合を除き」であり、審判官の裁量により併合するものではない。
第百二十条の四(申立ての取下げ)
特許異議の申立ては、次条第一項の規定による通知があつた後は、取り下げることができない。
2 第百五十五条第三項の規定は、特許異議の申立ての取下げに準用する。
趣旨
一項は、取消理由通知があった後においては特許異議の申立ての取下げができない旨を規定したものである。本規定から明らかなように、取消理由通知後は、たとえ特許権者の承諾があっても特許異議の申立ての取下げは認められない。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁
特許異議の申立ては、第三者の自由な意思により行うものであり、その取下げも本来特許異議申立人の意思に委ねられるべきであるが、特許異議の申立てについての審理が進行し、すでに取消理由通知があった場合には、特許異議の申立てがされた特許に瑕疵がある蓋然性が高いといえ、そのような場合にまで特許異議申立人の自由な意思による取下げを認めることは、公益的観点から特許処分の見直しを図ろうとする特許異議の申立制度の趣旨に合致しない。
(メモ)
異議申し立て制度は「公益的観点」を軸にした思想であるが故の規定。特許権者の承諾があっても取り下げが認められないのは要注意。
<比較>特許無効審判の請求の取り下げ時期(155条)
特許無効審判は、審決確定までは取り下げることができる。
当事者間での紛争解決手段と位置付けられているため。
平成27年第9問(〇×)
〇
第百二十条の五(意見書の提出等)
審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し、特許の取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
2 特許権者は、前項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
3 二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに前項の訂正の請求をすることができる。ただし、特許異議の申立てが請求項ごとにされた場合にあつては、請求項ごとに同項の訂正の請求をしなければならない。
4 前項の場合において、当該請求項の中に一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係その他経済産業省令で定める関係を有する一群の請求項(以下「一群の請求項」という。)があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。
5 審判長は、第一項の規定により指定した期間内に第二項の訂正の請求があつたときは、第一項の規定により通知した特許の取消しの理由を記載した書面並びに訂正の請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面の副本を特許異議申立人に送付し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、特許異議申立人から意見書の提出を希望しない旨の申出があるとき、又は特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、この限りでない。
6 審判長は、第二項の訂正の請求が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、又は第九項において読み替えて準用する第百二十六条第五項から第七項までの規定に適合しないときは、特許権者及び参加人にその理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
7 第二項の訂正の請求がされた場合において、その特許異議申立事件において先にした訂正の請求があるときは、当該先の請求は、取り下げられたものとみなす。
8 第二項の訂正の請求は、同項の訂正の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面について第十七条の五第一項の補正をすることができる期間内に限り、取り下げることができる。この場合において、第二項の訂正の請求を第三項又は第四項の規定により請求項ごとに又は一群の請求項ごとにしたときは、その全ての請求を取り下げなければならない。
9 第百二十六条第四項から第七項まで、第百二十七条、第百二十八条、第百三十一条第一項、第三項及び第四項、第百三十一条の二第一項、第百三十二条第三項及び第四項並びに第百三十三条第一項、第三項及び第四項の規定は、第二項の場合に準用する。この場合において、第百二十六条第七項中「第一項ただし書第一号又は第二号」とあるのは、「特許異議の申立てがされていない請求項に係る第一項ただし書第一号又は第二号」と読み替えるものとする。
異議申し立て規定の山場かも。全部大切なので頑張って理解する(この量の暗記は無理)。
趣旨
本条は、平成二六年の一部改正により新設されたものであり、取消理由通知及び意見書並びに特許異議の申立てに係る手続中における特許の訂正の請求について規定したものである。
一項は、取消決定をしようとするときは、審判長は、特許権者及び参加人に取消理由を通知し、事前に意見陳述の機会を与えなければならない旨を規定したものである。これは、審理の結果、特許が取消理由に該当し得るという心証を得た場合においても、特許権者になんら弁明の機会を与えずただちに取消決定をすることは酷であり、かつ審判官にも全く過誤なきことは保証し得ないので、特許権者及び参加人に意見書を提出する機会を与え、かつ、その意見書を基にして審判官がさらに審理をする機会ともしようとするものである。二項は、特許権者は取消理由通知に対する意見書の提出期間内に限り、明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる旨を規定したものである。特許異議の申立てについての審理において取消理由が通知されたときは、その取消理由を回避するために明細書等の訂正を行う必要が生じる場合がある。しかし、その際に、独立して訂正審判を請求できることとすると、無効審判の場合と同様に、訂正審判の審決が確定するまで特許異議の申立てについての審理を進めることができないなど、迅速な審理が妨げられるおそれがある。そこで、無効審判における訂正の請求(一三四条の二第一項)と同様に、特許異議の申立ての審理手続における意見書提出期間内に限り、訂正審判と同一の範囲内で明細書等の訂正を請求できることとし、あわせて、特許異議の申立てが特許庁に係属してから決定が確定するまでの間は訂正審判の請求はできないこととした(一二六条二項)。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁
(メモ)
新設されたこともあり、実務面で生じていた問題を解消するための規定になっている。⇒生じていた問題と対応策(本規定)を意識することで、理解が深まる。
異議申し立てが認められ、設定登録された特許が取り消すということは、対世的に大きな影響を与えるから、特許権者及び参加人の意見を聞く機会を設けたものだと思われる。
また、権利を存続させたい権利者は「訂正審判」で可否ある部分を訂正してくるが、審判を請求されるとその手続きに時間がかかり、異議申し立ての審理も進めることができないため、審査官・特許権者・異議申立人に良いことは基本的にない。よって、異議申し立ての手続きの中で「訂正の請求」という形で訂正を認めることとしたものと思料する。訂正の請求を認めたのに訂正審判を請求されたら意味がないので、異議申し立てが特許庁に継続してから決定が確定するまでの間は、訂正審判を請求できないこととしたと思料する。
五項は、(中略)。旧制度において、取消決定をしようとするときは、平成一五年の法改正以前の旧特許法一二〇条の四第一項の規定により、特許権者及び参加人に取消理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えることとされていた。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕┃特許庁
他方、特許異議申立人は、特許異議申立書を提出した後、審理の途中経過については何ら知らされず、かかる審理手続において意見を述べる機会も保障されていなかったため、特許異議申立人の不満が大きく、特許庁の審理内容に不満がある場合には新たに無効審判を請求しなければならない等、紛争解決の長期化につながっていた。
以上を踏まえ、今般の特許異議の申立制度を創設するにあたり、特許異議申立人の当事者の対応負担を低く保ちつつ、制度の利便性向上を図る観点から、特許権者による訂正請求があった場合、特許異議申立人に対しても、その希望に応じた意見提出の機会を設けるため、当該訂正請求に対し書面での意見提出を可能とする規定を設けることとした。ただし書では、特許異議申立人が意見提出を希望しない場合及び特別の事情がある場合には意見提出機会を付与しない旨を規定している。「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情」とは、迅速かつ効率的な審理の観点から、訂正請求の内容が実質的に判断に影響を与えるものではない場合等、特許異議申立人に意見を聞くまでもないことが認められる場合等をいう。
七項は、複数の訂正請求が並存した場合、先の訂正請求は取り下げられたものとみなす旨を規定するものである。無効審判における訂正の請求に関する一三四条の二第六項の規定に倣い、複数の訂正請求の間に矛盾がある場合には、後の訂正請求が特許権者の意思を最も反映しているという前提のもと、このような規定とした。
八項は、訂正の請求の取下げができる時期と範囲について規定したものであり、無効審判に係る訂正請求における規定(一三四条の二第七項)と同趣旨の規定である。
九項は、訂正の要件、手続、効果及び訂正請求書の方式等について、訂正審判の場合と同様に考えられることから、必要な読替規定を置きつつ、関連する規定を準用した
(メモ)
異議申立人の不満が大きかったことを受けての改正規定。
平成28年第9問(〇×問題)
×
特許法第119条:「特許権についての権利を有する者その他特許権に関し利害関係を有する者は、特許異議の申立てについての決定があるまでは、特許権者を補助するため、その審理に参加することができる。」
平成27年第9問 (〇×問題)
×
120条の5第9項で準用する127条
特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。
第百二十条の六 (決定の方式)
特許異議の申立てについての決定は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。
一 特許異議申立事件の番号
二 特許権者、特許異議申立人及び参加人並びに代理人の氏名又は名称及び住所又は居所
三 決定に係る特許の表示
四 決定の結論及び理由
五 決定の年月日
2 特許庁長官は、決定があつたときは、決定の謄本を特許権者、特許異議申立人、参加人及び特許異議の申立てについての審理に参加を申請してその申請を拒否された者に送達しなければならない。
第百二十条の七(決定の確定範囲)
特許異議の申立てについての決定は、特許異議申立事件ごとに確定する。ただし、次の各号に掲げる場合には、それぞれ当該各号に定めるところにより確定する。
一 請求項ごとに特許異議の申立てがされた場合であつて、一群の請求項ごとに第百二十条の五第二項の訂正の請求がされた場合 当該一群の請求項ごと
二 請求項ごとに特許異議の申立てがされた場合であつて、前号に掲げる場合以外の場合 当該請求項ごと
第百二十条の八(審判の規定等の準用)
第百三十三条、第百三十三条の二、第百三十四条第四項、第百三十五条、第百五十二条、第百六十八条、第百六十九条第三項から第六項まで及び第百七十条の規定は、特許異議の申立てについての審理及び決定に準用する。
2 第百十四条第五項の規定は、前項において準用する第百三十五条の規定による決定に準用する。
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